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第四話 前・暴走する狐

 凶暴化した狐をなんとか抑えようとする、二匹の狐。

 凶暴化した狐の大きさは、普通の約10倍。到底かなうはずもない。

 それを見ていた二匹の虎。


「これは俺らが何とかするしかないか」

「ああ、そうだな」


 現実とかけ離す結界を張られた

 一つの神社。

 狂ってしまった狐、一匹。

 正常な狐、二匹。

 金色の虎、二匹。

 合計、五匹の物語……のはずだった。

 これは里桜たちが来る前の

 二日前の出来事。






 天邪鬼から貰った情報とルカの言葉を当てに神社へと向かうことになった。

 いつものように担がれていけば速くその場に着くんだが、今回ばかりは少し遠くの所に行くため普通に行くことになった。


 学校が終わった後すぐ自宅に戻り電車に乗る。

 自然に二人の間に座る形となり、特に話すこともなく電車に揺られる。

 この二人は人間に見えないため無闇に話しかけることができない。

 乗客が少なくてもそうしたほうがいいとレオに言われたんだ、変に思われるからって。

 天邪鬼の言っていたのは狐の出る神社。

 その狐が氷力石を狙っているかもしれないと聞いた。


 だからハウラについて何か分かるかもと。

 階段を登り終え、見えたのは特に変わりない神社。

 赤い鳥居をくぐり先に進む。

 どこが怪しいというんだろうか。

 ルカがそう言っていたみたいだけど、どこも怪しい所なんてない。

 ぐんぐんと前へ歩んでいく二人の背中を見ながら足早についていく。


「ここに狐がいるのかな」


 独り言で言ったつもりだったんだが、なんとなくレオを見る。

 なんでも答えてくれるレオはいつものように答えてはくれなかった。

 前を見続けている表情は穏やかだが真剣さがどこかに隠れているように見える。

 これ以上訊いたら悪いような気がして質問するのをやめた。


「おーっと誰かのお出ましだぜ、レノ」

「はあ……そうみたいだ」


 どこからともなく聞こえてきた声。

 立ち止まると、数歩前を歩いていたルカとレオも足を止めた。

 聞こえてくる誰かの会話。


「どうする?」

「どうするって、僕に訊く事じゃないだろ」


 どうやら二人いるようだ。

 一人はおちゃらけていて、何が楽しいのか嬉しそうに言葉を弾ませている。

 レノと呼ばれた者は何かに対して関心がないんだと会話から読み取れた。


「前の二人、普通じゃないみたいだ」

「ああ、すぐに分かった」

「だからそれの確認だ、確認」


『前の二人』とは、ルカとレオの事を言っているように思える。


「……喧嘩は駄目だからな、ルーファス」

「はいはい、分かってますよっと」


 相手の機嫌の良さに危険を感じたのか、念を押すよう訝しげに言われるが気にした様子もなく答える者。

 軽い返事……。

 なんて思っていたら上から来た者が地へと着地した。

 二匹の生き物。


(狐、じゃない……?)


