表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

君との恋

夜空の星と花火と

作者: CAPTAIN.K

 ある小さな町の夏祭りのお話。




「あの星は今どうなっているんだろう」


 巧は夜空を見上げながら呟いた。

 太陽から地球までの距離、およそ一億五千㎞。光の速さで八分と少しかかるという。だから、いつも自分達が見ているのは、八分前の太陽。今はギラギラと輝いて見える太陽も、八分前の姿。実は大爆発を起こしているかも知れない。そういう例えを聞いた事がある。

 この宇宙に浮かぶ星達は、遠く遠く離れている。あまりに遠いから、光が一年かけて進む距離を一光年、みたいなとんでもない単位も作られた。光は一秒で地球七周半分を進むから、一光年がどれほど遠いかが分かる。

 北極星は、地球から約四三〇光年離れていると昨日学校で教わった。今は健在らしいけれど、本当の現在の姿なんて誰も知り得ない。仮に四三〇年前に消えていれば、近いうちに見えなくなってしまう。もし今無くなったとしても、まだ届いていない光があと四三〇年は北を指し続けてくれる。

 あの星、はどうなんだろう。さっきふと見上げた空でたまたま目に入っただけのあの星。巧は宇宙に詳しくないから、名前も星座も分からない。特に明るく輝いている訳でもなく、目立たないその星は、少しでも目を離すと、他の星に紛れてしまってもう一度見付けるのは難しいかな。


「待ちくたびれましたか?」


 声を掛けられてそちらを振り向いた。

 浴衣を着た美少女が、こちらを見ている。


「いや、考え事をしててね」


「ボーッとしてたから。それってもしかして、好きな人の事ですか?」


「いや、あの星の事」


 そう言って再び夜空を見上げたけれど、やはり見失ってしまった。


「冷たいですね」


 そこは肯定してくれても良いんじゃないですか? ということだろう。自分のカノジョの可愛いところだ。勿論それは一つではない。


「冷たいって、大袈裟な。それに俺はいつだって温かい」


 それを証明するかのように彼女の手を握ったけれど、向こうの方が温かく感じる。


「やっぱり冷たいじゃないですか」


「じゃ、温めてくれ」


 そう言うと巧は小さな手と指を組んだ。紗由理も指をそっと巧の手に重ねる。


「巧君、顔が赤くなってる」


「綺麗な女の子と手を繋いだら赤くもなるだろう」


「それ、本気で言ってるんですか?」


「嘘はつかないぞ」


「嘘っぽい」


 彼女はそう言っているけれど、嬉しそうな顔をしている。


「お前も赤くなってる」


「カレシに手を握られたから嬉しくて」


 そんなことで彼女が喜んでくれるなら、いくらでもしよう、と巧は思った。


「それは今度こそ嘘?」


「嘘じゃない、冗談だ」


「もう」


「綺麗な星空だと思わないか?」


 紗由理はくすりと笑って答えた。


「私達は綺麗な花火を見にきたんでしょう?」


「まだ始まってない」


「ひどいなぁ」


「何が?」


「デートよりもお星さまなんでしょう?」


 巧は別に天文学に興味はない。その時たまたま気になっただけだ。


「それも大袈裟だな、待ってる間ふと見上げたら星空が綺麗だったんだよ。ほら、見てごらん」


 巧は笑った。紗由理も微笑んだ。


「店を廻るか」


「うん」


「どこがいい?」


「うーん、そうね、射的のお店に行きましょう」


 紗由理は巧の手を引っ張った。




「そろそろ行きましょう」


「随分と早いな」


「善は急げ、よ」


 巧達が来ている夏祭りは、終わりに花火が打ち上げられる。規模はごくごく小さいけれどこの辺りで花火と言えばこの祭りで、毎年沢山見物客が訪れる。ギリギリに行けば、人の頭の間から背伸びをして見るはめになるだろう。

 他の人達もそうだけれど、巧達はこの花火を見に来たのである。

 ここで一つ、巧は提案をした。


「そうだ、綿菓子を買って行かないか?」


「良いですね」


「じゃあ、先に行って場所を取っていてくれ。少し並ぶはめになりそうだから」


「分かった」


 人混みの中に消えていく彼女を見送る。その姿が見えなくなった時、巧は何故か嫌な予感がして、そちらへ1歩踏み出した。


「お兄ちゃん、並んでるの?」


「すみません、並んでます」


 慌てて列に戻った巧だけど、何だか落ち着かない気分で、もじもじとしながら順番を待った。




―――




 花火は終わってしまっていた。

 間に合わなかった。


「帰りましょう」


 花火という明かりが無くなり、それに伴って出店がどんどんと畳まれていった。辺り急に静かになり、どんよりとした闇がニ人を包む。

 巧は綿菓子屋の行列に加わったのだけれど、予想以上に長く、順番がくる頃に花火が始まってしまった。ニ〇分ほどしかない花火だ。急いでニつ注文した。でも、お金を払う時に財布が無い事に気付いた。

 小銭入れだから大したお金は入っていなくても、紗由理から誕生日に贈られた大事なものだ。慌てて必死に探したけれど、結局見付けることはできず、巧はしぶしぶ途中で諦めて彼女の元へ走った。しかし、人垣に阻まれ、たどり着いた時には花火は終わってしまっていたのである。

 勿論巧は真っ先に謝り、全てを正直に説明した。けれどもそれから彼女はさっきの一言を言ったきり、口を閉ざしている。

 帰り道に何度か隣を見たけれど、目が合う事はなかった。いつも前向きな紗由理の視線の先は、ずっと数メートル先の地面。

 そして見る度に彼女が今日どれだけ楽しみにしていたかに気付く。新しい浴衣、輝く耳飾り。どれ1つとして、褒めてあげられていない。



「じゃあ」


 彼女はそう告げて家に入っていく。悲しげな背中に向かって、巧は言った。


「今日は悪かった」


 彼女は玄関のドアノブに手を掛けて止まった。

 そして髪をなびかせながらくるりと回って、つかつかとこちらへやってくる。


「なぁ」


「紗由理です」


「紗由理」


「何ですか?」


「申し訳無い」


「言葉ではなんとでも言えます」


 そう言って何か言いたげな顔をしたけれど、また家に入ろうとする。

 その腕を掴む。

 そしてもう一度言う。


「悪かった」


「……」


「許してくれとは言わないし言えない。俺は君が楽しみにしていたデートをぶち壊し、君から貰ったプレゼントをなくしてしまったんだ。最低だ」


「……」


「だからただ謝りたい。すまなかった」


「……」


「じゃあな」


 巧は腕を離して向きを変え、歩き出した。

 その腕を今度は紗由理が掴む。


「許さない」


「……」


「だから、忘れる事にする」


「……?」


「今日は何も無かった。私達は夏祭りを楽しんで帰ってきた。そうでしょう?」


 と言うことはつまり……


「許してくれるのか?」


「さっき許さないって言ったわよ」


 巧は嬉しかった。体中が熱くなって、目には涙が浮かんだ。

 感謝の言葉の代わりに、巧はそっと紗由理を抱き締めた。

 紗由理は一瞬身を硬くしたけれど、すぐに力が抜けた。


「温かいね」


「お前……紗由理が温めてくれたからな」

如何でしたでしょうか。

私は新人で、大したお話は書けません。

この作品も、人様に見せられるような出来ではございませんが、書くことが大事というアドバイスを信じて投稿しました。

ご指摘等あればお教え下さい。

感想もお待ちしております。厳しいお言葉でも構いません。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