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私の出生について思いもしなかった事がわかったせいで、日記帳をめくる指が震えるけど、本当の事を知るためには先を読まないと。
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東暦1028年1月14日
メリィ 18歳
レイア 0歳
あ〜、レイアたん可愛い。いつ見ても可愛い。夜泣きしている顔も可愛い。ほっぺをつんつんしてあげると笑ってくれる笑顔も可愛い。
レンスとレイアたんの取り合いをしたりするけど、レイアたんは譲らないんだから!
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「……お母様」
私は思わず顔を手で覆ってしまった。なんだか恥ずかしい。でも、それ以上に嬉しかった。私の記憶の中だと笑ってくれる事はあっても、私の事を愛してくれると感じた事は無かったからだ。
それからしばらくの日記は私を取り合うお母様とレンスさんの事ばかり書かれていた。日記を見る限りはレンスさんはとても優しい人のようだ。なんだかんだ言いながらも、最終的にはお母様に譲っているから。
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東暦1028年10月11日
メリィ 18歳
レイア 1歳!!!
うふふ……ふふふふふふっ!!!
今日は! 今日はついに愛しい愛しいレイアちゃんのお誕生日!!!
この子が生まれてからもう1年も経つのね。この子が生まれてから毎日が幸せな日だ。たまに、子供を育てるのが辛くて捨てる人もいるなんて話を聞く事があるけど、私はそんな事は思わない。
この子のおかげでレンスと楽しい日々が更に色がついて輝いているのだから。
今日は精一杯祝っちゃうからね!
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私は涙が出そうになるのを堪えながらページをめくっていく。私は初めからお母様に嫌われていて、生んだ事を後悔していないとわかっただけでも、この日記を読んで良かったと思える。
色々と驚いた事はあるし、まだ、何かあるのはわかっているけど、それでも、読まなくてお母様の事を怖いと思ったまま過ごすのは嫌だったから。
それから、またページをめくって日記をパラパラと読んでいく。内容は似たような事が書かれている事が多いけど、毎日が幸せなのは文章から伝わってくる。
しばらくペラペラとめくっていると、今までの幸せそうな日記とは変わった日記が見つかった。これは……
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東暦1028年12月27日
メリィ 19歳
レイア 1歳
今日から数日間、レンスがお父さんたちのところに帰っている時に限って、嫌な事が起きる。
なんなのよ、あの男。突然人の家に入ってくるなりして、自分の女になれなんて。伯爵の息子だがなんだか知らないけど、人妻にそんな事言うなっていうのよ。
当然突っぱねてやったけど、ニヤニヤニヤニヤと気持ちが悪かった。
あの男が来るなりレイアちゃんは泣き出しちゃったし。
はぁ〜、はやく帰ってこないかな、レンス
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「これって……」
この伯爵の息子って……絶対にお父様だ。私は少しドキドキしながら次のページをめくると、固まってしまった。次のページは、何かに濡れたようにクシャクシャになっていたからだ。
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……なんでこんな事になってしまったのだろう……
私はただ、レンスとレイアと幸せに暮らしたかっただけなのに。
今でも、あの男に飲まされた薬が疼く。頭がぼーっとして、頭の中に靄がかかったみたい。
……怖いよ、レンス
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……あの日から男はレンスがいない時を狙って何度もやって来た。何回も何回も殺そうと思った。だけど、レンスには手練れを送って、レイアもいつでも殺せると言われてしまった私には、どうする事も出来なかった。
男が言うがまま薬を飲み、男の相手をする。日に日に体が汚れていくのがわかる。だけど我慢しないと。レンスとレイアを守るためにも。レンスには心配をかけたくないから何も話さない。何とかして、男をどうにかしないと。
最近、男に飲まされている薬のせいか、昔の事を思い出せなくなって来た。何か思い出そうとする度に靄がかかったようになる。レンスと楽しかった日々が……
それに、時間が経つにつれて、喉が乾いて、物凄く薬を飲みたくなる。薬の副作用……中毒性のあるものを飲まされていたみたい。
これが我慢出来なくなった時、私はどうなってしまうのだろう……
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……もう駄目かもしれない。
日に日に、薬を欲する欲望が強くなっていくのがわかる。今はギリギリ我慢しているけど、限界を超えると、気が狂ったように暴れてしまう気がする。
レンスとの楽しかった記憶も、今ではほんの僅かに残っているだけ。
それどころか、今ではあの男が来るのを待っている時さえある。はぁ〜、早く来ないかな。
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……濡れたページはたぶんだけど、涙で濡れたのだと思う。そのページや後にも続く日記を見て私は、声を発するどころか、呼吸すら忘れてしまうほどだった。
……なんなのよこれ。こんな酷い事が許されると思っているの!? 私は気がついたら涙を流していた。お父様はどうしてこんな酷い事を平気で出来るのよ!
お母様はレンスさんに迷惑をかける事は出来ないと1人で抗っていたのだろう。だけど、お父様に飲まされた薬のせいで、途中から思考がめちゃくちゃになっている。
前半は謝っているのに、後半でお父様や薬を求めたりと。日記を読んだだけでお父様に壊されていくお母様の姿が思い浮かんでしまって、私は涙を止める事が出来なかった。
それから、毎日書かれていた日記は日に日に書かれなくなっていって、途中からは全く書かれなくなっていった。
お母様が最後に日記を書いた日は、レンスさんと別れてから1ヶ月もした後だった。最後の日記はレンスさんに対しての謝罪ばかりで、とても見れるものじゃなかった。
この日記が入っていた箱はその時に用意していたものみたい。もう自分が自分じゃ無くなっているのを自覚していたお母様は、自分じゃなくなった後に見つかったら、確実に捨てられる物をこの箱の中に入れていたみたい。それが、私が見つけるまでずっと隠していたみたい。日記にも隠した事を書いてあったし。
……今まで見つからなかったのは、お父様に依存するお母様がほとんど部屋の掃除なんかをしなかった事と、侍女たちもあまりお母様に関わろうとしなかったのが原因だろう。殆どこの部屋に入られる事は無いし、入ったとしても、要件が済めば直ぐに出て行く。
それに、お母様は自分の物を触られるとヒステリックに叫ぶ事があったのも原因だろう。そのせいで、だれもお母様の物を触らなくなったから。
でも、そのおかげで私がこの箱を見つける事が出来た。この日記のおかげで私は1つの決心が出来た。必ずこの家から出る事。そして……この日記をレンスさんに届ける事を。




