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第六話 蛇の願い事(前)

 クウが氷力石を手に入れたのは自分の神社と言っていた。

 お賽銭箱の中で何かが光り輝き、覗いてみるといきなり飛んできて、体の中へ消えていくように入っていったという。


 たぶんそれが氷力石。

 ネコくんは、クウとは別の神社で見つけた。それは二人が傷つけあったあの場所。

 そのことをルカに言うと、それを確かめに行くことになり。 丁度、学校が休みであった私は二人について行くこととなった。


 長い階段を登り、前にルカとネコくんが戦闘していた途中にあるスペースをすぎ、上まで行く。

 登りきって、最初に見えたのはーー草。

 神社とは思えぬほど、草が生え賑わっている。

 悲惨な状況にみんなが沈黙。

 そんな中、レオが口を開いた。


「これはひどいね」


 確かにひどい。

 私の身長と同じくらいの草がその辺一体に生え揃っている。そのため、一番大事な神社が見えない。

 助かっている所と言うべきなのか、赤い鳥居の手前までは無事。

 何も言わず、スッと剣を取るルカはまさかこの草を切ろうとしているのか。

 剣が草刈り機と同じ役割を果たすところを目にするとは。

 上から斜め下にまずは一振り。


「びゃあーっ」


 途端に響く叫び声。

 それに反応したルカが剣を止めた。

 カサコソと揺れ動く草。

 何事かとみんなの視線がそこへ注がれる。


「びっくりしたー。死ぬかと思った」


 現れた者を見てぎょっとした。

 ニョロニョロと動くそれは蛇。


「あれ? ぼくのことが見える?」


 これも妖怪だろうか。

 視線に気づいた蛇が私を見上げ、キョトンとする。


「お前はどうしてここにいる」


 どうやらルカは、この蛇は危険対象じゃないと察知したようだ。剣を鞘の中にしまった。


「どうしてって、ずっとここにいたから」


 表情が変わらないのに、どこか穏やか。


「そうか」


 興味なさそうに相槌を打つ。そんなルカを見て思った。まさかこの妖怪蛇を疑っていたんじゃないかって。

 例えばの話。蛇は氷力石がここにあることを知っていた。でもそれはネコくんの手に。蛇はそれを知らず、まだ探し続けている、と。

 まあ例えばの話なんだけど。ルカとかそこまで推測しそうだし。まず最初に相手を疑うタイプだろうから。


「手水舎って、どこにあるかな」


 ここに来た目的は氷力石のあった手水舎を見るため。

 基本に戻り、レオが尋ねる。


「それならそっち。水は枯れちゃってるけど」


 蛇の示した先は草で何も見えない。

 仕方ないと草を掻き分けながら進んだ先には手水舎があった。蛇の言うとおり水は枯れている。

 ネコくんは氷力石をこの手水舎で見つけた。そしてクウはお賽銭箱の中。 私は井戸。

 私が一番妥当な場所で見つけたかもしれない。

 それにしても全て神社の近くにあった。何か意味があるのかな。


「あの」


 神社を後にしようとしたところ呼びかけられ振り向くと、そこにいたのは蛇ではなかった。

 薄紫色の羽衣を肩にかけ、和風な格好をした人の姿。

 特徴的なのは長い髪。上部で縛っているのに腰まである長さ。


「ぼくのお願い、聞いてもらってもいいですか?」


 さっきまでの雰囲気と全く違う。


「興味ない」


 背を向け、ささっと行ってしまう。そんなルカのことを知らないヒトは情のないやつだと思うだろう。少しは知っている私でも、微かにそう思ってしまうんだから。


「ぼく、この神社が好きなんです。……でもここはこの通り草っぱら。どうしてもちゃんとした所にしたくて」


 ルカの背中が見えなくなった頃。

 蛇の姿から人に化けた彼が、赤い鳥居の足元でおそらく神社の建つ方向を見つめる。

 長く生える草のせいで見えないが、彼には見えているのだろう。


「悪いけど、僕たちは力になれそうもない」


 意外にもレオは最後まで聞かずに断った。

 そんな返答がくることが分かっていたのか、彼はこちらを見ずに、ただ一点を見つめるだけだった。


「そう……ですよね」


 神社の建つ方向を。

 ーー行くよリオちゃん。

 去り際にレオと目が合った時、そう言っているように見えた。


「……」


 階段を降りていくレオの後を追おうかと迷う。

 これでいいのかな。

 足を止め、後ろを振り返る。

 まだ彼は同じように立っているだけだった。そんなに深い想いがあるんだろうか。時間を忘れて見つめられているほどの想いが。


 結局私は何もせずにレオの後を追った。彼の寂しげな横顔は今でも印象に残っている。

 これで良かったのかな。何も見なかった聞かなかったことにして、彼を無視したのと同然。

 もやもやしする。歩けば歩くほど、神社から離れれば離れるほど、もやもやが増す。

 次第に歩幅が小さくなっていく。


「私、聞いてくる」


 迷いを断ち切るように足を止めた。

 彼の願いを聞いたところで私に何ができるというのか。

『自分に何ができるのか何ができたと考えるより、してあげたいっていう気持ちのほうが大事なんじゃないかな』

 まえレオに言われた言葉。それが私の想いを確実なものにする。


「気になるんだ。彼の願い事」


 数歩前にいるレオ。振り返るが、まだ理解できていないのか少し沈黙の間。


「駄目だよ。仮にも彼は妖怪、一人で行って何かあったら」

「じゃあオレが一緒に行ったら大丈夫か?」


 私の隣に現れたのはネコくん。木の上から華麗に登場といったところだ。

 レオはそんな私たちを見比べて複雑そうな笑みを浮かべる。


「ネコミミくん……、そっか。いいよ、行っておいで」


 最後にはいつもの柔らかい笑みで見送ってくれた。


「よし。じゃあいくぞ」


(わっ)

