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――あっ……。
自分が何をしたいのか、理解した。
「どういうことだい?」
逸らしていた目をまた向け直された。ぼんやりした黒い目で僕を見ていた。
「いえ、なんとなくです。知ってたら、嬉しいなって」
笑ってみせた。本当に些細な質問だったということを主張しようとした。だが伯父さんは表情を崩さず、僕を見続けた。
「伯父さんは知らないよ……惺、焦らなくても記憶はじきに戻る。無闇やたらとすることもないさ」
「なんで、伯父さんはシズクを女の子だと解ったんですか?」
僕は口を止めなかった。自分の中で矛盾が起きていた。というより、自分を自分で止められない。
「べつに……女の子なのかい?」
「さっき、伯父さんはウタズミ『ちゃん』と言いました。はっきり女の子と解っているならおかしくないけど、性別の解らない子供に対してちゃん付けをするなんて、普通ないですよね? それに、子供だとも僕は限定していません」
ちくり。
胸が痛んだ。酷いことをしているとは解っている。親切な伯父さんに対して、これではあだを返しているようなものだ。
「何を焦っているんだい? 伯父さんはその名前を他の病室のネームプレートに書いてあるのを見たことがあったんだよ。そのときちょうどその子を見かけたんだよ」
「じゃあ、どうして知らないなんて言うんですか?」
「惺は、どうしてそんなに焦っているんだ? 何を疑っているんだい? 一体どうしたんだい? その子に何か言われたの?」
伯父さんの目は悲しみが瞼の縁までひしひしと迫っているようだった。その目に意思を込めた目を向け、答えた。
「シズクは言ったんです。辛いって、寂しいって、悲しいって、怖いって、堪え切れないって……助けてって、辛いんだって、そう言ったんです。シズクは僕に訴えたんです。だから、僕はシズクのことをよく知りたいんです。シズクを知ることで、シズクを支える手掛かりがあるような気がするんです!」
伯父は目を瞑り、しばらくそのままでいた。僕も何も言わずに伯父を見続けた。
「伯父さんは本当に知らないよ」
沈黙の末に伯父が放ったのは、望みとは違う答えだった。
「そう、ですか」
伯父の表情は、本当に辛そうだった。
「……わかりました。ごめんなさい、失礼な態度を取ったりして……」
なんにせよ、これ以上は問えやしない。
僕の肩に伯父が手を置いた。優しくほほえみ、僕のことを許した。
「いいんだよ。惺は不安なのに、その不安を取り除いてやれないんだ。許してくれ」
謝ったはずが謝られ、僕は顔を伏せた。




