14話 異世界の国、ニホン 前編
ここから先しばらく内容を改変、追加等します。そのため話数が変わったり、ストーリーが変更したり、新キャラが追加されたりましす。
皇国 皇室
アレクシアは、蒼い鎧を纏いながら、父である天子に直訴する。
「何故わらわがニホンなどという辺境に赴かねばならぬのか?」
アレクシアは、幼少期から立派な兵士になるべく、訓練していたのだ。
自分達だけの独立組織、キャハバニシュキル
それは、皇国神話に出てくる最強の神にして騎士、ベルシの持つ、虹色の薔薇の剣を指す。最強の部隊。最強の組織。そう思っていた。しかし、周りの人達は皆こう言う。
「アレクシア殿下のお遊び」「ごっこ遊び」「天子様が許してくださってる、大きなおままごと。」
彼女はそれが耐えられなかった。彼女にとってこのキャハバニシュキルは誇りなのだ。
神話の騎士のように誇り高く生きたい。名誉を飾りたい。
しかし、そんな機会は訪れず、今初めて来たチャンスがこれである。
「うむ。ニホンという国は、わしも知らんのだよ。元老院も知りたがっておる。そこでアレクシアの出番だ。ニホンに赴き、ニホンを調べてこい。軍事力から文化まで。キャハ部隊と一緒でも良いぞ?」
(わらわは、ニホンという蛮族を知らない。なるほど、辺境の蛮族に送るということはわらわは人質か、もしくは生贄か。父上はニホンと戦争したがっておる。皇国がこれまでやった開戦事由としての常套手段にしてつまり、わらわは、ニホンとの戦争の生贄というわけか。クソッ)
しかし、父上は天子。天子に逆らう事は許されない。例え娘であっても。
「分かりました。その命令、謹んでお受けいたしますわ」
精々足掻いて生きてやる。ここでわらわは死ぬ訳にはいかぬのだ。騎士として生きると決めているのだ。
◇◇◇◇
バハルス共和国 ポツダム
アレクシアを中心としたキャハバニシュキル部隊長含めた計6人の使節団は、今、ポツダムに来ている。
ここまでは馬車できた。バハルス共和国の馬車はやはり遅い。皇国ならば、乗り心地は酷いがこの馬車より早く到着できた。
はやり所詮蛮族の国。こんな程度だ。
そう、思っていた。
ニホンのクルマに乗るまでは。
細い台形みたいな形。
黒塗りの、綺麗に光り輝くツヤ。
大きな4本のタイヤ。しかも見た目から恐らくゴム。
中は、まるで皇室のような空間。
想像を絶するこの乗り物にわらわは驚愕した。
「これは...」
「これはタヨダ社が誇るセンチュリーです。私もこういう場でしか乗ることを許されない車でして。」
とニホンの外交官の流子はいう。
予定ではこれに乗って、ニホン領スズネ岬にまで行くとの事。
これには日本側の事情があった。
まだ鉄道線はほとんど引けておらず、突貫で作った高速道路がポツダム、スズネ岬まで通っていたのだ。
海路は、民間船の航路の安全が未だに確認されておらず危険。
空路は、王国の上空を非常時を除き、無許可で通ってはならず、外交特権で許された道路通過くらいしか移動ルートがなかったのだ。
「ここからスズネ岬までおよそ6時間程度です。途中いくつかのサービスエリアにて休憩をとります。」
「え?6時間だと?」
わらわの国の乗り物でも最短で3日はかかる距離だぞ。聞いた距離を大まかに計算したらだが。
なんて速度だ。と驚くのはまだ早かった。
アレクシアはこのあとにも驚く事となる。
◇◇◇◇
リグルード王国王都 近郊
ここにポツダム ー スズネ岬の高速道路であるマウストラ高速のSAがある。ザウストラSA。
王国式建築の、バロック建築とほぼ同じ様式の建物。
王国が威信をかけて建築した建物だ。
王国に車はほぼ走っていない。しかしこの高速道路を重要視している事がよくわかるくらいに力を入れていたのだ。その理由は賢王の方針であった。
「いつか、近いうちに我が国でも日本のような自動車が走る事になる。今のうちに玄関口でも整えておくべきであろう。」
