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序章

山口多聞様が主宰する「架空戦記創作大会2017年夏」の参加作品です。


お題 1「現実の第二次大戦期の軍隊がファンタジーと戦う架空戦記」……つーことで、「魔王軍の戦場カメラマン」を書いてる俺得な小説があったので参加させていただきました。


とりあえず今回は序章ということで、敵が出て来るまでを書きます。

一応全5話、8月中に全て完結させる予定です。

1945年 8月14日

西太平洋上 二式大艇内部


「……どういうことなんだろうね、これは」

 連合艦隊司令長官、山本五十六は首をひねっていた。

 彼は現在、帝国絶対国防圏の中枢である、マリアナ諸島へと向かっている。

 そこは現在行われている対米戦の最前線である。

 昨年のマリアナ沖海戦以降、米軍は積極的に動こうとはしていないが、メジュロ環礁には多数の戦力を待機させており、いつでもこちらを攻撃できる状態だ。

 本来ならば大日本帝国海軍を指揮する山本が、気軽に訪れられる場所ではない。


 ――だが、今日だけは状況が違っていた。


 さる8月11日。

 マリアナ諸島上空に米軍爆撃であるB29が姿を現したのである。

 一番近いマーシャル基地から3000キロ以上。

 そこから飛んできたというだけでも驚愕だったがなんと彼らは、平文で「戦闘の意思無し」と打電しながら基地に接近すると、通信筒を落して帰還していったのである。

 そしてその通信筒の中身が、問題であった。


「まさか戦時中に、両国の指揮官が直接面会することになるとはな。しかもこちらから懇願したのではなく、あちら側からの要請だ。まったく、事実は小説よりも奇なりとはよく言ったもんだ」

 太平洋艦隊司令長官チェスター・W・ニミッツからの休戦交渉と極秘会談。

 それが、彼に課せられている使命だった。


「欧州でソ連と戦争でも始めたのかな」

「いえ、そのような情報は……。ですが、たとえそのような事態に発達したとしても、こうも一方的に講和を求めてくるような国ではありますまい」

 山本の問いに答えたのは、連合艦隊先任参謀である宮嵜俊男大佐だ。

「確かに我々はまだ余力を残しており、絶対国防圏を保持しています。ですがそれは首の皮一枚でつながっているようなものなのですから、米国としてはマリアナ、もしくはフィリピンへの再侵攻を中止する理由にはなりますまい」

「千里眼たる君にも見えないものはあるらしいな」

「その呼び名はやめてください。私はただ、見えるものを、素直に見ているだけです」


千里眼――。

宮嵜がそう呼ばれるようになったのは、昨年のマリアナ沖海戦で、米国の侵攻作戦をストップさせ、ミッドウェー海戦以降負け続けだった連合艦隊に、久々の勝利の美酒を味わわせたからだった。