 まず最初に思ったのがそれだった。

 天邪鬼が言っていたものと違う者が現れたんだ。

 それもルカたちと同じように喋れる動物が。

 目の前に現れた者は虎。それも二匹。

 天邪鬼よりも恐く、重い威圧感を感じる。たくましい体つき。本物の虎だ。

 普通にここに生息していたら誰もが驚くだろう。

 騒ぎになっていないとなると、この二匹の虎も妖怪ってことになるんだ。


「あんたらこんな所に揃って何の用だ」

「氷力石について何か知っているか?」


 軽快に話しかけてきた相手に対して、ルカがいつも通り淡々と訊く。

 私が天邪鬼から聞いたのは狐が氷力石を狙っていることだった。

 彼らは狐じゃないのに。

 ルカには何か考えがあるんだろうか。


「氷力石……? 知らねーな、そんなもん」


 今、何か変な間があった。

 こちらの反応を伺うような物言いと、射抜くような眼差し。

 微妙な空気が漂う。


「何か隠しているように見えるけど、これは僕の気のせいかな?」

「さあ、それはどうかな」


 レオも何かを感じ取ったのか、軽く問い詰めるように訊くが相手は動じない。


「僕が説明する」


 黙っていたもう一匹の虎が喋り出した。


「結界を張っている理由は無闇に妖怪を近づけないためだ」

「どうして動物のままの姿なんだ? お前らほどの妖力なら化けられるはずだが」


 化けられる……

 やっぱり妖怪なんだ。

 この二匹の虎もルカたちのように人間の姿になれる。

 ルカの質問に答えている真面目そうな虎は、金色の毛並み。

 もう片方の不良っぽい虎も金色。

 口が悪く、初対面の人にも気安く接するタイプだ。

 人間の姿になったらどんな容姿をしているんだろう。


「生憎、こっちの姿のほうが楽なもんでねえ」

「ルーファス、口を挟むな」

「はいはいっと」

「もう疑問点はないか?」


 仲のいいのか悪いのか分からない二匹の話を聞きながら、何か嫌な空気を感じていた。

 二匹の後ろに何かがいる。

 そう感じ取ったんだ。

 というより見えていた。

 一匹の苦しんでいる狐と、その横で労わっている二匹の狐。

 なぜかそういう部屋の中の景色が見える。


「狐ーー狐がいる」


 どうしてこんなものが見えてしまうんだろう。

 天邪鬼のときもそうだった。

 でもあの時見えたのは天邪鬼の『記憶』だったはず。

 何かを透視する力なんて私にはない。

 やっぱりこれは氷力石の力なんだ。


「どこだ?」


 久しぶりのルカの問いかけに、呆然と手を伸ばして指を指す。

 二匹の虎の後ろにある扉に。


「あそこ」

「おっと、ここを通すわけにはいかねえんだ」


 私の指差したところへ行こうとしたルカの前に立ちはだかる虎。


「退け」

「無理だ、と言ったら?」


 挑発的なことを言う。


「挑発するようなことを言うな」

「だっておもしれえんだもんよ、仕方ねーだろ?」

「はあー、これだから全く」


 いつものことなのか溜め息をつき、諦めた様子の黄虎。


「退かすまでだ」

「ルカ……」


 無理だと言ったら退かすまで。

 剣に手をかけるルカを止めようとするが、もう抜いてしまった。

 どのくらいその剣で自分と同じ妖怪を消し去ってきたのだろう。

 邪魔者となれば消し去る。

 そんなルカの思考はどうやって作られてしまったんだろう。

 過去が今の自分を作る。

 ルカはどんな過去を持っているの?

