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こちらは2話目になりますので、前話がまだの方はそちらを先にお読みください。

「……ここは」


「あら、起きたのね。おはよう、レンス」


 見覚えのある天井。懐かしいベットの感触に、そして、懐かしい優しい声。ぼーっとしながらも声のした方を見ると、そこには笑みを浮かべたメリィが僕と同じように寝転んでいたのだ。あり得ない出来事に声も出す事が出来ずに驚いていると


「もう、何鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしているのよ。ほら、起きましょう。向こうでレイアも待っているわよ」


 メリィが指差す方を見ると、扉の隙間からこちらをジッと見る少女の姿があった。僕とメリィの大切な娘であるレーカ……いや、レイアだった。


 レイアは僕が気が付いたのを見て部屋へととてとてと入ってくる。ただ、僕の記憶の中にある姿より幼かった。年齢も6歳くらいだろう。


 うんしょ、うんしょと頑張ってベッドに乗って来たレイアはにぱぁと愛らしい笑みを浮かべて抱きついて来た。


「おとーさん、おはよっ!」


「あ、ああ、おはよう」


 元気よく挨拶をして来るレイアに僕は戸惑いながらも挨拶を返す。ただ、その姿が不自然だったのがわかったのか、レイアは僕の顔を見ながら首を傾げる。


「ほら、起きてあなた。今日の朝ごはんはレイアも手伝ってくれたのよ」


「そーだよ! おとーさん、早く、早くっ!」


 メリィがそう言いながら部屋を出て行き、レイアが僕の腕を早く行こうよ、と引っ張る。その姿に自然と笑みが出た僕は、レイアの頭を優しく撫でてレイア抱き上げる。僕の首へと抱きついて来るレイア。あぁ、幸せだ。


 色々と考える事はあるけど今はこの幸せを味わおう。レイアを抱えて部屋を出ると、テーブルの上に朝食を並べるメリィ。レイアをメリィが座る椅子の隣の椅子に座らせて、僕はメリィの向かいの席に座る。


「おとーさん、おとーさん! ええっと、ええっとね! これ、おかーさんと一緒にもりつけたの! こっちは私が千切って!」


 メリィを待っている間、レイアが自分が手伝った事を楽しそうに教えてくれる。その事に僕が「偉いなぁ」と頭を撫でてあげると「にゅふふんっ!」と嬉しそうに笑みを浮かべた。


 それから、3人で朝食を食べ終えて、メリィは家事を、僕はレイアの相手をする。気がつけば昼になり、レイアが昼寝した頃に森に行って狩りをする。


 取れた獲物を店などで売って家へと帰ると、玄関では僕の帰りを待っていたレイアが飛び出して抱きついて来る。レイアを優しく抱きしめてその場でぐるぐると回ってあげると、きゃあきゃあと喜んでくれる。あぁ、可愛い……。


 それから夕食をみんなで食べる。その時に僕がいなかった時の事を楽しそうに話してくれるレイアを僕とメリィがニコニコとしながら聞いて、夕食が終わると、就寝の準備だ。


 レイアをベッドに連れて行って眠るまで絵本を読んで上げる。初めは楽しそうに聞いていたけど、いつの間にか眠ってしまっていた。その寝姿も天使のようでとても可愛い。


 レイアが眠った後はメリィとの時間だ。夜が深くなるまでメリィと愛し合って眠る。


 なんて理想的な生活なのだろう。僕がずっと望んで夢にまで見た暮らしが目の前にあった。もうずっとこのまま生きて行きたいと思う。思うのだけど……これが夢だともわかっていた。


 これは僕が二度と手に入れることの出来ない夢なのだと。僕の願望でしかない夢だと。それに、まだ、やり残した事が、話さなきゃいけない相手がいる。今もずっと僕の事を呼んでいる彼女を。


 僕は隣で眠るメリィの髪を撫でる。もうこの夢から覚めたら二度と会えないだろう。それでも、戻らないといけない。ここは僕の現実じゃないから。


 一言、メリィにごめん、と謝ると、少しずつ意識が薄れていくのがわかる。最後に君に会えて良かったよ、メリィ。


 少しずつ目の前にいる愛した女性の姿が消えて行き、それに反して僕を呼びかける声が大きくなって行った。


 ◇◇◇


「……こ……こは……」


「お父さん!!」


 長い長い夢から覚めて初めに目に入ったのが、夢の中で出会った彼女よりかなり大きくなったレイアの姿だった。ただ、目には溢れても収まりきらないほどの涙を溜めて流していた。


 僕に抱きついて涙を流すレイアを見て思わず頭を撫でそうになるけど、10年以上も彼女を放って生きてきた僕だ。今更彼女に触れるなんて事は許されない。


 僕がつい伸ばしてしまった手を宙に彷徨わせていると、扉が開かれる。入ってきたのはシオンにレリック、それからモーズにフェルナンドだった。


 モーズがシオンたちに何かを言うと、シオンたちはレイアを連れて外に出ようとする。レイアは嫌々と顔を横に振るけど、モーズが説明すると、渋々といった風に部屋を出ていった。


