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第三話 小さな赤鬼(前)


 【天の邪鬼-あまのじゃく-】

 人の言うことやすることに、わざと逆らうひねくれ者。

 【天邪鬼-アマノジャク-】

 金平糖のことをあられと間違える妖怪は、そんなにひねくれ者ではない。






 はあ、と心の中で一つ溜め息。

 ネコミミくんの件でルカとの間にこれまで以上の亀裂が入しまったと落ち込んでいる。

 朝に「おはよう」と言っても返されないのは知ってるけど、あんなに拒絶されるとは思ってなかった。


『ルカーーあの時はごめんなさい』

『なぜ謝る? お前は何に対して頭を下げているんだ』


 いつも通り椅子に座っているルカの冷たい声に心臓がひやりとした。

 ただ謝っただけ、そう思われたんだろう。

 だから目も合わせてくれなかったんだ。

 違う、と弁解したかったけど何も言えずあとになってから後悔をしている


 ……のかもしれない。

 私がルカに頭を下げた理由はルカを巻き込んでしまったからだ。

 おじいに私を守るように言われ面倒な事をやらなくてはいけなくなった。

 昨日、そんな発言をされたからそれに対して謝っただけ。


 ネコミミくんを守ったから、ルカの邪魔をしたからではない。

 ちゃんとした切実な理由がある。


「どうした? 」


 現実とかけ離れた経験をしても学校はあるもので、こうして自分の席に座りうつ伏せになりながら窓の外を眺めている。

 窓側の席の特権というか……これが一番後ろの席だったらもっと良いのに。


「里桜」

「あ……斗真」


 外の景色が見えなくなったと思い見上げてみると、そこには私の幼馴染である斗真がいた。


「何か悩み事? 」

「うーん、そう言われればそうかもしれない」


 斗真は一言で言えば優しい。

 年齢は同じだけど、お兄さん気質があると思う。

 いつも気遣ってくれるんだ。

 だから小さい頃は頼りっぱなし。

 斗真、精神年齢が高いのかな。


「この頃元気ないと思ってたんだよね。やっぱり当たってた」


 周りの人からは碓氷くんと名字で呼ばれていて、なぜか下の名前で呼ばれていることが少なく感じる。


「……私、いつ頃から元気無かった? 」

「三日くらい前からかな」


 ちょっと気になって訊いてみたんだが、ジャスト。

 斗真よく分かってる。

 分かりすぎていて怖いと思う時もたまにあるほど。

 妖怪が見えるようになってから五日。

 斗真と会うのは休みを挟んでからだから、その日がぴったり。


「斗真ってすごいね。何でもお見通しって感じ」

「まあ、いつも見てるからね」


 斗真がふわっと笑う。

 そのままの表情で目が細められ、意味ありげな視線も向けられる。

 いつもこんな感じだから気にしないけど、たまにあるこの沈黙の間にはてなを浮かべときる時があったり、なかったり。


「はーいそこまで」

「若葉、おはよう」


 何かを遮るように現れたのは若葉だった。

 だるそうにしながらもやって来た若葉を見上げ、垂れ下がる頬を無理やり上げる。


「おはようじゃないわよ、そんな顔して」

「はにゃ? 」


 急に両方の頬をぎゅにゅっと摘ままれ変な声を出してしまった。


「あんたがいつまでもそういう顔してるから斗真だって心配してるんじゃない」


 今思えば若葉には三日前から元気ない私を見せていたかもしれない。

 話しかけてくれてもぼーっとしていて、誘ってくれているのに曖昧に断って。


「ごめんにゃはい」

「謝ってもらおうとして言った訳じゃないの」


 若葉、本当にごめんね。


「で、何に悩んでるわけ? 」

「なにって……」


 離された頬を触りながら、慎重な趣で訊いてくる若葉からさりげなく視線を外す。


「言えないこと? 」


 斗真も追い打ちをかけるように訊いてきた。