 ネコくんは急ぐことがあるのか私を抱き上げ、そのまま木の上へと乗る。

 どうしてこうもみんな、抱き上げたり担ぎ上げたりするのだろう。

 そんな疑問を抱きながら、早いスピードで走り続けるネコくんの腕の中で、景色を見続けていた。


 神社の前に着き、階段を登りきると彼の姿があった。あれからあまり時間が経っていないからか、変わらずに神社の方を見ている。

 俯き溜め息吐く。悲しそうな彼の横顔。私たちが視界に入ったのか、こちらを向く。


「あれ? 何か忘れ物ですか?」

「願い事、聞きに来た」


 私の発言に驚いたかのように彼が目を見開く。紫色に輝く綺麗な瞳が一層引き立つ。


「あんたの願い事って、なんなの?」


 私の横には、興味があるのかないのか分からないヒトがいる。


「一緒にここを綺麗にしてくれるヒトを探しているんです」


 腰に手の甲をつけ、少し体を傾けている状態で訊いたネコくんに対して、蛇の彼は丁寧に答える。

 ふーんと相槌をいれるネコくん。つられて彼は話を続ける。


「普通の人間にはぼくのことが見えない。だから同じ妖怪に頼ることにしたんです。でも、このことを言うとみんなバカバカしいって相手にしてくれなくて」


 無理して笑みを浮かべているせいで苦い表情となっている。


「だったら自分一人でも草抜きすればいいじゃん」


 なんだか冷たいネコくん。


「それがぼく、運動音痴で……この鳥居の前まで掃除するのにも精一杯だったんです」


 同じ妖怪に頼っても、ちゃんと向き合ってくれない。だからこんなにも草がいいように生え伸びている。

 鳥居の手前だけ綺麗なのが不思議に思っていたけど、彼が頑張って抜いた所だったのか。

 視界に映るネコくんはげんなりと呆れているようだった。

 もしかして、彼の願いはそんな必死な事でもなかったりしてーー


「ふぬぬ……」


 撤回。前例撤回。蛇くんは頑張っています。

 両手で草を握る彼は、私たちにその情景を見せたかったんだろうか、必死に力をいれているようだが草がびくともしない。


「こんな感じでここ何ヶ月続けてやってるのに、草が伸びるほうが早くて」


 それはそうだろう。結局、蛇くんが奮闘していた草は抜けていない。

 除去してたのにこれだけ伸び切ってしまっている草。はあー、と一息ついて説明した彼は何も分かっていないようだ。自分の異常なまでの運動音痴を。


「うん、なんとなく納得いくよ」


 どうせ抜けないなら、まとめて抜こうとしないで一本ずつにすればいいのに。


「……確かに納得いくけど。というかもっと力出せないわけ?」

「これでも一応、力いれているつもりなんですけど」

「ダサ」


 私の言葉に同意するネコくんだが、今日はなんだかきつい態度をとる。それに加え、彼を呆れた目でじとーっと見ている。

 微かに笑みを浮かべただけの彼は、姿勢を整え胸元へ手を当てた。


「改めてぼくはミカゲ、この神社に住み着いている。言い訳するつもりじゃないけど、いつもの姿だと手を使うことがないから筋肉がついていないんだと思う」


 彼の本当の姿は蛇。蛇には手足がない、だから使いたくても使えない。人の姿になって初めて手を使うんだ。力がないのも仕方ないよね。


「ふーん。ま、オレには関係ないけど」


 また興味なさそうにそっぽを向く。そんなネコくんと自分の自己紹介をする。