 残ったのは僕とモーズとフェルナンドだけだ。モーズとフェルナンドは側にあった椅子に座る。2人はホッとした顔で僕を見てきた。


「ようやく目が覚めたか、馬鹿野郎」


「全くだ。ずっと寝ておって」


「……どれぐらい寝てたのかな?」


「1月と少しだ。切り傷に全身魔法をくらったせいで、中々熱が引かなくてな。何度か危なかったんだからな」


 ……そこまで酷かったとは。でも、今でも全身怠くて、起き上がるのも億劫な事を考えると、嘘では無いだろうし。


「僕が気を失ってからのことは?」


「お前が殿として残ってくれた後、俺とレイアたちは何とか門のところまで逃げる事が出来た。そこで、来てくれたフェルナンドと入れ替わり、フェルナンドは屋敷に兵を連れて突撃してくれた。気を失ったお前を助けて、伯爵の命を狙ったアルミオン商会の会長とその仲間たちは捕らえられたのがあの日の出来事だ。

 あの屋敷の中で生き残っていたのは伯爵と数人の使用人、そして、レイアたちだけだった」


「生き残った伯爵は俺様が商会長を連れて陛下の前に連れて行った。そこで、商会長が集めた証拠を全て陛下にお見せした。

 結果、陛下は伯爵位及び今まで集めた資産の剥奪に伯爵の死刑、商会長の死刑に罰金の支払いで、この度の事件を収めることにした。伯爵に関わった貴族たちも次々と暴かれていっているところだ。商会長に関わった者たちは奴隷になった」


「これがお前が気を失ってからの顛末だ」


「……そうか。レイアたちの処遇は?」


 ロザートさんたちのことも気にはなったけど、それよりもレイアたちの事だ。もしかしたら、親族という事で同じ様に罰を受けるかもしれない。


「お前の娘たちの事は大丈夫だ。俺様が無関係だと陛下には話しておいたからな」


「レンスには悪いと思ったが、彼女にはお前との関係は話てある。まあ、向こうも気が付いていたみたいだがな……話すんだろ?」


「うん。これだけは絶対に避けては通れないからね。ごめんね、気を使わせちゃって」


「良いさ。俺たちの仲だろう。行こうか、フェルナンド」


「ああ。レンス、この宿屋は俺様が貸し切っているから時間を気にする必要は無いぞ。気の済むまま話すと良い」


 2人はそう言いながら部屋を出て行く。本当に、またパーティーメンバーの彼らには頭が上がらないよ。2人に感謝をしながら待っていると、ゆっくりと開けられる扉。そこから、恐る恐る覗くレイア。夢の中のレイアを思い出すな。


 僕が微笑んであげると、ゆっくりと部屋の中へと入ってくる。そして少し逡巡してから椅子へと座るレイア。


 まだ緊張しているのか、顔を下に向けたまま沈黙が続く。僕も何かを話さないといけないと思いながらも、何から話せば良いのかわからなくて黙ってしまった。それがまた、この沈黙に影響を与えている。


 しばらく黙り込んだままだったけど、このままじゃいけないと思った僕はレイアを見る。改めてレイアを見ると、大きくなったなぁと実感する。僕の記憶にあるのはまだ赤ん坊の頃のレイアと、夢で会えた小さなレイアの姿だけだ。


 もう二度と会えないと思っていた娘に会う事が出来て涙が出そうになるけど、今泣くのは駄目だ。しっかりと話さないと。でも言葉が……。そう思っていたら、レイアは何かを取り出して僕に渡して来た。これは……僕は懐かしい表紙に思わず目を見開いてしまった。だってこれは


「それはお母様の日記帳なの。お母様が亡くなった後に見つけて……」


 レイアの言葉を聞きながら僕は日記帳をめくっていく。メリィが書き綴った日記を見ていると、もう我慢なんて出来なかった。


「……私、この日記を見るまでお父さんの事を知らなくて。それで、ずっとあの家にいて会いに行く事も出来なくて……」


「レイアは何も気にする事は無いよ。悪いのは全部僕だ。彼女の事を信じられずに、15年も放置した。僕が少しでも彼女の事を信じて少しでも話す事が出来ればもっと違った結果になったと思う。僕がちゃんとしていればメリィだって……」


 いや、こんな事を今更言っても仕方がない。どう後悔しようとももう戻る事は出来ないのだから。そんな事よりもこれからの事を考えないと。僕は首を何度か振ってからレイアを見る。