その予感は5年後に当たることになるのだがそれはまた別の話。
アレクシアはこの光景に驚いていた。
人の多さもだが、大量の樹木や石材を運ぶトラック。
変わった車輪をつけた巨大な車。いや、車の形をした何か。馬車、いや、皇国の力ではこの量の資材を運ぶ事は船以外できない。何より、この建物も含め、短期間でバハルス共和国まで伸びるこの道路を作る事はできない。
それもそうだ。皇国でもこの規模のSA、いや高速道路はない。発想すらなかったのだ。皇国には車は存在する。しかし...技術も未発達であり、馬力も、乗り心地も耐久性も何もかもが欠けていた。
天子には、賢王ほどの柔軟さも、未来を見通す力も持っていなかった。天子にとって自動車とは、車とは、馬車よりも乗り心地の悪い乗り物という認識だったのだ。
それはアレクシアも同じであった。故に、皇国で車の卵が育っていても、それを育てようとはしなかった。
そして、アレクシアはこの光景を見て確信した。
皇国にニホンのような車は必要であり、それを活用するためにも高速道路は必要であると。
(ニホン、認識をまた改めないとね。ニホンを舐めるのはやめるわ。)
アレクシアはそのまま、流子らと共に建物の中に入る。
流子は元気にいう。
「実はここで食べるご飯は全部経費で落ちるから何でも好きなものを食べてね!長旅だし、ご飯も兼ねて。」
(流子、短時間だけど貴方のことをかなり知り得たわ。物凄くいい子だわ。)
アレクシアは、王国名物のポールを使ったフルーツ料理を堪能した。
◇◇◇◇
翌朝、建物内にある宿泊施設を借りて出発。
流子が何やら部屋を買ったとかで揉めているがわらわには分からぬ。
予定よりかなり遅れて出発。
王都を抜け、王国の沿岸部を走り続ける。
景色は非常にいい。
しばらくすると森の中を通り始めた。
傍に鉄道線が引かれている。
流子の解説によると、現在ニホンは、王都まで鉄道線を引いている途中だという。その資材運搬も含めて先に高速道路を建築したのだと。しかし、この高速道路も仮の為、後々補強や修正もするのだと。
(かなり焦っておるな。高速道路とは、車が快適に走れるよう、真っ直ぐになるように作られることが多いと聞く。実際、王都から共和国までは真っ直ぐが多かった。しかし、ここはどうじゃ?先からクネクネと曲がりすぎだわ。)
アレクシアの感覚は正解であった。
日本は、工期を短くするあまり、トンネルを掘らないようにするためにクネクネと曲がってしまうような道路設計となってしまったのだ。後々連続オメガカーブとか、魔の無限カーブと呼ばれる走りスポットになるのだが。
森をぬけ、スズネ岬に着いた。堀と土の壁、その上にあるフェンスに囲まれた町。碧天町。
日本初の異世界の領土であり、異世界に展開する軍隊の中心地。
(何あの鉄の車、そして、あの空飛ぶ鉄の塊は?)
アレクシアは見たことがなかった。戦車やヘリを。
しかし、彼女はそれがどれだけ脅威かを瞬時に理解した。
(あれは、わらわの軍を持っても破壊は不可能であろう。いや、大量の爆薬を使えば1台、2台は破壊できる。しかし、あれが大量にあるのであれば止めるのは不可能。そしてあの空飛ぶものは落とせるのか?わらわの国の技術力で落とせるのか?不可能ではないか?)
アレクシアは、軍事の才能がある訳では無かったが、皇国の兵器は知識として知り尽くしていた。だからこそ、皇国にヘリを撃ち落とせる兵器がほぼ無いことを直感で感じとったのだ。さらに、制空権を失った軍隊の脆さも、ドニラス帝国との戦争の教訓として習っていたので、彼女は悟ってしまったのだ。
日本という国と皇国とでは、とてつもない軍事力に差がある事を。
(わらわは、根本的に考えを改めねばならぬようだ。ニホン、その脅威度は計り知れない。皇国の為にも、少しでも情報を持ち帰ろう)
アレクシアは日本に対する認識を改め、そして情報を少しでも多く持ち帰り、日本との戦争を避けようと決心した。