「私はリオ。こっちは……」


 そういえばネコくんの名前ってなんだろう。無表情でどこか不機嫌そうな横顔を見て、またそう思った。

 前にも訊こうとしたけどタイミングが悪かったこともあって、結局は訊かなかったんだよね。


「リオ様!」

「……!?」


 ネコくんのことに気が取られていると、いきなりがしっと掴まれる両手。それが前へと持っていかれ、自分の掌同士を合わせられる形となる。


「一緒にこの場所を綺麗にしてくれませんか」


 期待の眼差し。ぎゅっと力を込め、握られ続けた両手。


「そのつもりでここに来たんだけどね」


 上から注がれる視線から逃れるように別のところを見る。


「本当ですか!?」

「うん」


 まさかこんなに驚かれるとは思っていなかった。

 見上げれば、きらきらとしたミカゲの瞳。まるで子供のようだ。


「リオ様、いいお人ですね」


 純粋で真っ直ぐな目、ほころんだ笑み。

 もう、手を離してほしいんだけど……この状況、少し恥ずかしい。それに様付けなんて、偉い人みたい。


「ミカゲ、『様』なんて付けなくていいよ」

「どうしてですか?」

「何か、どうしても」


 理由を述べようとしたが、特に言うことはなかった。

 とにかくミカゲより年下だろうし。上のヒトからそんな呼ばれ方するヒトなんていないと思うんだ。


「嫌ですか?」

「嫌ではないけど」

「だったら良いですね」


 変に押しに弱いというか、自分の思いがないというか。主張しようとしないから何変わりなく、この話は終わる。


「で。こんな草原地帯、どうやって除去するつもり」


 まだ冷たい態度のネコくん。


「それはーー」

「手で地道に抜くしかないね」


 答えられないミカゲの代わりに私が答えた。するとネコくんがちらっと視線を向けてきた。

(今なんか、流し目が……)

 気のせいかな?


「そ、おつかれ」


(え?)

 言うが早いかネコくんは消える。木の上へ。


「言っとくけど、オレはしないから」


 何も言っていないのにすまし顔で答えるネコくん。

 この草たち全てを抜くには、私一人の力で何日かかるか。


「手伝って、って言ったら?」


 ミカゲも一緒にやるけど、きつく言ってしまえばミカゲは頼りにならない。


「昼寝する」


 木の上で普通に寝転がる、さすが猫。じゃなくて手伝ってくれないんだ。ネコくんなら手伝ってくれると思っていたんだけど。

 いや、そう思う自分は甘いのか。


「それじゃあ始めよっか」


 手伝ってくれないと言うんだからしょうがない。なんとか頑張って二人で、まずは草を抜いてそれから神社の中も掃除。できるなら手水舎の枯れている水も元通りに出来たら良いな。


「はい!」


 ミカゲと共に。



「また明日ね」

「明日も来てくれるんですか?」

「もちろん。この場所が綺麗になるまで、最後までやるよ」

「リオ様っ……」


 うるっとすぐに涙目になったミカゲは何か言いたげだったが、ネコくんに手を引っ張られ連れ去られて聞けず。


「はいはい、とっとと帰るよ」


 一日目の学校休みは、草むしりで終わってしまった。

 まあ、いい運動になったよね。次は軍手を持っていったほうがいいかな。

 よし、明日も頑張るぞ! ……なんて前向きな気持ちだけとはいかず。

(疲れた)

