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キャラのブレが一部にありましたので修正をしました。
内容に大きく関わることはございませんが、申し訳ございませんでした。
僕らは病院へ戻った。雨の中、シズクと病院まで戻った。傘は二人分以上あったが、シズクは二人で一つの傘を使おうと言ってきかなかった。仕方なく、一番大きな傘をさして僕らは家を後にした。
病院に着くと、シズクは真っ先に看護士さんや先生に叱られた。特に一人の看護士さんが怒っていた。彼女はまだ怪我は完治していなかったのに無理をしたため、体中のあちこちが悲鳴を上げていた。寝台に寝かされると、途端に体中の痛みを訴えた。いきなり、疲労が神経にまで染み渡ったようだ。しかも全身に雨を受けていたため、体が冷えてクシャミが出るようになっていた。
先生たちは僕が一緒にいることに対して何も言わなかった。触れはしなかったが、シズクがどこに何をしに行ったのかは聞いた。シズクはここで、伯父のことを話した。病院へ来る途中、シズクは話してもいいかと問うてきた。僕はそれでどうなるのかわからなかったが、こくりと頷いた。
『惺を驚かそうと思って惺の家まで行ってみた。しかし、そこで惺が小父さんに襲われているところに出くわす。不意をついて小父さんに体当たりをして惺を助けた。小父さんは転んで気を失った』
先生たちは彼女の説明を信じたようだ。
僕はあらかじめ話すことに決めていた家に着いてからのいきさつを話した。だから先生たちはシズクの説明を受け入れたようだ。
彼女はこうも言った。
『このままじゃ惺のいる場所がないから、しばらく私の病室にいさせてあげられないか』
重要な問題だったが、僕はそのことに気付いていなかった。だが、シズクのそのお願いは普通許されないことであろう。言わずもがな先生はうーんと唸った。
「私が責任を持ちます。だから彼を泊まらせてあげられませんか?」
そう言ったのは一人の看護士だった。声に聞き覚えがあった。
その人はシズクの叔母にあたる人だった。シズクの病室で鉢合わせになりそうになった人がこの人だったらしい。特にシズクを叱っていた看護士もこの人だった。
僕が伯父に引き取られたように、彼女はシズクを引き取る予定らしい。
「費用も負担しますし、なんなら寮の私の部屋でも」
病院の側に看護士用の寮があるらしい。
「惺くん次第だが」
先生は顔を渋った。
「どっちがいいかい?」
先生は小首を傾げながら聞いた。僕は、シズクと同じ病室にいたいと答えた。
「そうか。まあ、食事は子供一人分ぐらいなら増えても支障はない。あとで病室にソファーと毛布を持って行くよ」
予定調和――いろいろ先生は言ったものの、既に決めていたというふうに話を進めた。
「……あのう」
「なんだい?」
「ありがとうございます」
頭を下げ、礼を言った。先生たちは優しく笑った。
「これからどうなるのかな」
病室で一心地置き、シズクはそう呟いた。
「惺は、これからどうなるのかしら。小父さんに引き取ってもらうわけにはいかなくなったね」
僕はついさっき先生とシズクの叔母さん――留美さんというらしい――が持ってきてくれたソファーに座り、毛布を被っていた。寒いわけではないが、なんとなく。
「どうなるんだろう。孤児院とかに行くのかな?」
「孤児院って」
シズクは笑う。コントでも見ているみたいに笑う。
「笑うなよ。真剣な話しじゃないか」
「ゴメンゴメン。惺があまりにも悲観的すぎるから、らしくないなって」
「らしくない?」
シズクは微笑しながら頷く。
「前までの惺なら、こんなことでも笑い飛ばしてそうだから」
――前までの、僕。
僕とシズクは以前から知り合いだった――それは既に知っている。友達であることも、知っている。
だけど、まだ、その記憶はあまり戻らない。
「笑って笑って、めそめそしているのなんて一度ぐらいしか見たことなくて、普段はむしろ、沈んでいるあたしを笑わせたり」
まるで今はあべこべなの――
「本当だとしたら、おかしすぎるね」
「そうよ。早く、惺に笑わされたいな」
シズクは目を細めた。
事故のこと、話した方がいいかな?――
唐突にシズクは言う。




