Valentine's eveの夢
何か宗教的なものを感じた夢である。
浅瀬の上に立つとある神社、毎年、節分の日から貯古齢糖が神社に奉納されていた。男達は、そのチョコレート、神社で言うところの貯古齢糖を求め、寒中水泳にて勝負を決していた。第二の福男選びとも称されるその神事にて、とある出来事が起こった。
女人禁制であるという定めは無かったが、男性のみであるのが通例であるこの神事に、女性の参加者が現れたのであった。
「今度、水上神宮の聖頂祭に参加してやる。」男口調の彼女の名前は、月村華蓮という。早速、神社のホームページからエントリーした。神社の関係者は、彼女を男性だと思っていた。読み方は、「かれん」ではあるのだが、名前の字が難しく男性のように感じる人が多かったのである。
この聖頂祭では、特に決められた衣装はない。しかし多くの男は、褌一丁か水着を着用している。それが神に対する正装だと思われているからだ。白装束で泳ぐ者もいる。そんな中、彼女はメイド服に決めた。神に仕えるという意思を示すためでもある。
その日から、華蓮は冷水に慣れることにした。冬の海は寒い。気を付けなければ、心停止を起こすかもしれない。女である華蓮には、冷えると不妊になるかも知れないので身体を良く慣らすことが必要だと考えていた。
約1ヶ月間、筋肉を鍛えたり、通勤時間も走ったりして身体機能の増強に努めた。気が付くと会社の男性社員のみならず、女性社員にも好かれていた。女性社員にもモテていた彼女の様子は、まんざらでもない様子であった。
「今度、聖頂祭で泳ぐんだ。」会社の同僚の仲の良い女性社員に打ち明けた。「何でまた。」
「午前中はさ、皆にどう思われているか分からないけど。男の人格なんだよね。意識はさ。負けたくない、馬鹿にされたくない。男より優秀なんだ。引けを取りたくない。女子力の欠片もない。」と華蓮はこたえる。
「確かに、華蓮は堅いよね。真面目で女子力は感じないし、でも夜になると急にテンションが高くなって会社とは違うなぁと感じる。それが普通なんだろうけどね。でも男の人格だとは思わなかったなぁ。」
「二重人格でもさ、意識はちゃんとあるんだよ。でも、女の自分がさ、男状態の自分を眺めてるの……変だよね。」
「でも、何処かで男って女を支配下に置こうとしているからさ。バレンタインチョコもくれなかったからって塩対応になる男とかいるじゃん。そんな友情こっちから願い下げだよね。そういう男に立ち向かおうとしている華蓮って凄いと思うよ。頑張って。」
そして、当日を迎えた。コースは10キロある外宮からのランニングでスタートする。ここで差をつけようと走り過ぎると泳ぐ時に体力を消耗してリタイアしてしまう。反対に、遅すぎても水泳で挽回出来る可能性は低い。海岸から本宮までの距離はおよそ2km離れている。距離としてはそこまで無いが、冬の海は寒い。
メイド服の彼女は身体を温める程度で走った。50人程のランナーの中で、真ん中に位置している。良いペース配分である。
オール男子の中で20位である!大健闘だ!
そして、砂浜に着いた。覚悟を決めて、極寒の海に飛び込む。身体が冷えて、手足の感覚が殆ど無くなっていった。多くの者がリタイアする中、不屈の闘心で泳いで行った。男に劣ることの無い姿勢であった。
「なに!俺を抜くのが女なのか?絶対王者のこの俺が!」遂に、連覇を達成している王者を抜いた。彼女を強くするのは、世の男達が感じているチョコレートを貰うことが当然という傲慢な態度に対する苛立ちである。チョコレートで女子力を見られては困るという思いだ。
そしてトップを抜いて本宮に1番のりとなった。
「おめでとうございます。初めての女子参加者で福女となったご感想を。」地元のテレビ局がヒーローインタビューを行った。
「世の中の男達に告ぐ。バレンタインチョコが貰えなかったくらいで絶交とは酷い仕打ちじゃないですか!日頃の感謝を強要すれば、卑しい奴になってしまいますよ!」
彼女の姿は日光に輝いており神々しいものを感じさせた。
チョコはちょこっとでも貰えれば良いと思うべし。