 1943年に黒島亀人から連合艦隊先任参謀の職を交代した宮嵜は、戦線の縮小と徹底した防御戦術を提唱し、山本を同意させた。

 ガダルカナルだけではなく、トラック諸島、ラバウルを放棄し、戦線をマリアナ諸島まで一気に後退させたのである。

 その一方で機動部隊を長躯南進させ、オーストラリア、フリーマントルを奇襲。

 米太平洋艦隊の潜水艦基地を壊滅させることにより、米国の通商破壊作戦を一時的に小康状態へと持ち込むことに成功した。

 前線から引き揚げた熟練パイロットと、南方資源帯からの燃料を能な限りマリアナ諸島とフィリピンへと集結させ米艦隊を待ち受けたのである。


 そしして1944年6月。

 連合艦隊と米太平洋艦隊による、マリアナ沖海戦において、宮嵜の名声は帝国だけでなく、米国にも知れ渡るようになる。


 ビアク方面等で展開された米軍の陽動に対して、第一航空艦隊司令である角田覚治中将の出撃要請を許可しようとする山本を押しとどめた。

 その結果、第一航空艦隊は戦力をすり減らすことなく、全力を敵機動部隊へとぶつけることに成功した。


 この戦いで米軍は900機近い艦載機をマリアナへとぶつけたが、帝国軍はほぼ同数の戦闘機をぶつけて、徹底的な防御戦術の出たのである。

 空母大鳳を主力とした第一航空戦隊も、敵の攻撃圏内を移動しながらも決して敵に攻撃隊を放さず、輸送船団に対する圧力と敵機の漸減に務めた。

 その結果、米艦隊は艦船にこそ被害を受けなかったが、使用可能な艦載機が3割にまで激減し、マリアナへの侵攻作戦は中止を余儀なくされたのである。

 正規空母10隻以上をつぎ込んでの反攻作戦に失敗した米軍は、徹底した一点防御戦術を行った宮嵜を高く評価し、プレシステント・ミヤザキと呼称することになる。


「あれから1年。打撃を受けた空母搭乗員を回復するのは、十分な時間です。そろそろ米軍の再侵攻もあると思っていたのですが……」

「君の戦いによって、攻撃を行わない、徹底した防空基地を叩くには相当の戦力が必要だと判明した。米国も身長になっているんじゃないか?」

「逆にいえば、対艦攻撃を持たない基地です。戦艦を突っ込ませれば、反撃もままならず艦砲射撃を受けます。米国は真珠湾から復旧させた戦艦も含め、10隻以上を要しているのですから、これらを突入させるという手段もとれるはず。ここまで小康状態が続くのは不可解です」


 宮崎の尤もな発言に、山本も小さく唸り声をあげる。

 米国と戦争を行ったらどうなるか?

 これは戦前に、帝国の総力戦研究所が答えを導き出していた。

「緒戦の勝利は見込めるが、長期戦となり、国力が疲弊し、最後はソ連も参戦してきて負けるだろう」というものだ。

 実際、戦況の半分ほどは彼らの予測した通りに進んでいる。

 日本は資源不足に苦しみ、敵から奪ったニューギニア方面はおろか、元から拠点としていたトラック諸島をも捨て、マリアナ、フィリピンにまで戦線を縮小してしまっている。

 だが――、まだ戦える。

 空母は大和型を改装した〔信濃〕が慣熟訓練を終えたし、マリアナ沖海戦で大破した〔大鳳〕も復帰している。

 開戦から活躍している〔翔鶴〕、〔瑞鶴〕、さらには量産空母として新鋭の〔雲龍〕型も4隻が竣工しているのだ。

 米軍の主力であるエセックス級よりも小ぶりな面々ではあるが8隻の正規空母は、彼らに勝つことはできずとも、戦い方によっては痛打を与えるに十分な戦力だ。


「だが不可解と言うのならば、現在の戦況こそ不可解じゃないか?まるで我々に神風でも吹いたかのようだ」

「ええ。五大湖大地震がなければ、我々もここまで持っていなかったでしょうね。まさに、我々にとって神風です」


 予想ではすでに戦線崩壊していたはずの日本が、何故ここまで米軍と拮抗できているか。

 それは、一重に神のもたらした幸運によるものだった。


 1942年末に起きた、米国中央部で起きた震度6、マグニチュード7.1という大地震――五大湖大地震である。


 五大湖はその水源、水運の利便さから、米国の鉄鋼業を支えるUSスチールや、軍用車の代名詞であるジープを製造しているクライスラー社に代表される米国重工業の中心として栄えてきた。

 そこが巨大地震によって壊滅したことにより、米軍はその生産力に大きな掣肘を受けたのである。

 その結果、主敵であるナチスドイツに対する兵器――戦車や対地攻撃機といった陸戦兵器の供給量を減らさないため、海軍艦艇が割を食うことになったらしい。

 情報によれば正規空母を含む数多くの艦が建造中止や延期という状況に追い込まれているらしい。

 その影響がなければ、敵の反攻作戦はもっと大規模かつ大胆なものになっていたはずだ。

 被災した市民には気の毒だが、まさに日本にとっての神風であった。


「……もしかしたら、それが原因かもしれませんね」

「それ?」

「現地では未だに大きな余震が続いており、復旧の目途が立たないそうです。最近は東海岸側の通信が激減しており、余震の被害がニューヨークにまで及んでいるのではないか……。軍令部の方から、そのような情報が上がってきていました」