 結構くたくた。


「お人好し」


 隣を歩くネコくんの言葉が妙に突き刺さる。お人好しって、良い意味でも、悪い意味でもあるんだな。


「やっぱり、困っているヒトを見たらほおっておけないというか」


 何も悪いことをしていないのに、まるで言い訳をしているよう。ネコくんの目を見れずに視線を外しながら言うと、ネコくんが足を止めた。


「一つだけ言っておくけど、無闇に妖怪に近づかないほうがいいよ」

「どうして?」

「危ないから」


 ーー真剣な瞳。

 妖怪には近づかないほうがいい。そんなことは知っている。妖怪は危険、レオにもそう遠回しに言われた。


「ネコくんも、妖怪でしょ……?」


 でもそれなら、私の目の前にいる君たちはどうなの? ルカとレオはおじいに頼まれて私を守ってくれている。けどさ……。

 レオの真似をするならーールカもレオも仮には妖怪。妖怪は危険、だから近づかないほうがいい。

 それなのに私はルカとレオの傍にいる。ネコくんだってそうだ。


 ミカゲはただ神社に住みついている蛇の妖怪。危険と見られるところは一つもない。それなのに妖怪だからって警戒しなければいけないんだろうか。

 違いが分からないよ。

 少し癇に障ってしまったのかもしれない、もしくはいじけてしまったか。何も言ってくれないネコくんを置いて歩き出す。


 妖怪と人間は似ていると思ってたけど、やっぱり違うのかな。本当は、一緒にいてはいけない者同士なんだろうか。

 それなら私は、どうすればいいの? 見えているのに、見えないフリをしなければいけない?

 そんなのおかしいよ。

 そんなの……。


「何か、あった?」


 家に着いてすぐお風呂に入った。

 暖かい気温の中体を動かし、お風呂で汗を流す。なんて健康的。


「私、あの神社最後まで綺麗にするから」


 タオルを頭にかぶせ、濡れている髪の毛を拭く。そのおかげで隣にいるレオの顔が見えない。一体どんな顔をしているんだろうか。

 あの神社に行くのは、一人で妖怪に会いに行くということ。それをレオが許してくれるかどうか。またあの時と同じく止められるかもしれない。次はネコくんと一緒に行く訳じゃないから。


