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第九話 謎の少年~後編~囚われし者

 ルーファスの言っていた、神社にいるとはおじいの神社の事だった。

 おじいの神社の前につくと、レノとクウの二人の姿があった。

 クウとレノはほうきを持ち、落ち葉の掃き掃除をしている。


「あいつ、あのキツネ様にこき使われてんだよ。俺にも手伝えとか言ってきたから逃げたんだけど正解だったな」


 おかげでお前を助けられた、と横目をやってくるルーファス。

 その顔は大人を感じさせるが、一瞬にして破顔する。クウの叫び声によって。


「あ、お前! さっきはよくも逃げやがったな」


「うわっ、やべ」


 ルーファスは仰け反るようにして大げさに拒否反応を示し、クウはこれみよがしにほうきを持ちながら迫ってくる。


「クウ、ちょっと待って」


 それを遮るようにルーファスの前に立ち、クウの勢いを止めた。


「リオ……」


 はた、と固まるクウ。

 薄緑色に輝く瞳に見つめられる。


「リオではないか」


 なぜかがしっと両肩を掴まれた。

 クウは女性なのに、男性を感じさせられる部分がある。今回は食欲に関して。


「リオが来たらこの落ち葉を使ってサツマイモとやらを焼こうと雄介が言ってたからな、どういうものかと楽しみにしてたんだ」


 山済みになった落ち葉の元で説明をするクウは、本当にとても楽しそうだ。


「ギン、コン。雄介を呼んできてくれ」


 神社の床掃除をしていた二匹は、クウの命令により了解しましたと駆け出して行った。


「……というかお前たちは、何しに来たんだ?」


 私の背後に向けられるクウの視線。

 そこにはルカとレオの二人。


「リオちゃんの護衛、かな」


「何かあったのか?」


「まあね」


 あえて全てを言わないレオ。

 心配させまいとしているのだろう。

 そこへおじいが登場。


「おお、里桜来たか。みんなも勢ぞろいで」


「雄介! リオは来たぞ。落ち葉も山済みにした。準備は万端だ。

サツマイモとやらを焼かないのか?」


「じゃあ、焼くとするかの」


 よしっ、と喜ぶクウはもう人間の食べ物を好んでしまったようだ。

 クウが人間の食べ物を好むようになったきっかけは、前に私があげた栗かな。

 秋の味覚。今回も秋の味覚だ。

 寒くなってきて、もうそろそろ秋の季節は終わってしまうけど。


「そういえば、ルーファスたちはどうしてここにいるの?」


「あー、俺たちか」


 何だか歯切れの悪いルーファス。

 ルーファスとレノと別れたのは確かクウの暴走が止められてから。

 あの時別れたのにどうしてここに二人がいるのか。ここにいて悪いとかそんなんじゃなくて、ただ単に気になっただけなのに。


「君と別れて月日が経った後、よく考えてみたら特に行く場所がないと分かってこの神社に戻ってきたんだ」


「そうしたらここにいるおっさんがよ、だったらここにおれば良いではないかとか言ってきたんだよ」


 断る理由もなくてな、と半笑いしているルーファスを横目で見るレノ。

 またルーファスは何かやらかしたのだろうか。今の言葉の中でレノが突っかかるような事を言ってしまったとか。


「ルーファス、君はまだそんな呼び方をするのか」


「ああ、じいさんの方が良いか?」


「どっちもよくない」


 ……まだじじいおっさん争いしてたんだ。良い方にランクアップして『じじい』が『じいさん』になってるけど。


「二人共、わしはここにおるぞ」


 急に後ろから声をかけてきたおじい。その手にはざる山盛りにあるさつまいも。

 持ってくるの早いな。


「……」


「ふんっ、バカが」


 おじいに気を使って黙ったレノを、ルーファスは面白げに罵倒する。

 横目同士でばちっと合う目。結構な迫力。

 これでも一応仲良いんだよね……? じゃなきゃ一緒にいないだろうし。


「ルーファス、貴様に食わせるイモはない」


 焼きあがった芋の前でクウは腕を組み、仁王立ちするかの如くルーファスの前に立ちはだかる。ついでに、綺麗に輝く薄緑色の目で見定めるように睨みつけている。


「はっ、仲間外れかよ」


「当たり前だろう、落ち葉集めする時も逃げやがって。何もしていないヤツに食わせるイモは……」


 ーーナイ

 そう言おうとしたのだろう、その前にルーファスの体を煙が包み込み、虎となった彼は一瞬にして焼きたてのサツマイモを奪った。


「へへ、もーらい」


「あ。くそ」


