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瑠璃の火焔  作者: 呉葉 織
歴史Ⅰ:『黒』持ちの少年
3/13

始まりの合図

一部改編しています。


 ドアを開けた瞬間、この瞳に飛び込んできた表情に思わず口元を歪める。顔すらも見たくない、その人物はすでにソファーに座っていた。そして、その表情は不安に満ちている。は、そんなかおされてもどうにもなんねぇんだよ。

 俺が瞬間(リーゼンフォア)移動(ティリフォレット)で着いたのは理事長室。そのドアを開けて目に入った奴の表情は本当に不快極まりない。だったら頼むなバカ。俺はそこまで暇じゃない。


「レン」

「そんな顔すんなら俺は引き受けねぇと言ったはずだ」

「っ……」


 何でそんな顔してんだ。わけわかんねぇ。アンタが俺にそう言ったから、条件付きで引き受けたんだ。なのに、今になって「やっぱりやめます」とか言われたら困るし。そしたら俺、何のためにわざわざ元の場所に戻ってきた? ってことになるし。目の前のバカが何を怖気付いたのかは俺には知ったことじゃない。


「悪い、そうだよな」

「……それで」


 さっさと話、済ませてくれ。その方がありがたいからな。第一、何を考えてるのか分かんねぇっつの。

……だから、こんなとこに帰ってきたくなかったのに。今更ぐちぐちと言っても仕方ないのは確かだ。コイツとはそういう契約で、自由を貰った。それを承認したのは俺。覆せない事実に今更何を公開しろというのか。


「今日、彼ら(・・)が入学してくる」

「……。」

「お前の役割は、分かってるよな」

「……。」

「お前は「なあ、わざわざそんなこと言うためだけに俺をこの場に呼んだのかよ?」っ、」


 本っ当にムカつく。この場で深いため息さえ出せそうだ。……まあ、それはいいとして、だ。


「分かってるから、何回も言うな」

「あのな、これは大切なことで……」

「その話、もう何回聞いたと思ってんだよ? 当に100は超えてんぞ」

「……それほど重要なんだ」


 ……あー、そうですか。本来なら、この話は真剣に聞くべきものなんだと思うけどそう思えないのは俺がこの仕事の重要性をわかってないからなのかそれとも興味がないからか。正直どっちだっていい。仕事ならばそれを遂行するしか道はない。

 誰かに押し付けようにも、事情があまりに複雑すぎて押し付けることはできないし。……はぁ、帰ってきたくなかった(2回目)。


「話がそれだけなら、俺帰るけど」

「ああ」

「それからさ」

「ん?」


 あの辛気臭い顔が、やけに瞳の奥に焼き付いて離れない。……コイツは事情を知らないはずなのに。

甥っ子(・・・)という使いやすい立場の俺にそれを単に任せただけなのに。

 叔父でこの学園の理事長であるウォルク・アスフェルトルークスはそれに今更後悔を覚えたのだろうか。……は、つまらない。つまらなさ過ぎて笑える。そう思うなら、俺になんか手を出さなければよかったのに。

 まあ、そうはいかなかったんだろうな。そこはきっと学園と大人の事情とやらだろう。それに巻き込まれた俺はどう見ても可哀想にしか見えないんだろうが……


「俺は、あんたのこともアイツらのことも、何もかも許した覚えはない」

「っ……」

「――――俺がこの仕事を引き受けたのは、俺にとって有益になるからだ」

「レン」

「でないとこんな下らない話なんて、受けやしねぇよ」


 言の葉を吐き捨てて、部屋を出た。叔父は何か言いたそうな顔をしていたが俺には関係ない。……例え、当事者であったとしても関係ない。

 入学式の前に一度寮に寄らなきゃな。この制服も着替えないとならないし。

 ――――普通科クラスは白の制服だ。しかし、俺が編入・・するのは特待クラス。制服は黒。その理由は簡単だ。

 特待クラスの奴らが持つ『魔力』は「黒い魔力」。「黒い魔力」は極稀に持って生まれてくる者がいる希少な『魔力』だ。その『魔力』の質は普通の魔力の10倍に匹敵し、尚且つ強大である。使いこなすには慣れと訓練を散々積むしかない。

 高い『魔力』を持てば持つほど、好みにかかる負担は尋常ではない。しかし、『魔力』が高い分、高位の精霊と契約はしやすくなる。……現に、俺が今回担当することとなったこの仕事の『魔力』を持つ奴ら (・・)はご丁寧なことに全員「黒い魔力」持ちだ。しかも、何もかもができない半端者で未熟者ときた。そんな事を思うと頭が痛い。そんな奴らを俺は指導するのか。放棄したいがそんなことできるはずもなく。


「……うわ、マジで頭がイテェ」


そんなことを一人呟きながら寮へと歩き出した。


*・*・*・*


 目の前で突然消えたレン……寮の隣の部屋の奴をただ呆然と見送ってしまった。って、引き止めなきゃダメじゃん私! 何呆然と見送っちゃってんの!?