 そんなことを思っていれば凄まじい音が耳に届く。


「ありゃりゃ、そんな暇はなくなっちまったみたいだな。残念」

「また凶暴化か」


 二匹の虎が後ろを見る。

 それにつられ同じように見てみれば神社は破壊されていた。

 大きな狐によって。

 巨大化した狐。

 さっきまでは普通の狐だったはず。

 建物の中にいて苦しんでいた狐は今、何倍もの大きさになって私たちの前に現れた。

 狐にとって大事だろう神社さえも壊して。

 威嚇するように鳴き、毛を逆立たせる。

 私を映す赤い瞳からは怒りの感情しか伝わってこない。

 私が何かしてしまったんだろうか。

 隣にはルカやレオがいるのになぜか私だけを見て威嚇している。

 でも恐ろしいという感情はなかった。

 ーー苦しい

 そうこの狐は叫んでいる。

 一気に距離を縮められ、鋭い爪が私目掛けて放たれる。

 でもそれは当たらなかった。

 宙に浮いている感覚。


「レオ、待って」

「ルカは大丈夫だから心配しないで」

「違う、そうじゃなくて」


 レオが助けてくれなかったら私は今頃どうなっていたんだろう。


「あの狐の側にいた二匹の狐。あのままあの場所にいたら危ないよ。だから……」


 二匹の狐は逃げることなく巨大化した狐の側にいた。

 大切な存在なのだろう。

 巨大化してしまった狐は正気がないように見えた。

 その状態の者に近づけば、いくら親しい関係でも認識してくれない。

 傷つけられてしまうだろう。

 だから助けたい。

 そんな言葉を言えずに木の下へ降ろされた。


「その狐は僕が助ける。だからリオちゃんはここから動かないで」


 分かったとも言えず、レオの背中を見届けた。

 ……やっぱり何もできない。

 私、足手まといなんだ。

 レオたちに頼りっぱなしで、自分の身さえ自分で守れない。

 私、ちっぽけな人間だ。

 そうやって自分の愚かさを思い知っていく。

 凶暴化した狐は、その場にいたルカと二匹の虎によってなんとか落ち着かせたらしい。


「助けて下さって本当にありがとうございます」


 丁寧に正座をしている二匹の狐が更に丁寧に頭を下げる。


「我々は天狐という妖怪でありまして、わたしはギン」

「わたくしはコンと言うものです」


 息の合った自己紹介。

 見分けがつかない容姿。

 ただ違うところは一人称。

 ギンは『わたし』

 コンは『わたくし』

 見分けがつくところはこれしかない。


「ギンとコンか。お主らの頼みとはなんじゃ?」


 ギンとコンを助けてくれたレオにそのままおじいの神社へと連れてきてもらったんだ。

 そうしたら頼みがあると言ってきた。


「実はクウコ様が三日前に氷力石というものを手に入れてしまい、それから凶暴化するようになってしまったんです」


 氷力石……。

 やっぱり天邪鬼の言っていたことは正しかった。

 でもこんな当たり方するなんて。


「そうか、氷力石か。やはり一つだけじゃなかったようじゃな」


 おじい、何か知っているんだ。


「封印するしかないかのう」


 顎に手を当て呟く。

 まるでそれしか方法がないみたいだ。


「それは……っ」

「困ります!」


 血相を変えておじいに頼み込むように前のめりになる。


「クウコ様は3000年以上生きている身。その体を使って神社に来る者、人の悪い心を浄化してきたのです。だから今回のような状況になってしまったのかと……。ですから、封印は……」


 声が小さくなっていき、ついには俯いてしまったギン。


「わたくしたちはまだ1000年くらいしか生きておらず、あの神社を託されるほどの力はないのです。

 クウコ様を封印するというのであれば、わたくしたちはあなたたちをっーー」


 1000年くらい“しか”なんだ。

 妖怪はそんなにも長生きできる生き物だなんて初めて知った。

 人間にとっては100歳以下で長生きなのに。

 妖怪にとっては人間なんてすぐ死んでしまう生き物なんだ。


「わかったわかった、封印などせんからそう気高くなるな」


 コンの勢いに圧倒されながらも、まあまあと両手であやす。

 おじい、大変そう。


『汚い心を持つ人間が悪い、クウコ様は悪くない……』


 頭に流れこんできた声。

 これはコンの心の声?


「封印するのが駄目なら、何か特別なものをしかけるしかないな」

「何するの?」

「陣を書く。お前たち、手を貸してくれるか?」


 私が訊いたのに、なぜかその答えには私が入っていない。

 わざとなのかおじいの視界に私が入っていないんだ。

 レオが頷き、ルカは当たり前だという雰囲気を醸し出す。


「そこの者も手助けしてくれるか?」


 おじいが見る先には二匹の虎。


「いーぜ、おもしろそうだし」

「ルーファス、これはおふざけじゃ……」

「わーってるって、そうかりかりすんな」


 一匹は退屈そうに顎を手に乗せてこちらを見ていただけだったのに物凄い変わりよう。

 もう一匹は変わらず姿勢よくおすわりをしたまま隣にいる虎を見下ろしている。

 話がスムーズに進む中、私の中には劣等感が生まれていた。


「私には、やる事ないの?」

「里桜、お前は何のためにルカたちに守ってもらっていると思っているんだ。ただ自分の身だけを案じていればそれでいい」

「でも……」


 私は……。

 みんなが協力して、同じことをやるのに私だけ邪魔者扱い。

 私だけが安全な状況にされる。

 そんなの嫌だよ。


「そこのお姫様、納得いってねえようだけど良いのかよじじい」


 初対面にじじいって……

 それに私、お姫様?


「納得しておらんのか?」

「うん。みんなが協力してやることなのに、私だけやらないなんてなんかはぶかれているみたいで……」


 ううん、そんな思いじゃない。


「私もやりたい。仲間外れにされたくないとかそんな気持ちじゃなくて、あの狐を助けたい。苦しんでいる者をほってはおけないよ」


 勇気なく下げていた顔を上げて言った。


「はあー、お前は昔から変わってないのう。だからわしが見守っておらんといけないんじゃ」


 ぶつくさと言うおじいはほおっておこう。

 こうなると説教に行き着くのは知っている。

 今は説教なんてされる場合じゃないし、おじいだってする場合じゃない。


「私に何かやれる事はある? おじい」

「お前にやれることか……」


 悩むのはいいけど「ない」は無しだよ、おじい。


「あの狐はすぐにこの人間を狙った」

「ということは氷力石の気配を察知して里桜を狙ったというわけか」


 隣に座っていたルカが話に入ってきたことに驚いた。

 何を目的として発言しているのか分からないけど、おじいの言ってることも分からないけど。


「こいつを囮にすればいい」


 おとり……?