「つーか、あっちィー」


「ふん、バカか」


 そしてまた人間の姿となったルーファス。手元には熱々のサツマイモ。

 分かりきっていた反応だろう。

 そんな賑やかな二人を見ていた私たち。

 隣に座っているレオに伺う。


「レオは食べないの?」


「どうしようかな」


 レオに前に訊いたことがあった。人間の食べ物、食べたいと思うわないのかと。

 その時の答えは曖昧だった。

 食べてみたいとは思わないけど、食べたくないと拒絶してるわけでもない、と。

 つまり、どっちでも良いという事だよね。


「ルカは、どうする?」


 その場に立っているルカに訊く。


「俺は……」


「お前は食え」


 突然横から現れたクウが、ルカの口の中に芋を突っ込んだ。

 ルカのすごい驚いている顔、初めて見た。


「お前は食べ物の美味しさを知って、もっと感情というものをもて」


 そんなクウの発言に私たちは顔を見合わせて笑ってしまう。

 が、標的はレオにまで。


「お前もだ。そんなひょろひょろした体でリオが守れるか」


 あはは、とから笑いしたレオは。


「というわけみたいだから、頂くね」


 焼き芋を食べることにした。


「待て、クウコ。焼き芋は皮を剥いて食うのじゃぞ」


「そうなのか?」


 おじいのちょっとした教え。

 はた、とルカのことを見るクウ。

 その手の先には、クウが持っている皮付きの焼き芋。未だに口の中。


「すまん! まさか皮を剥いてから食べる食べ物とは知らなくて」


「……」


 謝罪するクウに対して沈黙のルカ。

 怒っているのか怒っていないのか分からない。この中途半端な顔、本当に不可思議。


「ルカ、大丈夫?」


「ああ」


「熱くない?」


「少し、熱い」


 指で唇を拭うようにしている。

 クールにしてるけど、本当はすごく熱いのだろう。気をつけて食べなきゃ。


「ところで里桜、どうしたんじゃ?」


「え?」


「いや、何かあったからここに来たんじゃないかと思ってな」


 おじい、鋭いな。

 さすがは家族、か。


「……本当は仲良かった二人がどこかで食い違って、それがもしこの先一生交わえないものだったらーーって考えて」


 天邪鬼と黒髪の少年、いや、如月透くん。あの二人は食い違っている。

 天邪鬼は、如月くんが一人で寂しいんじゃないかと思い同じ妖怪に如月くんの事を言いふらした。そうすれば如月くんを構う者が現れると思って。

 でもそれは妖怪に如月くんを襲わせる一手となってしまった。それを恨んで如月くんは妖怪のことを、天邪鬼のことを嫌いになってしまったんだ。と思う。

 これも、勘違いから始まるすれ違い、なのかもしれない。


「それって、なんか前までのルカとネコミミくんとの関係に似てるね」


「ルカと、ネコくんの?」


 まさかレオまでそう思っているとは思っていなかった。


「どちらも素直なコじゃない場合、少し手を加えてあげれば元の関係に戻れるんじゃないかな」


 ……そっか。そうだよね。

 あの時のように仲裁に入れば。


「お前、良いこと言うな」


 私の左隣に座っているルーファスが、横から話に入ってくる。

 私を間に挟むような状態で、右隣に座っているレオは、そう?と返した。


「私、じゃあさっそく」


「リオちゃん」


「……?」


「今日はダメだよ」


 焼芋も食べ終わり、天邪鬼と如月くんの元へ行こうと立ち上がるとレオに止められた。


「どうして?」


 レオが言ったのに。手を加えてあげればあの二人の関係は元に戻るかもしれないと。

 それにまだ何も言っていないのに。


「いくらなんでも今日は駄目だ。またあいつが狙ってくるかもしれない。ほとぼりが冷めてからお得意のお節介をしてやれ」


「お節介って……」


 久しぶりに長々と話すルカの発言。それには重さがあるが、どうも受け止められない。


「うちのお姫様は手のかかるやつだなって」


「少なくとも、君のじゃないけどね」


「お。なんだ、ヤキモチか?」


 またしても話の間に入ってきたルーファスとレオの掛け合い。


「やき餅……? なんだそれは。

美味しいのか?」


 その間に入ってくる、食欲旺盛のクウ。


「こっちのお嬢様は食い意地がはってすごいな。花より団子、ってか」


「ダンゴ?」


「ははっ」


 団子という単語にも反応するクウにルーファスは笑っている。

 みんなも穏やかにしているし。

 なんか……楽しいな。

 やることもなく、立ったついでに落ち葉掃除をしようと少し離れた所に行く。