 普通の人に見えない者の話をしたって、信じてくれない。

 それどころか若葉には「どこか頭打った? 」なんて言われるのは目に見えている。

 考えているうちに予鈴が鳴り、そのまま二人は自分の席へと戻ってしまった。


「言えないこと、だよね……」


 長い授業も終わり、帰る支度をして鞄を肩に掛けたところで若葉が現れた。


「里桜、もしかして今日も一人で帰る気? 」

「うん、ごめんね」


 妖怪が見えるようになってから若葉と一緒に下校していない。

 道の途中で私を狙う妖怪がいたりして若葉にまで被害が及んでしまったらと考えた結果、決めたこと。

 それに……まだ妖怪を見慣れていないから変な声を上げて驚いてしまうと思うんだ。

 だから、私の目から氷力石が取れて妖怪が見えなくなるまでは一緒に登校したり下校したりはできない。

 若葉に不信がられながらも一人で下校中。

 俯きながら歩いていると何か視界に入った。


(ん?)


 それは赤い色の体をした小さな物体。

 首を傾げ、まじまじと見つめるとそれは私の視線に気づいたかのようにゆっくり振り返った。


「…………」


 とんでもなく重い沈黙が続く。

 どちらとも動かず、瞬きさえもしない。

 最初に口を開いたのは赤鬼のような者だった。


「お前オレが見えるのか?」

「あ……あ……」


 体の小ささと反比例して顔の恐さに驚愕する。

 声が震え、最初に見た妖怪の時よりも心臓がバクバクと鳴ってくる。


「おい」

「ご、ごめんなさいっ」


 怖さから逃れようと意味もなく頭を下げ、彼を横切り全速力で走る。

 それは無我夢中で。


「あ、待てオマエ」


 後ろから聞こえてきたのは恐い声ではなくて可愛い声。

 だがありえないほどの小ささと恐い顔が掛け合わされ、怖さを倍増させている。

 若葉と一緒に下校しなくて良かったと、恐怖の中で思った。


「たぶんそれ、天邪鬼だよ」

「あまのじゃく?」


 家に着き、早急にさっきのことを言うと、レオの説明が始まった。

 天の邪鬼って、ひねくれ者のことを言うよね。


「鬼の姿をしていて、よく悪戯をするんだ」

「……じゃあ私、イタズラされそうだったんだ」

「そういうことになるね」


 赤鬼の存在情報を聞けて少しホッとした自分がいる。

 好き好んで悪戯をするなんて変な妖怪。


「そういえばルカは?」


 部屋を見渡し、いつもの椅子に座っていないことを確認する。


「ルカは偵察中。ハウラの居場所を突き止めるためにね」


 ハウラを見つけ出せば、私の目にある氷力石が取れる。


『これだけは勘違いするな。お前はあいつに頼まれたから守ってやってるだけだ。氷力石が無くなればお前の価値なんてない』


 私のため……じゃないんだよね。

 おじいに頼まれたから、早く問題解決するため。

 だから勘違いはしてはいけない。

 ルカの冷たい態度を思い出し、俯く。


「勘違いなんてするつもりはないけど、そうであったらいいな」


 急にどこからか綺麗な声が聞こえた。

 この部屋にはレオと私、二人しかいないはずなのに。


「なにこれ?」


 ふわふわと浮いてきた物体はレオのコートの中から出てきた。


「ああ、出てきちゃった」


 知っている風なレオを見つめる。


「この子はサトリ。森の中で会ったんだ」


 ゆらゆらと揺れている着物。

 空中に浮いていられるのはそのおかげかもしれない。

 ペコっと体全体を使ってお辞儀する。

 高くて可愛い声からすると女の子かもしれない。


「何か役に立つかなって連れて来ちゃった」


 連れて来ちゃったって……こんな小さな者に何ができるというんだろう。


「わたしは偽りのない心を読むことができます」

「え?」


 ちょっと整理しよう。

 私の心が読まれてるってことは、さっきこの子が口にしたものは私の心を読んで声に出していたってこと?