「ちょっと待て。それは、震源が移動している……ということか? そんなことがありえるのか」

「地質学者ではないので、そこまでは……。ですが、五大湖大地震が起きた時点で、本来ならば戦争をやっているような場合ではないのです。というよりも、それでいて戦争を続けられる米国の国力こそ異常なのですが……」

「我々関東大震災の復旧には6年かかったからなぁ。あっちはシカゴだけでも300万人以上の大都市だ。そこに政治経済の中心であるニューヨークでも地震だ。ナチスドイツが降伏した今、世論としても、戦争よりも復興を求めるのは当然だろう」


 やや強引な理論ではあったが、それは腑に落ちる内容だった。

 五大湖が工業の中心ならば、ニューヨークは経済の中心である。

 戦時中のため詳しい情報は入ってきていないが、もしも震度6クラスの地震が起きていたならば、米国にとっては致命傷の一撃たりえる。

 たとえ屈辱的な内容であっても、日本との講和を優先しようとするのもわからなくはなかった。


「地震の被害を受けた米国民には悪いですが……。ここでの講和は我々にとっても願ったり叶ったりです。無用な横槍が入る前に、さっさと決めてしまいましょう」

「しかし……これは独断専行だ」

「この戦争の遠因は日華事変です。そして日華事変は陸軍の独断専行によって行われました……。ならば我々が独断専行で戦争を終わらせても良いと思いますが」


 宮嵜の台詞に、山本は「なるほど、違いない」と苦笑した。

 本来ならば講和条約の締結は外務省の役人が行う仕事である。

 また会合を行うにしても、海軍代表は実戦部隊の長である連合艦隊司令長官ではなく、海軍大臣と軍令部曹長を務める嶋田繁太郎が出てくるのが正しい在り方だろう。

 だが、宮嵜は通信筒の内容を知るや否や、全ての業務を中断してマリアナ諸島へと向かう手はずを整え、山本に独断での休戦交渉を行うように提言したのだ。


 実際問題、山本が即座に動いたのに対し、内閣総理大臣である東条も、海軍大将である嶋田も、それどころか外交をつかさどるはずの外務省ですら右往左往するばかりだ。

 これは敵の罠ではないのか、そもそも日本はマリアナ沖海戦で勝ったのになぜ休戦する必要があるのか、米国が弱みを見せているならもう少し焦らしたらどうか……などという、奇跡のような好機を見逃そうとしている。

