19
私の方へと倒れてくるシオンを私は慌てて抱きかかえる。背中を抱きしめて受け止めた時、両手にべとっと液体が付く。その感触が私の心臓を締め付ける。
痛みのせいか涙を流して顔を青くさせ、息も荒くなるシオン。背中には男の小剣によって切られた傷が残っていた。わ、私のせいで……私を庇ったせいで。
「レ……イア……さ、ま、わ、たし、を……おい……て、お逃げ……ください……」
それなのに、シオンは私の事を気にしてくる。そんな事出来るわけないじゃ無い! 運が良かったのは男自身怪我していたせいか、シオンの傷があまり深く無い事だ。今治療すればまだ間に合う!
レリックもそれがわかったのか予備で持っていたナイフを抜いて、私たちを庇うように立つ。傷を付けた男の方は先程の一撃が最後の力だったのか、シオンを切ってからはその場に倒れてしまった。
残るはあと1人だけど、その人は男の人を助ける事なくジッとこちらを見ていた。私たちはその人を警戒しながら浴場の出入り口へとゆっくりと向かう。
「俺に構わずに行くといい」
そうしていると、もう1人の男がそんな事を言ってきた。手に持っていた剣も鞘へと戻して。私は助かったと思った反面、どうして私たちを見逃すのか気になってしまった。そして
「……どうして私たちを見逃すの?」
と、尋ねてしまった。尋ねてからしまった、と思ってしまったけど、聞いてしまったものは仕方ない。だから、レリック、睨まないでよ。そんな、私たちの心配は他所に、男はポツポツと話し始めた。
「別に深い理由はない。死んだ娘と同い年くらいの子供を殺したくなかっただけだ。俺が殺したいのは娘を殺してのうのうと生きている伯爵だけだからな。わかったらさっさと行け。他の奴らは俺のように見逃す事は無いだろう」
男はそれだけ言って、浴場を出て行ってしまった。私とレリックは見えなくなるまで警戒して、見えなくなったのを確認すると、ついホッとしてしまった。
でも、ずっとそうしていられない。早くシオンを治療しないと。今は痛みのせいか気を失っていると、このままじゃあ、一生起きなくなってしまう。そんなのは嫌よ! これからも、私の隣で一緒に笑ってもらうんだから!
「レイア様、まずはシオンを治療しましょう。幸か不幸か、この屋敷にはレイギス様に何かあった時用に治療薬などが大量に保管されているはずです。ただ……」
「ええ、さっきの男が言っていたみたいに、他にも伯爵……お父様に恨みを持つ人たちがいるようだから、何とか見つからないようにしなきゃ」
本当は早く逃げた方が良いのだろうけど、シオンの傷をそのままにしておけない。私とレリックは倒れている男から自分たちの剣を取って、私がシオンを背負い、レリックが先を歩く。
まだ、屋敷の中では剣戟の音や、物が壊れる音が響いているのが聞こえてくる。音の場所は屋敷の奥の方から聞こえてくるから、多分伯爵たちがいる方へと向かっているのでしょう。
それから私たちはなるべく気配を押し殺して目的の保管庫へと向かう。レイギス兄さんのための治療薬の保管庫は、すぐにでも兄さんに渡せるように兄さんの部屋の近くにある。そこに向かえば、シオンの傷を治す事が出来る。
私たちは真っ直ぐと保管庫へと向かって行った。運が良いのか悪いのかはわからないけど、侵入者は見当たらなかった。全員屋敷の奥に行っているようだ。
伯爵が昔に犯した事でこのような事になっているのだけど、その伯爵のおかげで侵入者たちは皆そちらに向かっているから、侵入者たちに見つかる事なく保管庫へと向かう事が出来る。皮肉な事に。元を正せば伯爵の行いのせいなのだけど。
その奇跡のおかげで私たちは見つかる事なく保管庫へと辿り着いた。ただ、保管庫へと辿り着く途中に何度も見た死体。あれらのせいで気分は最悪だった。
私の事をいないものとして扱って来た人たちたけど、見知った顔が死んでいるのを見るのはあまり良いものでは無い。
よくよく考えれば、私たちは1人人を殺しているのだけど、この時はその事を考える暇は無かった。
保管庫に入った私たちは、背中に傷を負っているシオンをうつ伏せで寝かせて、私とレリックで手分けして薬を探す。早く見つけないと敵がやってくるかもしれないという焦燥感に駆られるけど、何度か落ち着かせるように深呼吸をして探す。
しばらく探していると、レリックが
「ありました!」
と、嬉しそうな声色で叫ぶ。振り返ると、レリックが水色の液体が入った瓶を持ってやって来た。
「これがハイポーションです。これなら、シオンの傷も……」
笑顔でレリックがハイポーションを持って来たところに、保管庫の扉が勢い良く開けられた。私とレリックが慌てて扉の方へと振り向くと、入って来たのは
「く、くそっ! な、何なんだあいつらは! ど、どうして、私の命を!?」
顔色を蒼く変えた伯爵が入って来たのだ。今回の元凶で、命を狙われているこの人が入ってくれば
「観念するのじゃ、伯爵よ。お主はもう終わりじゃ」
覆面をした男たちが一緒に入って来た。一気に状況が不味くなってしまった。どうしよう……。私は気を失っているシオンを抱きしめる事しか出来なかった。