 おとりって、あの狐を誘い出すために私を使うってこと?

 なんだか不自然な沈黙が襲う。


「それは雄介の頼みに反してるよ」


 レオの言葉が妖怪のたくさんいる静かな部屋に響き、またもや静まる。

 雄介って、もしかしておじいのことを言っているのかな。

 初めておじいの名前を聞いた。

 腕を組むおじい。


「里桜、お前はどうなんだ。危険な役割だがそれでもやりたいのか?」


 おじいが冷たく言い放つ。


「ルカたちは陣の周りに集まってもらうためにお前を守ってやることはできない。それでもやるか?」


 おじい、私を心配してわざときつく言ってくれてるんだね。

 だけど私はやるよ。

 ごめんね、心配ばかりさせて。


「私にはそれしかできないから」


 おじいとみんなで作戦を決め、その決行は夜となった。

 そして今は、私の前にいる二匹の虎……ではなく、二人の青年が自己紹介をしてくれるところ。


「僕はレノ、でこいつはルーファス」

「こいつ呼ばわりはねーだろ」

「この通り、軽い奴だ」


 レノは虎の時と同じ毛色で金髪。

 お面をしていて顔はよく見えない。

 ルーファスも金髪で、毛先が上に向いている。癖のある髪型。

 二人ともルカやレオのような武器を持っていない。

 確か動物のままの姿のほうが楽だと言っていたから、あまりならない姿なのだろう。


「私は里桜です、立花里桜。えっと、おじいの孫? のようなもので……」

「ああ、あのおっさんのことか」

「ルーファス。口を慎め」


 おじいのことをおっさんと言う妖怪だけど、なんだか悪い妖怪ではないみたい。


「おっさんをおっさんと言って何が悪い」

「じじい呼ばわりしたと思ったら次はおっさんか、少しくらい口を直そうとしないのか」

「そういうお前だって言ってるだろ。じじいやらおっさんやら」

「それは君が悪いんだろ」

「俺のせいにされるとは心外だな」

「それは大げさだ」


 緊張感ないなあ……。

 目の前で繰り広げられる痴話喧嘩……ではなく、じじいおっさん問題に口を挟めず苦笑いするしかなかった。


「あ、そうだ」


 急に声を出した私に反応して、ルーファスとレノの二人がこちらを向く。


「ルカたちがまだ自己紹介してなかったよね」


 後ろのほうにいるルカとレオ。

 そんな二人を見てルーファスは横になった。

 興味なさそうに肘を立て、二人のほうへ視線を向ける。


「ああ、野郎共か。別にどーでもいいけど」

「ルーファス」


 レノはまた、口を慎め、と言うかのように威圧的に彼の名を発する。

 だが本人は全く気にしてない様子。

 えーっと、これは自己紹介しなくてもいいってことなのかな。

 いや、しなくちゃ駄目だよね。

 協力して狐を正常に戻すーー

 そんな仲になったんだから。


「こっちがルカ」

「見ての通りの無愛想だな」


 口を挟むルーファス。

 ……当たってる。


「こっちはレオ」

「いろんな意味で裏がありそうだ」


 柔らかい表情をしていて怪しいところが一つもないレオに裏があるなんて、よく最初からそんなことが言えるな。

 確かにレオは分からない時があるんだ。

 いつも笑顔で、何を考えているんだろうって思うことがたまにある。


 微かな違和感はすぐに消えてしまうもので、あまり詮索はしていない。

 誰だって裏はあるものだよね。

 レオに限ってそんなものはないと思ってしまっているけど。


「君たちはどうしてあんな所にいたのかな」


 裏がありそうだと言われたレオは気にした様子もなく問う。


「ただ単に出くわしただけだ」

「こいつの言う通り、たまたまあの狐が暴走しているところに出くわした。ほおっておいたら森やいろんなものが壊される。そう思ってあの二匹の狐に手を貸したんだ。結界を張っておいたのもそれが関係する」


