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瑠璃の火焔  作者: 呉葉 織
歴史Ⅰ:『黒』持ちの少年
5/13

自己紹介と寮内のルール

かなり久しぶりの投稿です。

他2作も今月中に更新できるようにします。



 リビングルームに揃った14人はひとまずソファーに座る。中央の1人掛けにレンイが、その周りを囲む3人掛けソファーに左側にイオ、ウィレム、ティーフェ、右側にフォル、ゼナ、ミストが座り入ってきた1年は先程フォルが生徒会室から掻っ攫ってきた古い4人掛けと3人掛けのソファーに座っている。


「じゃあ、自己紹介でもする?」

「必要あるか?」

「はーい! 私あの子たちの名前覚えてないよー!」

「流石はゼナ」


 中等部では名が知れ渡っていた7人はゼナの発言にギョッとした。年数が3年違えば確かに知らないのかもしれない。それでも、名前くらいは聞いたことがあったのではないか、というのが内心である。しかし、それは彼らのおごりにすぎない。むしろ、ゼナらを知らない方がおかしいのだ。


「何驚いてんだ」

「なっ、何って……」

「お前らの名が知られてないのなんて当たり前だ」

「っ!」

「自己に慢心するなんて大した自信の持ち主だな」


 呆れたように言うレンイに7人は歯噛みした。確かにそれは自身らがおごっていたのかもしれない。しかし、それなりの実力を持つ者としての自信が否定された気分だった。ならば、何故『聖獣』寮にいる彼らの名を聞かなかったのか。それこそ、おかしな話ではないのか。

自分達よりも実力が上(と家の者から聞かされていた)であり、その実力は学園内トップだと言われる彼らのことを、何故聞かなかったのか。


「まあいいじゃない? 自己紹介はさっさとやりましょう?」


 ミストが進まないこの展開に飽きたように声を上げた。1年組も不服ながらに頷く。まあいいか、とイオは内心ほくそ笑むと「はーい!」と声を上げた。それに呆れた瞳を向けるのは隣にいたティーフェである。いかにもイオが何かをやらかそうとしているのを察知したらしい。レンイも察したには察したが最早止めるつもりはない。むしろ、止めたところで何になるというのが現状である……イオとはそういう()なのだ。


「僕は2年のイオ・ディルディア! よろしくねー?」


 その後に続いた疑問符には突っ込まない。むしろ、彼が本当によろしくするのかどうかなど誰が知る話である。かくいうイオはと言えばニコニコと、それはもう満面が合うのではないかという笑顔を貼り付けている。その内心なんぞ知る者は居ない。


「同じく2年、ティーフェリエ・ノルアーティ」


 至極簡単に名前だけを告げた彼女のその表情の奥深くに秘められているのは呆れだ。まあ、彼女自身が『七名家』を嫌っているのもあるのだが。


「2年生徒会長、ソーウィレムク・ニーヴォルフ」


 名前だけを淡々と述べるウィレムはウィレムらしい。流石に彼は先程壇上に立った故か彼らの記憶も鮮明である……やけに苦労気質であるのとその相手が誰であるのかも。


「んじゃ次はあたしね! 3年のコルゼナ・ルゼルッタでーす! ゼナって呼んでねー!」


 つい先程に彼らに驚愕の事実を突きつけたであろう張本人は何とも無邪気に自己紹介をした。あっけにとられる1年は困惑しかない。と、いうよりゼナのテンションが高すぎる、といったところか。当の本人は単に遊んでくれる(・・・・・・)人が増えたとしか考えていないが。


「同じく3年、ミストレーア・シェクスター」


 普段は潰えることのない笑顔なく、淡々と言うミストはどうやらこの展開が好きではないらしい。彼らが下らないことを突っ込まないことを祈りつつ、ゼナを挟んだ所に座るフォルを見る。


「3年、元生徒会長のルフォルト・セーリスム」


 そこに元、をつけた。流石にそれにはミストとウィレムがギョッとした。張本人は淡々と言うが別にそこまで言わなくていいだろう、というのがミストとウィレムの心境である。最早、言ったところで何になる、というのが一番の心境ではあるが。

 最後、この場で特に口を開くのを面倒くさがっていた彼がややため息をつきながら名を告げる。

 

「2年寮長、レンイ・アスフェルトルークス」


 以上、在学組終了……と思えば誰かが恐る恐る手を挙げた。髪の色は銀、契約精霊は見るからに分かるが何も言わない。


「何だ」

「あの、ティルデアって……」

「あ、僕? 多分、君の予想通りだよー?」


 ニコニコと、読めない笑みを貼り付けて言うイオにウィレムは頭を抱えたくなった。というより、半分抱えていた。ウィレム自身もそうではあるのだが、イオやティーフェは実は大の「七名家」嫌いである。その理由は幾つかあるのだが、主にを縛っているからというのが一番の要因だろう。