「そう」

「……止めないの?」


 案外簡単に許された。ちゃんと私の話を聞いていただろうかと思うくらい。


「あの妖怪は危険な者とは思えない。もし何かあったら駆けつけるよ。それとも僕が一緒に」


「ーーううん大丈夫」


 レオから許しを貰っているのは、貰わなくてはいけないものだと思っているから。

 ルカとレオは私の身を守ることをおじいから頼まれている。私が変な行動をとれば二人に迷惑がかかってしまう。

 そんなことしないために、冷静に物事を判断できるレオの言葉が必要なんだ。

 本当はもっと自由にしたいんだけど、仕方のないこと。

 疲れてしまったのだろう。この日は知らぬ間に眠っていた。

 そして翌朝、支度をしてからミカゲの元へ向かう。


「……」


 いつもの道で、前方にネコくんの姿。なんだか気まずい。

 その横を通りすぎる。


「また行くんだ」


 どうすればいいのかと考える暇なんてなかった。昨日のことを思い出していたために、いつの間にかネコくんを無視することに。


「ダメ?」

「だめなんてオレ言った?」

「だってネコくん、妖怪には近づかないほうがいいって……」

「それはそれ」


 これはこれ、と言うかのように近づいてきて先を越す。


「ほらいくよ」


 振り返ったネコくんは、少しだけ柔らかい表情をしていた。


「手伝ってくれるの?」


 数分歩いたところで、同じ歩幅で歩くネコくんに訊く。


「まさか。オレはただの見張りだよ」


 何も言っていないのにわざわざ来てくれるんだ、手伝ってくれるかもしれない。そう思っていたのはどうやら間違いのようだ。


「今日、何かおかしいと思わない?」


 ネコくんにそう言われ、考えてみるが特におかしいところはない。

 おかしいといえば、昨日のミカゲへのネコくんの態度。言葉が少しきつくて、いつもと違かった。


「キミを担いでない」


 担ぐ? ……ーーあ、そういうことか。


「できるだけ一緒にいたいから、抱っこして行くのはやめる」


 いつも私を運ぶネコくん。

 それが別に普通だとは思っていない。

 レオにも抱っこされるけど、それは不可抗力というかそんなもの。だからこうして普通に歩くことが、私にとってもいいこと。


「リオ様」


 パッと明るくなる表情。


「待ってました」


 ふわっと笑うミカゲは、どこか可愛らしげ。


「今日も頑張ろ」

「はいっ」


 嬉しそうに大きく頷く。

 そんなミカゲを見ると、早くこの神社を綺麗にしたいと心から思える。

 それからは軍手をはめ、無心に草を抜き続けた。


「ふー……」


 ひと休み、と額を拭く。


「疲れた?」

「うん、少し」

「手伝おうか?」


 木の上から話しかけてくるネコくん。どうやらずっと見守ってくれているようだ。

 ネコくんの気遣いに首を横に振る。


「ううん、大丈夫だよ」


 ここを綺麗にするのに人数は多いほうがいい、というのは誰でも分かること。でもそういうもので決めるものではないと思うんだ。


「そう」


 ネコくんの優しい声が耳に入る。

 私の視線の先にはミカゲ。前に見せてくれたように、草を抜くのに苦戦している。

 大変だろうけど、ミカゲと二人、頑張ろうと思う。

 次の日、学校前に神社へ寄った。

 するとそこには、ミカゲの姿。一人で頑張って神社を綺麗にしようと必死になっている。そんな姿を見てやる気がおきない訳がない。


 途中から乱入し、参戦した。

 実は昨日、疲れていつもより早く寝たんだ。そしたら朝はすっきり。いつもより一時間前に起きてしまい、やることもなくてミカゲの元へ。

 それを二週間ほど続けた。


「ふわぁ」


 あくびを噛み殺す。

 学校の授業。三時間目まではなんとか大丈夫だったが、四時間目から眠気が誘ってきて。お昼には若葉と斗真の二人に心配されるさま。

 最後の授業。教科の担任がいないということで急遽特別な授業となった。

 内容は図書室で静かに読書。

 帰りの会は済ませてあるので、これが終われば単独で帰れる。


 それまでの辛抱だ。寝るわけにはいかない。

 席は自由で、右隣には若葉。斜め左前には斗真。六人座れる場所となっていて、他二人も座っている。

 唯一私の左の席が空いていて助かった。私が眠そうにしていても気づかれないだろう。顎の下に手を当て、顔を支える。こく、こくと上下する頭。もう危険な状態。手元に本は置いてあるが全く読んでいない。


 ーーもう無理

 そしてそのまま机の上に倒れた。

 起きた時には誰もいなかった、と言いたいところだが、一人だけいた。斗真が。

 まだ寝ぼけていることもあって、喋りかけることもなく背伸びをする。


「よく眠れていたようだね」

「知らず知らずのうちにぐっすり」


 頬杖をついて私を見ている斗真に笑みを浮かべながら答えたあと、足元にある鞄を手に取り、すぐに席を立つ。


「もう帰るね」


 机の上にある全く読んでいない本を戻そうと手に取った時。

(ーーあれ? そういえば)


「斗真は帰らないの?」


 未だ席に座っている斗真。

 考えてみればおかしい。学校は終わり、他の人はもう帰っている。隣にいた若葉だっていない。

 私が起きた時点で誰もいないはず。なのに斗真がいる。

 斗真がここにいる理由が分からない。


「里桜のこと待ってた」


 じっと見つめていると、ほんの少し表情を柔らかくし、目を細めた。

 真っ直ぐな声に、本を持ったまま固まる。


「それってまさか、一緒に帰るとか」

「そうだけど。無理?」

「無理っていうか……」


 これからミカゲの元へ行かなければならない。この一週間、学校へ行く前や放課後にミカゲのいる神社に行き、草抜きを毎日してきた。今日だけ行かないとなったらミカゲだって心配するだろうし。

 視線を泳がせていると時計が目に入った。


(……もう四時半)


 今更この時間に神社へ行っても活動できる時間は限られている。それなら今日は素直に神社へは行かないで、斗真と一緒に真っ直ぐ帰った方がいいかもしれない。


「うん、じゃあ帰ろ」


 今日は神社へとは行かないと決め、持っていた本を後ろにある本棚に戻した。

 斗真と一緒に帰るなんて久しぶり。

 久しぶりすぎても、私たちの間には気まずいという空気は流れない。それほどの仲だから。

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