 結界とかなんだかよく分からない話。


「まあ難しいことは考えず、あんたたちに会ったのは何かの縁だ。ま、よろしくしますよ、と」


 ぼんっと煙がルーファスを包みこむ。


「やっぱこっちの姿のほうが楽だわ」


 また私の前に虎が現れた。

 私の役割はおとり。

 陣が書かれた場所まで狐をおびき出す。

 おじいの予想だと、私の目にある氷力石が狐のものと共鳴して身体が大きくなり暴走してしまうという。

 だから囮という役目に抜擢された。

 あの神社へ行くと破損している建物の中で狐が苦しみはじめ、すぐに巨大化する。


「こっち」


 わざと挑発するようなことを言い、森の中を駆け出す。

 陣の書かれた場所まで行けば私の役目は終わり。

 みんなは陣を囲む役割があるため、自分の身は自分で守らなければ本当に怪我どころじゃ済まされなくなる。


「なっ……」


 こんなところで躓くなんて。

 痛さなんか感じる暇もなく立つ。


「頑張ってるみたいだな。人間のくせして妖怪の問題に首突っ込んで、必死になって、とんだお姫様だ」


 木の上から現れたのは一匹の虎。


「ルーファス、どうして……」

「話はあとだ。俺の背中に乗れ」

「え、乗るって」

「もう来てるぞ」


 レノの視線をたどり後ろを見れば、狂ったように迫ってきている狐が側まで来ていた。

 時々苦しそうに止まる。

 まだ重い足取り。


「わ、分かった」


 焦りで訳が分からないままルーファスの言うことを聞くことにした。

 ずっしりとした大きな背中にまたがる。

 虎の姿をしたルーファスがすぐに駆け出した。


 ーーバンッ


 森の中から突破した。

 後ろからは物凄い音。

 狐がすぐ後ろまで来ていたんだろう。


 円を描いて木が生えていない場所。

 そこに陣と呼ばれる星の形をした大きな円となったものが地に書かれている。

 人が入るくらいの丸い円が星の角にそれぞれ五つ書かれており、そこにはルカとレオ。レノや二匹の狐、コンとギンが立っていた。


 陣の中に身体が大きくなってしまった狐、クウコが入る。

 おじいは手を合わせ、何かを念じ始めた。

 光る陣。

 苦しむ狐。

 何もできずに見ていることしかできない。


 黒い影のようなものが狐を取り囲む。

 それは自身からでている悪いもの。

 それはいつまで続いたか。

 狐の甲高い声が鳴き止み、静寂が包み込む。

 陣の中には先程とは比べものにならないほどの小さな狐が横たわっていた。

 コンとギンの大きさのちょうど2倍と言ったところだ。


「やった……?」


 誰も何も言わず動かない。

 奇妙な静寂が続く。

 そのため、意味のない不安が胸に蟠る。

 これで良かったの?


「クウコ様!」


 駆け寄る二匹の狐。

 死んでしまったわけでないよね?


「クウコ様! クウコ様!」


 おじいを見るが、真剣な表情をしたまま何も言わない。

 何かがおかしい。


「駄目……か」


 だめ?

 なにが、だめなの?


「ねえ、ルカ」


 近くにいるルカを呼ぶ。

 隣にルーファスがいるのに、なぜかルカを頼りにした。

 重たい沈黙の中、二匹の狐の


「クウコ様」


と呼ぶ声だけがこの場に響く。

 殺しちゃったの?

 誰も目を合わそうとしない。

 え……なにこれ。


「氷力石があの狐を蝕んでおった。氷力石さえ狐の体内から抜ければなんとかなると思うんだが」


「どうすればいいの?」


 やっと口を開いてくれたおじいに訊く。


「こればっかりは」


 それってつまりクウコは亡くなってしまったってこと?

 でもまだ体は残ってるよ。

 ルカが妖怪の体を引き裂いた時、妖怪の体は光となって消えた。

 ということは、体が消えるまで生きているってことだよね。


 だったら何か手段はないの?

 助ける手段は。

 キラッと何かが光った。

 もしかしてクウコが……。

 光となって消えてしまう。


 そう思った。

 クウコから光が離れていく。

 それは宙に浮き、輝きを保ったまま浮き続ける。

 綺麗……。

 見とれるほどの輝かしい光。

 ところがそれは刃となってこちらに向かってきた。


「っ……」


 小さな粒。

 井戸の中を覗いたときにあったものと同じ。氷力石だ。

 それは目に入った。

 右目を手で押さえる。


「クウコ様!」

「クウコ様!」


 陣に囲われている三匹の狐。

 感激したような声で仲間の狐の名前を呼ぶ、二匹の狐。


「おまえたち……」


 良かったね、コン ギン。

 クウコは助かった。

 氷力石はクウコの体内から抜け、私の目に入ったんだ。


 一度入った右目に、また一つ。

 ズキズキとする痛み。

 それよりもクウコが助かったことに喜びを感じ、頬が緩む。

 本当に良かった。

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