裁判の結果
遅れてしまい申し訳ありませんT_T
頑張りましたのでよしなに。
ドアを開けたらそこは強豪達がひしめき合うアリーナの内部だった!みたいな感じの雰囲気を醸し出すアリーナこと我が家のリビング。
さすがに予選を勝ち抜いてきた面子なだけあってその顔からは百戦錬磨のオーラを感じ取ることが出来る。
というかそもそもが普段の食卓とは違う。
本来夕食が並んでいるはずのテーブルには夕食の代わりに薄っぺらい1枚の紙が代わりにおかれていた。
おそらくあれが今回の事の発端、”俺の期末テストの結果”である。
そしてそれを巡って今から血で血を洗う闘争が始まる、というワケだ。
俺が立ち尽くして周りの様子を伺っていると、覇者の如きオーラを出して毅然と座していた般若の顔をした母親が静かに然し厳しく俺に一言を告げた。
「座して待て」
何をだ。この流れでいくと俺は処刑を待つ身なのかな?
とりあえず空席に座るためにイスを引きながら周囲を観察する。
俺は知っている、これは殺るか殺られるかの勝負になる、と。
俺の左手に座っている父親はパンイチであり、その目はどことなく宙を眺めている。
俺の右手に座っているbest pretty girlこと妹は俺との視線を頑なに合わせようとしない。しかしこれはいつも通りのことなんだよなぁ〜〜。
俺の向かい側に座っている般若はもはや般若そのものであり般若以外の何者でもなかった。
俺がイスへ座ると般若が手元にあった紙をくるりと俺の方へ回し机の上をスライドさせながら渡してきた。
もう一度見たら結果が変わってた、みたいな事を望んでいたのだがそんな訳はなく、どこからどう見ても書いてあることは”学年最下位・偏差値32”。
そして紙を俺に渡してきた般若は重低音を響かせながら俺に問うた。
「もう一度この結果を見て何か言うことは?」と。
俺の謝罪を求めているのか?
確かに結果は”学年最下位・偏差値32”だが、今回はいつも通りのなぁなぁで切り抜けたテストではなかった。
要点を絞って勉強したのだ。
まぁ多少要点を絞りすぎた感はあるが‥‥。
しかし勉強した、という事実だけは揺るがない。そこはしっかりと理解してもらわねば。
「結果は悪かった。でも過程は悪くない。」
刹那、一言放ったと同時に食卓に流れる空気が戦場に流れる空気に一変した。
いかんな、これだと勉強の過程は悪くなかったが家庭の環境が悪くなってしまう。
「いや、俺が悪かった‥‥。」
場を収めるための一言だった筈が案外功をなしたらしく般若は普通の顔に戻りこう続けた。
「私たちは巡のことを心配して言ってるの。学生のうちに勉強しないでいつ勉強するの?大体帰ってきたら直ぐ自分の部屋に入ってゲームとパソコンばかり‥‥。そんなんで楽しい高校生活を送っているとは言えないわ。大体あなた、高校に入ってから友達と遊んでる様子が一度も無かったのだけど、友達はいるの?友達もいない、勉強もできない、何もしない‥‥。そんな人間はロクな人間にならないわ!ニートよ!ニート!」
嘘だった。全く功をなしていなかった。
むしろ俺への罵倒を助長してるまである。
第一言ってることがおかしいぞ。
俺は”友達はいない”が”ニートではない”!
「俺はニートじゃないのだが⁉︎」
撤回の為に吐いた言葉は虚しく宙を舞った。
その後、30分程度の間、溜まりに溜まった家族内での俺へのヘイトが爆発し食卓はアリーナから爆心地へと様変わりしていた。
俺は心身に深々たるダメージを受け衰弱していた。
「‥‥もうやめてくれ、どんな罰でも受けよう‥‥。だから‥‥」
「はぁ、お兄ちゃんもコッチがこんだけ悪口言ってんのに何で早く折れないのかね。ドMかよ。」
妹の鋭い発言が俺を貫く。
やめてくれ、死体蹴りはマナー悪いぞ。
「そうね、巡がやっとドMであることを認めたし、本題に入れるわね。」
我はドMではない‥‥。
ん?それより本題ってなんだ?
この残酷な仕打ちはこいつらにとっては余興でしかないって訳か‥‥。
モウ無理リスカシヨ‥‥。とか思ってると何やら父が床に置かれていたチラシの山を漁っている。
腹が減りすぎてチラシを食べようとしてるのか?
いや違うな、何か探してるのか。
「えぇと‥‥。あった、あった。」
すると一枚の白黒の紙を取り出してそれを母に手渡した。
「巡、お前が反省したのは分かった。ただ、反省しただけじゃ何も変わらない、まずは正しい知識を付けないと。」
父の言ったセリフに俺の脳はざわついた。
勉強、知識‥‥。
嫌な予感がしてきた。
何か、とてつもないことが俺に告げられるのではないか。
すると母が持っていた紙を机の上に広げながら言った。
「巡、私たちはあなたのために、あなたに試練を課すわ。」
「試練?それは‥‥。」
紙が俺に見える位置まで動かされた。
その紙に書いてあった言葉は‥‥!
”塾生絶賛募集中!私たちと世界を変えましょう!”
「巡、あなたを”塾に入れる”わ。」