11話 皇国
ハーデンフェル皇国参謀本部では連日激論が続いていた。
理由は単純だ。
「クソ、なぜバハルスは負けたんだ!」
野砲や鉄砲の輸出、そして使い方を指導していたのだ。目的は簡単。バハルス帝国を使って大陸を統一させ、大陸の利権をハーデンフェル皇国が頂くというものだ。
一切の犠牲を出さずに大陸進出するのがハーデンフェル皇国の目的だったのだ。かりにバハルス帝国が歯向かうならその時は潰せばいい。それだけの力をこの国は持っている。しかし、それは達成できなかったのだ。
「調査の結果、ニホンの介入によりバハルス主力軍が大規模包囲され、壊滅したと。」
バジル線を越えたバハルス軍は、空挺降下してきた日本軍とバジル線に沿って進軍してきた王国軍特殊部隊により包囲、殲滅された。主力軍が壊滅し前線司令部も壊滅。防衛戦でも敗北しポツダム陥落と同時に降伏した。
「空挺降下か。考えてもいなかったな。非常に有効な手段だな」
「ええ。我々も空挺降下を使った包囲戦をしよう。我々も航空機はあるのだ。奴らだけが航空機を持っているなんて思うなよ。
なぁディルハン殿」
ディルハン 第二次バーン包囲を成功させ、4倍の敵兵を殲滅した将軍だ。
「ニホン、我々の想像より遥かに強い可能性があるぞ。航空機があるんだ。それなりに軍事力もある。それに敵はニホンだけではない。人口の多いチュウゴクやリグルード王国もある。それに我が国は海軍国家ではない。そうだろうワンポ将軍」
ワンポ将軍。海軍大将だ。
「現在の我が国の海軍は超大型戦艦4隻、戦艦25隻、重巡洋艦28隻、軽巡洋艦56隻、駆逐艦80隻と空母2隻、潜水艦100隻だ。現在空母を4隻建造中だが戦艦は半分が旧式だ。ニホンの海軍力が不明な為、制海権が取れるかすらわからん。」
ハーデンフェル皇国参謀には慎重派と急進派がいる。その内ワンポやディルハンは慎重派だ。
「ほう。天子様の海軍が最近転移した国如きに負けると?」
そう言うのは急進派の陸軍、ハイパー中将だ。
「いや、天子様の軍だから無敵では無い。我が国は1度ドニラス帝国との戦争において敗北しているのだぞ。戦争を起こすのは簡単だが、もし敵の実力を見誤った時は終わりだぞ。」
300年ほど昔、この世界に転移した皇国はドニラス帝国の軍事力を調べもせずに宣戦布告し、敗北した。この衝撃は大きく、しばらく皇国は諜報活動をしていたのだ。
「諜報活動しようにもニホン本土に入れないんだぞ?島国は入りにくくて嫌だ!だがな、スズネ岬にあるニホン人街、ヘイセイに潜入したスパイによると我が国でも売っている品が多いとの事だ。それに奴らの武装は主に小銃、小銃なんざ機関銃の敵じゃねぇ」
この時皇国製の小銃、アパレルは複雑過ぎた為、故障が多すぎて採用される事は無かった。
そこため小銃は機関銃より壊れやすい。それが常識となってしまったのだ。
さらに、機関銃より小銃の方が生産コストが高い為、機関銃が採用されていたのだ。
「皇国のこの重い機関銃をどうにかしてくれれば有難いんだが」
◇◇◇◇
皇国皇室
皇国は皇帝と同じ意味である天子をトップとし、天一族を中心とした国だ。その天子である、リーゼロッテ=ティー=パーマは、元老院議長と相談していた。
「参謀本部ではディルハンのみ、日本との戦争に反対しております。元老院でも4割ほどこの戦争に反対、もしくは慎重になっております。」
「慎重派か。 うむ。ディルハンはともかく、元老院4割が慎重派とは、無視出来ぬな。何か開戦に持って行けるような事件が必要だな」
「ええ。ですが、元老院議員は皆、ニホンという国を知らないからこそ慎重になっておるのです。先の戦争と同じ轍は踏まないと持ち切りで。」
先の戦争、ドニラス帝国との戦争。あれは、ドニラスを知らずに戦争をしかけ、そして敗北した。ドニラスを知っていれば戦争なんて仕掛けなかっただろう。なるほど。元老院が慎重になるのもわかる。
天子は名案を思いついた。
「そうだ。アレクシアをニホンに送れ。」
アレクシア。皇国第二王女。女性に継承権は無いため、失っても損は無い。蛮族ならきっと人質にして殺すだろう。それなら、それを大義名分に掲げる事も出来る。
「なるほど。ニホンの力を理解出来る上に、万が一があれば開戦事由にもなりますな。ニホンの使節が来ているので早速提案してみましょう。いえ、させましょう」
こうして、アレクシアの日本派遣が決まった。
◇◇◇◇
神聖レミリア帝国 元老院
「えーこれが我が国のスパイが調べた結果判明したニホンの力です」
魔法により映された映像はリグルード王国近海にいた日本第8艦隊と中国第2艦隊、王国新式艦隊との合同軍事演習のものだ。
「うむ。中々大きいではないか。だが、ニホンとチュウゴクの主砲が小さ過ぎるな。この大きさでは我が国の航空艦隊を潰すのは不可能だな」
レミリア帝国の航空艦隊は、木造だが魔法により鋼鉄並の強度になっている。そのため、口径の大きい主砲でなければ貫く事は出来ない。それはドニラスが証明している。
「こんなちっぽけな主砲を持つ国とか、脅威でもない。」
でかい口径をもち、でかい船ほど強い。これがこの世界の共通の価値観だ。それで見ると日本の船は、あまりにも小さかったのだ。
◇◇◇◇
中国 北京
首相 毛沢 近平は、ストレスで禿げてしまった頭を撫でながら言う。
「ようやく好景気になったわけか。」
この前の転移の時、中国西部、南部のほとんどの土地を失った為中国経済は日本より最悪な状況に陥ったのだ。
農耕地帯、工業地帯の殆どを失ったのだ。しかし、近平の政策によりなんとか持ち直したのだ。
それだけでは無かった。先週から日本が新型無人爆撃機 雷光3000機の発注を受けたのだ。このおかげで失業者も減り、工場は賑わいをみせ、経済も回っている。実にいいことである。
しかし、
雷光は5機もあれば小さな街を灰に変えれる、長距離大型爆撃機なのだ。それを3000機。一体なんの為なんだろうか?想像は出来るが、したくない。戦争にだけは巻き込まれたくない。それが近平の思惑だ。
中国陸軍も、空軍も海軍もかなり失った。ほぼ壊滅だ。海軍はまだいい。主力艦隊と第二、第三艦隊はたまたま北京沖に停泊していたから。それ以外の艦隊は全て失った。
陸軍は、総数の6割を失い、空軍は8割の航空機を喪失。
再建途中なのだ。とても戦争で活躍出来る状態では無い。ゆえに、日本の戦争に巻き込まれる訳にはいかない。
「日本には悪いと思ってるよ。しかし、我が国としての最善策をとるとなるとね。」
近平の髪がまた、抜け始めた