『勘違いなんてするつもりはないけど、そうであったらいいな』


 これってつまり、ルカに大切に想われたいと思っているって訳だよね。

 なんか私、強欲な女みたいじゃん。


「アナタは自分に嘘をついている。仲良くしたいのなら変な距離なんて置かなくていいのです」


 自分にも分かっていないところが読まれているのか、口を挟めない。


「変な距離を置かれて寂しいのなら縮めてしまえばいいのです」

「えっと……」


 レオのいる前で心を読まれるなんて恥ずかしい。

 誤魔化すために口を開いたんだが何を言えばいいのか分からず、視線をさまよわせる。


「ルカ。お帰り」


 レオの声に反応し、ドアのほうを見ればそこにはルカがいた。

 どうやら今入ってきたようだ。

 サトリの存在を確認してから部屋の中へと入ってきた。


「あられ、あられ」


 ルカでもレオでもなく、聞き覚えのある声が耳に届く。

 それは機嫌良く声を弾ませている。


(あ……)


 ルカの足元にいる主を確認して驚愕した。

 彼も私を見るとどちらともなく固まり、一瞬だけ見つめ合う形となってしまう。


「あ、オマエあの時の」


 最初に言葉を発した赤い体をした鬼……天邪鬼のほうだった。

 道端で偶然会って逃げてきた相手。

 さりげなくレオの後ろに隠れようとする。


「知り合いか?」


 ルカが問う。


「道端で会ったんだって。怖くて逃げてきたみたいだけど、どうしてルカが?」


 私の代わりにレオが言ってくれた。


「ハウラの居場所を知っているようだったから連れて来た」

「ハウラの?」

「だから、ちょっとした情報だって言ってんだろ」


 信じられないというようなレオの雰囲気を察したのか、天邪鬼はルカを見上げ抗議する。


「で、その情報は? 」

「あられを貰ってからだ」


 レオが優しく訊いたにも関わらず、天邪鬼はふんっと偉そうに腕を組む。


「あられって、もしかしてお菓子? 」


 二人とも何も言わないから間に口を挟んだ。


「おう、そうだ。持ってるか? 」


 不機嫌そうな表情を一転させ、目を輝かせて訊いてくる。


「うん……いちおう」


 仕方なくも頷いた。

 あられをあげればハウラの居場所の情報を教えてくれる。

 ハウラを見つけられれば、私の目にある氷力石も取れる。

 そう考えたらあられだけで済むなんて安い。


「はい」


 一階に降り、あられの入ったお菓子袋を持つと二階の自室へと戻り、あぐらをかいて腕を組んでいる天邪鬼に袋のまま渡す。


「……これじゃねえ」


 天邪鬼の欲しい物を持ってきたというのに、不満な顔をした。


「え? でもこれあられだよ」


 袋に書いてある字を確認してもらうため、受け取った天邪鬼の手に触れないように指差す。


「違う。オレの言ってるあられは飴だ」

「飴? それってどんなの?」


 あられは餅で作られたもの。

 因みにこれは塩味。

 飴のあられなんて存在するはずがない。


「甘くて丸い形をして小さい。それにゴツゴツとして色が付いている」


 小さくて丸い形をしていてゴツゴツとした色の付いたもの。

 飴の中で当てはまるものと言えば……。

 そう考えるが思いつかない。

 顎に手を当て、頭を捻る。


「それって金平糖のことじゃない?」

「コンペートー?」


 金平糖……確かにそうかもしれない。

 小さくて丸い形、表面がゴツゴツとしていてカラフルにされている飴。

 本人は全く分かっていないようだが当てはまるのもはそれしかない。


「コンペートーって、なんだ?」


 レオの助言に首を傾げる天邪鬼。


「ちょっと待って、持ってくる。確かおじいに貰ってあった気がする」


 おじいは私の小さい頃からお菓子を欠かさずに持っている。

 私が泣いた時には飴一つで泣き止んだという。

 自分が食べるためでもあるけど、私にあげるためでもあるらしい。

 あられじゃないなら仕方ないと、一度渡したお菓子の袋を取ろうとするが天邪鬼の持つ手の力が強まる。


「これは貰っておく」


 なんと貪欲な……。

 天邪鬼の行動に驚きながらも、またもやお菓子を取りに行く羽目になった。

 あられと金平糖って、間違えるものなのかな。

 全然違うよね、餅と飴。

 今度こそと金平糖を皿に乗せ、二階へと持って行く。

 金平糖で当たっていればいいけど。

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