 サツマイモを焼くために使われた落ち葉の山は、半分の大きさになっていた。


「ネコくんもここに居れば良かったのに」


「おれが、何だって?」


 え……。

 なんとなく呟いた言葉。


「ネコくん!?」


「リオ、久しぶり」


 まさか後ろにいるとは思わなくてぎょっと振り向いた。途端、後ろからぎゅーっと抱きしめられたこの状況。


「元気そうだね」


 ネコくんが言うほど久しぶりではない気がするけど、そう言った。


「ルカとはーー仲良くしてる?」


「うーん、まあまあかな」


「まあまあ……?」


 個人的な話かと思って慎重に聞いたけど、あっさりと答えるネコくん。

 それもまあまあだなんて。


「だってずっと昔。お互い違う動物だったから話なんてできなかったし、いつも一緒にいてもただ一緒にいるだけみたいな」


 淡々と話すネコくん。関心がないようにみえるけど、もしそうなら悲しいな。

 ルカとぎくしゃくした関係は戻った。けれどそれが親しい仲じゃなくて、ただの知人みたいな関係だったら。

 私のしたことは意味なかったのかな。


「でもまあ、拒否られていた時より今のがずっとマシだけど」


「……そう、なんだ」


 それが聞ければ、良いか。


「そこのませ猫。リオを離せ、ってな」


「……誰?」


 いきなり後ろから現れたルーファス。ネコくんは軽蔑して見ている。


「さあ、一体誰だろうなー?」


 いつも以上のおふざけ。

 これはルーファスのネコくんが受けた第一印象は良いものとは言えないだろう。


「ルーファス、子供をいじめるな」


「……子供?」


 レノも現れ、ルーファスのおふざけを注意するが、ネコくんはぴくっと反応する。


「ああごめんな、ついいじめたくなっちまってよ、子供を」


 たぶん、ネコくんは子供と言われるのが好きではないんだ。それを分かっていてわざとルーファスは発している。


「ねえ、このヒトたち誰?」


 ネコくんが私を抱きしめながら怪訝そうに訊く。さっきよりオーラが黒くなっている。

 これはあまり癇に障るようなことを言わないようにしないと。

 えーと。


「お友達?」


 そういえば、私とルーファスたちの関係って何だろう。


「お友達って」


 変な回答をしちゃったのか、ルーファスに笑われた。確かによく考えてみれば人間と妖怪が友達なんておかしいけど。

 ーー私たちの関係って何なんだろう。


「僕はレノだ」


 ネコくんがこのヒトたち誰、と聞いていたからかレノが自己紹介をする。


「俺はルーファス。よろしくな」


「……」


 続けてルーファスが自己紹介するが、何も発さないネコくん。


「なんか言えよ」


 痺れを切らすルーファス。

 それでも黙っているネコくん。

 ぼそっと一言。


「このヒト、苦手」


「ああ? なんか言ったか?」


「別に」


 ネコくん、この短時間で相当ルーファスの事苦手になったな。


「それよりリオ、良い匂いする」


「いい匂い?」


 てか早くリオを離せよ、とルーファスが言っているが、聞く耳持たないらしい。


「……あ、焼き芋かな」


「焼き芋?」


 さっき食べたばかりだからまだ臭うのかも。


「人間の食べ物、俺たちも食ったんだ。お前も食べてみたいか?」


「いらない」


「ま、もうねーけどな」


 ルーファスは本当意地悪。


「ほら」


「え?」


 いつの間にか近くに来ていたルカ。


「半分、やる」


 差し出す手には焼き芋。ネコくんはそれを受け取った。


「……ありがと」


「ああ」


 静かなやり取り。


「なんか、微笑ましっ」


 空気を読まず、ルーファスが思った事を口にする。私もそう思ったけど、抑えたのに。


「どこかの誰かさんも、このヒトのように分け合うって言葉を知ってくれていたらな」


「それは一体誰のことだ?」


「さあな」


 唯一黙っているレノに向けて発したルーファス。剣のある言い方ではなかったのに、レノは少しイラついている様子。

 ……ルカやレオ。ルーファスとレノ。そしてクウとコンとギン。それに加えネコくん。

 忘れずにおじいも。

 勢ぞろいして賑やかになった。

 でも、何か物足りなかった。

 天邪鬼と如月くんがここにいないことを。

 いないのが当たり前なはずなのに、足りなかった。……早く分かり合ってほしいな。

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