 彼らに任せていては、決まるものも決まらない。

 真珠湾の英雄である山本、そしてマリアナ沖海戦の立役者である宮嵜がそろって休戦交渉を妥結してしまえば、海軍は無論、世論表立って反論はできないはずだ。


「長官。この機会、逃すわけにはいきません。多少不利な条件でも、飲むべきであると進言します」

「分かっているよ。しかも何故大統領命令ではなく、太平洋艦隊司令官が、敵地に乗り込んで来るとはどういうことなんだろうね」

「さぁ、そこまでは……」


翌日 8月15日

「まさか戦時中に、敵対している軍の指揮官が会談するなんて、前代未聞でしょうな」

「ええ、その通りです。アドミラル・ヤマモト」


 連合艦隊司令長官である山本五十六と、太平洋艦隊司令長官であるチェスター・W・ニミッツとの会談は、握手と、やや砕けた会話から始まった。

 場所は航空機輸送のためにサイパン港に停泊していた〔葛城〕で行われることになった。

 非公式かつ急な会談であるため、参加人数は少ない。

 日米合わせて10人にも満たない。

 そもそも休戦の条件、理由、何もかもが不明な状態からの会談である。


「しかしここにきて講和……しかも太平洋艦隊司令長官である貴方が直々にやってくるとは思いませんでした」

「ええ、私もまさか、このような事になるとは想像すらしたことがありません」

「……では、その理由を教えていただけないでしょうか。交渉条件に入る前に、何故あなた方が、急な休戦を求めるようになったのか、我々の方も混乱しているのです」

 その問いに対し、ニミッツはしばらく瞑目したが、やがて躊躇うようにしていたが、やがて何かを決心したらしく、懐から何枚かの写真を取り出した。


「……これは」

 それは日本では、軍事偵察用でもほとんど目にすることができない、天然色のカラー写真だった。

 映っているのは、かつて山本が駐在武官をしていたときによく見た、アメリカのビル群。

 そして、逃げ惑う人々。

 その背後には――


「…………」

 山本は言葉を失ったまま、隣に座っていた宮嵜に写真を渡した。

 解像度の高いカラー写真に、こんな所にも国力の差が出るのか、などと場違いなことを考えながら、彼もまたその写真が意味するところを知って、言葉を失った。


「映画の衣装でも、マットペイントのような絵でもありません。全て、実際にアメリカを襲っている出来事なのです」

「これが……こんなものが、実在すると――!」


 それは日本人である山本や宮嵜も、教会のフレスコ画や、美術館の油絵、西洋の絵本などで何度も見たことのある存在だった。

 白衣を纏い、背中には大きな羽を持ち、頭上に環を煌かせる神の使徒――天使。

 伝承ならば人々を救済するためにやってきた彼らが、物言わぬ写真の中では、阿鼻叫喚となる街の中で、ある者は人々に白刃を煌かせ、またある者は空の上から睥睨していた……。


「信じて欲しい……というのは難しいでしょう。我々も未だに信じられません。ですが、実際に避難民が西海岸、アラスカ、そしてハワイにまで押し寄せています。何より我々は、ホワイトハウスとの連絡も取れない状況なのです」

「ホワイトハウスと……!?」


 馬鹿な、と山本も宮嵜も叫びかけた。

 だがそんな馬鹿なようなことが怒らなければ、太平洋艦隊司令長官が連合艦隊司令長官に面談を持ちかける、などいう状況が発生するはずがないのだ。


「大変虫の良い話だとは理解しています。ですが我々は、今は日本と戦争をしている状態ではない……いえ、良くをいえば日本に救援をお願いしたい立場なのです」

「それは……」

 

 休戦、停戦どころか、救援要請というとんでもない提案を出され、山本も絶句する。

 いくら独断専行と事後承諾が横行している日本といえど、そこまで話が大きくなってしまえば山本が一人で決定することは不可能だ。

 内閣を巻き込み、御前会議が絶対に必要だ。


「米国の現状は分かりました」

 混乱している山本に代わり、宮嵜は落ち着いた様子で写真をニミッツへと返した。


「米国がただならぬ状況であることは理解しました。ですが……あまりに前代未聞な状況のため、我々も即断できません。一度本国に戻り、政府に報告しなければなりません」

「……そうでしょうね」

「その時のために、この天使が何処から発生したのか、その原因は何なのかについて、知っている情報を全て教えていただきたい」


宮嵜の言葉に、ニミッツは数秒の間躊躇った。

だがしばらくして何かを決断したらしく、テーブルの最左翼に座っている男に視線を向けた。


「それは、私よりも彼が説明した方が早いでしょう」


 その男は軍服揃いの面々の中で、唯一スーツ姿をしていた。

 年齢は40歳ほど、やや細身で、不健康そうに見える。

「そちらの方は? 軍人には見えないようだが……」

「ジュリアス・ロバート・オッペンハイマーです。この写真に写る、天使を呼び出してしまった者……、この事態を作り上げた張本人です」


 自己紹介の言葉に、日本側からざわめきがおこった。

 尋常ならざる事態だとは認識していたが、まさにその引き金を引いた人間がこの場にやってきているとは思っても見なかったのだ。


「全ては1月前、ガジェットの起動した日――トリニティ実験の日に始まったのです」

 悔恨するように、オッペンハイマーと名乗った男は、心労がありありと浮かんだ表情で、まるで贖罪するかのように、山本達に自分が行ってきたことを語り始めたのだった……。


そんなわけで、敵は天使としました。

いやー、ドラゴンとか海竜とかだと他の人と被りそうだったから、出来るだけダブらないように、そしてファンタジー生物が出てくる契機といえば、やっぱ核実験だろうなぁ。

ということで、こんな流れになりました。


さぁ、8月中に完結させるぞ! させるぞ……っ!(白目

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