「レイア、これからの事なのだけど」


「うん」


「レイアたちの事はモーズとフェルナンドに任せようと思う」


「えっ?」


 僕の言葉に驚くレイア。何か言おうとするのがわかったけど、僕はそのまま続ける。


「レイアたちはあの襲撃にも耐えるほどの実力をもっているから、もっと鍛えればかなり上の自由兵になる事が出来るよ。それから……」


「ちょ、ちょっと待って! お、お父さんはどうするの?」


「……僕は怪我が治り次第この街を出ようと思う」


「……それは私がいるから? 嫌だよ。せっかく会えたのに、お父さんと離れるなんて嫌だよ!」


「レイア……」


「ずっとお父様の……伯爵の家で育って来た私の事なんて見たく無いかもしれない。だけど、私は……」


「違うんだ、レイア。レイアは何も悪く無いよ。さっきも言った通り僕が悪いんだ。そんな僕がレイアの側にいる資格は無い。だから僕は……」


 出て行く、と言おうとした瞬間、どしっと胸元に衝撃が走る。下を見ると、レイアが僕に思いっきり抱き着いて頭を押し付けていた。


「資格なんて関係無いよ! そんなこと関係無く私はお父さんといたい! それじゃあ駄目なの?」


「レイア……僕はレイアを15年も放っていたんだよ? そんな父親失格の僕なんか側にいても」


「それがどうしたのよ! これからそれ以上の日々を重ねていったらいいじゃない! 私はお父さんが何と言おうと絶対に離れない! 離さないから!」


 力強く抱き着いて離さないレイア。はぁ、全く僕は。娘にここまで言わせておいて、自分が逃げるわけにはいかない。さっきは出来なかったけど、僕はレイアの背に腕を回す。そして、力強く抱きしめる。


 僕とレイアはそれから言葉を交わすことなく、泣き疲れて眠るまで泣き続けたのだった。


 ◇◇◇


「お父さん、早くっ!」


「ちょっと待ってくれよ、レイア。久し振りに長い時間歩いたから少し疲れちゃったよ。ありがとうね、シオン、レリック。荷物持ってくれて」


「いえ、良いんです。これぐらいさせてください!」


「そうですよ」


 額から流れる汗を拭きながら僕は先を歩くレイアの後をついて行く。僕の左右には花を持つシオンと、他の荷物を持つレリックがいる。


 僕が目をさましてから1ヶ月が経った。ようやく歩けるほどまで回復した僕が1番初めにしたかったのはメリィの墓参りだった。


 お墓は元伯爵家から少し離れたところにある墓地にあるという。レイアも行くのはこれが初めてなのだとか。


 生き残った使用人から墓の場所を聞いたレイアが、その場所をメモした紙を持っているため先を歩いているけど、少し心配だ。まあ、レリックたちも知っているみたいだから大丈夫だろうけど。


 それからしばらくすると、墓地が見えて来た。門をくぐり中に入ると、墓地が沢山並んでいる。その中で教えてもらった場所へと向かうと……メリィの名前が書かれた墓地があった。


 誰も手入れをしていないのか汚れている墓地。これは酷いな。道具を持って来ていてよかった。


 まずはみんなで手分けして掃除する事にした。レリックが汲んでくれた水を使いながら汚れを落として行く。レイアは勿論の事、シオンも一生懸命手伝ってくれた。


 1時間ほど掃除して綺麗になったら、今度はお供え物を置いて行く。まあ、あるのはメリィが好きだった花と少しの食べ物にお酒ぐらいなのだけど。


 全てをお供えしてから僕は目を閉じる。その時、ぎゅっと握られる右手。右側を見るとレイアが僕の右手を握っていた。


 それから、僕たちは心の中でだけど今までの事を全てメリィに話す。この15年近くの事や、事件の事。そして、これからの事を。


 2人で手を繋ぎながら目を瞑っていると、僕たちを包み込むような暖かい風が吹く。その風に思わず目を開けてしまった僕とレイア。


 2人で顔を見合わせていると、どちらとなく笑ってしまった。ああ、メリィが僕たちの事を見てくれているだな、守ってくれているのだとわかったからだ。


 もう一度目を閉じて礼を言う。しばらくしてから目を開けてレイアの方を見ると、レイアも丁度終わったのか目を開けて僕の方を見て来る。


「帰ろうか」


「うん」


 これからも辛い事、悲しい事は沢山起きるだろう。だけど、今度は家族で乗り越えて行くよ。だから、メリィ、僕たちをこれからも見守ってほしい。この手を二度と離さないように。この笑顔を二度と絶やさないように。

これで、この話は完結になります!

色々とあるとは思いますが、全て私の力不足ですね。

本当はもっと話数を短く終わらせるはずだったのですが、思っていたよりも長くなってしまいました。

それに、シリアス系の話は難しいですね。本当に今回の作品は自身の力不足をかなり感じました。

でも、この作品を読んでくださった方には感謝です。

最後まで見てくださりありがとうございました!

シリアス物は当分書くことはないでしょうね!笑

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― 新着の感想 ―
[一言]  完結お疲れさまでした。……と言っても既に大分前の事ですが。  最終的にレンスが復讐者となるのか保護者になるのかとはらはらしながら読ませていただきました。  親子としてどうこれから向き合…
[良い点] 良かったです。 [一言] 個人的には至って真っ当な結末だと思いますし好きですが、ざまぁが大好きな方は見ない方がいいと思います。
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