4/23のラブストーリー
「熊が出たぞー。」俺、坂本は急いで小学校を降りた。
俺の通っていた小学校は、四方八方、十六方山に囲まれていた所だった。
クマが出たら氷山の一角に過ぎない。
いっぱい居るんだ。猪もハクビシンも、ニホンザルもみんな襲って来る。
「ヤバイよ。ヤバイよ。俺死ぬかも。」猛ダッシュで山を下る。
途中でトラックを見つけた。免許も持ってないけど緊急事態だ。
「借りよう。これで降りる。」だが、トラックには鍵が掛かっていた。
「クソッタレ!」足が棒になりかけながらも、必死に山を下る。
「畜生。これじゃ追い付かれちまう。誰かー。熊だー。助けてくれぇ。」声も出ない。恐怖と疲れで叫べなくなった。
「和也くん、どうしたの?」目の前から初恋の人が現れた。
「沙紀か。えっ!沙紀、お前どうしてここにいるのよ。今、山の上で熊が暴れてんだよ。逃げないと死ぬぜ。」俺は声を振り絞った。
「和也君、知らないの?今、山の上で撮影やってるの。何か、熊の格好でフラッシュモブの撮影をやるとか言ってたよ。それを見ちゃったんじゃないの?」
「水澤さん。ちょっといいかな。」ジャンパーを羽織った。結構若い男の人が彼女に話し掛けた。
「はい!何ですか、監督。えっ!分かりました。」
「確か、和也君とか言ったね。私は、林原純一という監督です。突然で申し訳ないんですけど、主役の代役やってくれませんか?ギャラはちゃんと払います。」
「でも、俺演技なんてやった事ありませんよ。」
「そう言わないでよ。ラブシーンの撮影だよ。」
彼女の笑顔が眩しい。小悪魔フェイスだ。
よく聞く事がある。演技で好きになったのが、いつの間にかリアルでも好きになる事があるらしい。
もしかしたら、俺も沙紀と付き合うことが出来るんじゃないか。
悪くない。決めた…
「分かりました。俺、やります。」
川を2人で散歩したり、近くの蕎麦屋で蕎麦を啜ったり、熊のフラッシュモブを見たりした。勿論、劇での話ではあるが。
楽しかったなぁ。
「おいテメェ!何、オレの代わりに出とんねん!」本来の主役が怒りながら向かってきたが、時すでに遅し。