17話 軍事力
静岡県 御殿場市 東富士演習場
本来ならとっくにやっているはずの富士総合火力演習。国内最大の演習なのだが、転移や戦争によるごたつきにより延期となっていた。
それが今日、12月24日に実施された。
といっても、日本の暦である太陽暦は、転移による気候変動により大幅にズレているため今日の夜23時59分59秒を持って、この世界の統一歴4月1日
へと変わる。その記念も兼ねている。
今日をロストクリスマスと呼ぶ人もいる。
ここに、アレクシア達は訪れていた。
目的はもちろん、日本の軍事力を知ってもらうため。日本の目的は、戦争の回避。これ以上軍事費を上げられると経済がボロボロになりかねなかったのだ。
この演習には陸軍、空軍。さらには連邦加盟国の中国、韓国も参加している。
戦車や、大砲による的の破壊。ペイント弾を用いた各部隊、各国の対戦車戦。航空機の模擬戦に、対地支援攻撃演習。さらには小型ミサイルの命中精度を競うものまである。
さらには市街地戦までカメラで中継され、大いに盛り上がった。
アレクシアは驚愕していた。大砲やミサイルの命中精度と威力に。
どの部隊も、かなりの距離がありながらも命中率が異常に高いのだ。ここまで高いとは想定していない。さらにはこれが日本の、力の1部なのだと。航空機に至っては速すぎる。ヘリというのを見て、武器は驚異であるが遅い為まだ撃ち落とす事は可能だろうと思っていた。
しかし航空機、戦闘機は違った。速すぎる。皇国の銃で弾幕を張っても当てることすら出来ないだろう。もはや、いかなる力を持っても対抗する事すら不可能。羽虫を地にたたき落とすような、慈悲すら与える暇すら与えない圧倒的な暴力。
そう、ドニラス帝国やレミリアのような隔絶した力。アレクシアは再び心に刻む。日本とは決して戦争しては行けない。勝てる勝てないの話では無い。戦争にすらならないのだ。皇国は戦争すれば間違いなく蹂躙される。それを皇国は知らない上に、父上は間違いなくやる気だ。
「流子殿、ニホンとの国交樹立の件、前向きに検討させていただきます。つきまして、少々頼み事を聞いて下さりますか?」
アレクシアは、その後本国、皇国へ帰国した。幾つもの手土産を持ち帰り、本格的に国交樹立を目指して。
◇◇◇◇
皇国 元老院
アレクシアは、皇女だが政治に関する教育をほぼ受けていない。これは男尊女卑思考が強い皇国ならではであり、女は嫁いで、優秀な男を産むことが使命であるという考えから来ている。優秀な子を産むには、その母もまた優秀では無くてはならない。その優秀の定義とは知識量。幼い時から勉強を叩き込まれるが、その中に政治に関するものは含まれない。ノウハウすら教えられないのだ。
こと会議において1番大事なのは何か?自分の意見を通すために必要なことは何か?
それは資料の完成度でも、内容の説得力でもない。大事なのは味方を事前に作る事。要は根回しだ。
しかし、アレクシアはそれを知らない。今まで部隊を率いてこれたのはあくまで皇族という権威があったからこそだ。皇女のわがままが通ったのも皇族だから。しかし、この元老院ではそれが通用しない。
アレクシアは、ニホンから持ち帰った資料。写真や着物、食器を並べ、ニホンとの対立よりも協力を訴えた。しかし、それは誰にも響かない。
「ニホンの凄さというのはわかったよ。で、殿下はそれごときでわが皇国軍が負けると思っておられるので?」
元老院議員 シーザー卿。武闘派だ。
「左様。いかにニホンが脅威だろうがわが皇国の敵では無い!そんな力があるのであらば、なぜ帝国相手にそこまで時間をかけるのだ?首都をそのヘリとやらで攻撃すれば済む話だろう。そのヘリとやらがあるのならばな。」
議員は、誰も皇女を支持しない。それどころか...
「皆の者、あまり娘を責めるでない。きっとニホンに行った時に、誇張したものを見せられたのだろう。それに初めての異国だ。疲れのあまり変なものを見たり、実物を大袈裟に見てしまう事もありうる。もしくは、この議会の空気を良くしようとしただけかもしれん。それならほら、みな笑っておる。」
と笑う天子。
(失敗した。これでは私の言うこと全てが妄言となる。何を言っても駄目だ。私はどこで間違えた?....ああ...そうか。誰でもいい、有力な元老院議員を味方につけて擁護してもらえば良かったのだ。そうすれば少しは耳を傾けてくれたかもしれない。)
アレクシアは自身の失敗に気付いたが既に遅い。それでも、せめて今出来うることをやろう。
「資料をお配りします。読んでいただければ幸いですわ...それでは。」
私は、それだけいい退席した。
アレクシアの政治経験、知識の無さ、皇室という権威の過小評価から来る、自身の客観的立場の思慮の浅さ。その他諸々が原因により元老院での訴えは失敗したが、しかし、その努力というのは誰かを突き動かす事がある。そう、議員の1人はその資料を読み、深く考える。
「ニホン...か...これが事実なら間違いなく皇国の脅威だ。対立するか共存するか。それを考えるにも情報がないのも事実。少し調べてみるか。」
そう、アレクシアの努力は無駄ではなかったのだ...