「……まさか、彼が瞬間リーゼンフォア移動(ティリフォレット)を使えるなんてねぇ」


 隣に居るシルビアがそう呟いた。……そうだ、あまりに呆然とし過ぎて忘れてたけどレンは今目の前で瞬間移動リーゼンフォアティリフォレットを使った。

 偏見を持つわけじゃないけど、瞬間リーゼンフォア移動(ティリフォレット)はかなりの『魔力』を消費する。私だって使えないわけじゃないけど、むやみに使おうとは思わない。それだけ『魔力』が使われるのだから。それなのに、簡単に使ったアイツは何なんだ。

 そもそもレンの『魔力量』ってどのくらいよ? 思ってみると知らなかったんだけど。とはいえ、前々からシルビアが「なんか腑に落ちないとこがある」とか言ってたあたりそれなりに持っていたのかもしれない。


「シルビア、どー思うよ?」

「レンでしょ? まだなんかありそうでならないわよ」


 ……シルビアがそう言っちゃってるあたりまだ何かあるのかもしれないかなぁ。例えば? 何があるんだろう? 隠し事? いや、レンの隠し事の多さなんて今に始まったことじゃないしなぁ。

 だって、今日居なくなるなんて聞いてなかったし(あれは唐突すぎた)、前にも勝手にふらっと消えたこともあった。あの時はシルビアを使って探したけど、知らないうちに帰ってきてて理由を問い詰めたらはぐらかされるし。

 ……何はともかく、レンは何かを隠してることには違いない。私に言わないってことは、私を巻き込みたくないってことなんだと思う。まあ、勝手な自己解釈に過ぎないけど。


「リーナ、そろそろ時間なんじゃないの?」

「ん、あ!」


 シルビアに言われて時計を見ればすでに時刻は遅刻ギリギリ。レンのことに気を取られすぎて時間を気にしてなかった!

 食堂から出て、支度を素早く済ませると1人バタバタと寮を出る。ここから学園まで歩いて15分はかかるけど、正直なところ後10分で着かないと遅刻になる。と、いうわけで止むを得ず、かな。


瞬間リーゼンフォア移動(ティリフォレット)!」


 瞬間、私の周りに渦を巻くのは膨大な『魔力』。白い純粋な『魔力』が光輝いて私の身体を包み込む。

ふわり、と体が浮くような感覚がしたかと思えば目の前は学園の自分の教室前。途端にどっ、と襲ってくる疲労感は代償みたいなものだ。……だから、使うの好きじゃないんだよねぇ。

 隣に居るシルビアに少し手伝って貰えば良かった。と、いうよりも瞬間リーゼンフォア移動(ティリフォレット)は無属性に分類されるからあんまり干渉できないって言ってたけどないよりマシだと思う。

 ウィンド属性のシルビアが干渉できるのはあくまで同じ属性のウィンドだけ。他の精霊スピリット契約コントラクトしていたら別のにも干渉できるとは思うけど、そんな『魔力』の余力はない。


「リーナ、今日ホールだよ」

「あ、入学式ね!」


 そうだよ、忘れてた。てか、どれだけ物事忘れたらいいんだろ。絶対レンのことだよね、原因。友人に言われてホールに向った。


*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*


 ザワザワといつもよりも騒がしいホール内。その中で一際注目を浴びるのは7人の男女。

 彼らは「七名家」と呼ばれしかの英雄の子孫であり、代々の契約精霊を引き継いだばかりである。そんな彼らと彼の対面は、意図して作られたものであり、必然的なものである。


「これから入学式を行います」


 1人の生徒が壇上に上がる。またもやザワリ、とホールが騒がしくなる。壇上に登っていたのは代表挨拶をするはずの生徒ではなかった。

 ――――大半が白の制服を着た普通クラスに混じるのは少数の黒の制服の特待クラス。

その壇上に登った生徒は黒の制服で、尚且つ同色の髪。その人物は壇上中央のマイクの置いてある小さな机の前に立ち、声を出す。


「……ようこそ、『セントエスチアーノルド学園』に」


低く響く声。少し遠くで「レン!?」という声がした。


「……『七名家』」


 名指しで呼ばれた彼らはバッ! と壇上を見直す。その人物は嗤っていた。自らが有名であることは知っていた。が、しかし。


「今日からよろしくな」


 その声音に込められたのは、失意と嘲笑。何もかもが分からぬまま、入学式は進んでいった。


「俺を、失望させんなよ『七名家』」






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