「ティルディア家直系親族だからね」

「っ!」


 はやり、そんな顔をするのか、とウィレムは1人思う。ティルディア家、それはかの『エヴァルトエーロ高原』の戦いで最高位聖霊に味方した家の1つであり……彼ら『七名家』と対立する家であるからだ。もちろん、ウィレムの家やティーフェの家、ゼナやフォル、ミストの家もそうだ。もちろん、彼らも知っているだろう。そして、それを知らない彼らはそこまで愚か者ではないはずだ。ただ、唯一の例外なのが……


「アスフェルトルークス家の、分家ですか?」


 そう、レンイである。レンイは確かにアスフェルトルークス家だ。その名の通り、しかしアスフェルトルークス家はもう1つある。その家系図に、レンイの名はない。


「……さあな」


 それすらも説明するのが面倒なので、レンイはあえて仄めかす。正直、その話はしたくもなければする気もない。そんな話なのだ。


「……そっちの紹介はまだ?」

「え?」

「え? じゃないよー。私最初に言ったじゃん。君たちの名前、全員覚えてないよって」


 ゼナが無邪気な笑顔で言う。それは、彼らにとってはどうしようもない感情を与えた。誰もが知っている『七名家』。なのに……


「私はレスェア・チファーゼです」

 

 それを断ち切るように、金髪の彼女が名を挙げた。契約精霊を言おうとすればそれはフォルにいい、と遮られた。


「え……?」

「知ってるから、つか分かる」


 フォルの一言に『七名家』は口をつぐむ。確かに、かのエヴァルトエーロ高原の戦いで一役買っているのだから、知っていて当然なのだろう。しかし、『七名家』側からしてみれば彼らの契約精霊は知らない。それが何故なのかも、分からない。


「ひとまず名前だけお願いー」


 ゼナが次を促す。えっと、とレスェアの隣にいた緋色の髪の少女が戸惑いながら口を開く。


「私はヒノト・イシュトリアーゼです」

「フェルローテ・カルヴィラ」


 ヒノトの隣の白髪の少年が淡々と自身の名を口にする。


「リンディリーナ・マルシェリオンといいます!」


 フェルローテの向かいに座る銀髪の少女が元気よく笑顔で名を言う。特に彼女は家の名声など気にしてないらしい。


「ゼスト・ネルヴィオ」

「ウィレル・クリストノールといいます」


 濃い青髪の少年はどこかフェルローテと顔立ちが似ており、焦茶髪の少年は朗らかな笑顔で、しかし瞳は笑ってない状態で名を口にした。


「俺がツィオーネ・フェストラルだ」


 最後に真っ黒な髪の少年が自信満々に名を告げた。だからと言ってどうこうなるわけではないのだが。全員の名を静かに聞いていたミストは少し疑問に思ったことを口にした。


「ネルヴィオさんとカルヴィラさんは親戚かしら?」

「ええ、そうです」

「この2人、双子みたいに顔似てますよね」


 『エヴァルトエーロ高原』の戦いまで遡ればその辺りも簡単に検証できるのだが、今は時間が惜しい。1年生はこの後何もないが、レンイ達は少々用事があるのだ。


「じゃ、自己紹介もおわったし簡単に寮内のルールを説明しよう」


 ウィレムが先を促すように口を開く。『聖獣』寮の規則は原則として3つのみ。


「1つ、起床時間は守ること」

「え?」


 拍子抜けした声にウィレムは反応を示さずさっさと進める。


「2つ、寮内の自身の部屋のみ精霊の具現化を許可する」


 別の寮ならば、寮内のどこでも自身の契約精霊を具現化させることができる。しかし、この『聖獣』寮では自身の部屋のみ。


「3つ目、寮内でのトラブルは自分で解決すること」


 以上、と言うとウィレムとレンイは立ち上がる。1年生はと言うと、どこか不服ながらも寮内でのルールに疑問を持たなかった。

一番不思議なのは契約精霊を部屋でのみ具現化できないということだがそれを問おうにもどうやら彼らが忙しいことを察したらしく誰も口を開かなかった。


「それさえ守れれば好きに過ごして構わない」

「破った場合は?」

「寮から放り出す」


 間髪置かずにレンイが言葉を落とすと、ドアの向こうに消えていく。なぜそこまでルールが厳しいのか、彼らには知る由もない。現段階、彼らが知ることはない。それは残されたイオを含めた彼らも言うことはない。


「さ、部屋に戻ろっかー」


 イオが堅苦しい空気を破るように明るい声を出す。それに合わせてティーフェやゼナらも立ち上がり部屋を出て行く。残された1年生組に残されたのは微かなわだかまりのある疑問。今は考えても仕方ない、と1年生組も諦めて立ち上がり部屋に戻っていった。








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