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鬼神姫の烙印  作者: 柊鴇
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「さんきゅー、(たける)

「助かったよ、お前の自慢の足のおかげだ」


彼らは今、昼食を食べるために屋上へ向かっていた。つい先程、売店に着いた三人。我こそはと押し荒れる人混みの中から焼きそばパンを掴むのは至難の業。しかし、武の秀でた運動神経のお陰で何とか三人分掴むことができたのだ。


「お前ら役に立たなさすぎ。特に(たつき)、相変わらず動く努力すらしないな」

「はは、だって柔道部とか相撲部とかの隙間をくぐり抜けていかないといけないんだろ?汗臭ぇじゃん」


武は、さも当然のように言う樹を睨む。

確かに昼間の売店はお腹を空かせて集まってくる運動部が多い。その中でも特に多いのが、学食でも足りない食欲を満たすための食料を必要とする相撲部員・柔道部員なのだ。


しかし樹は何時もの事だと全く気にもとめていない様子。


「俺は頑張ったぞ」

ふいに日向(ひゅうが)が言葉を発した。

武が自分の事について全く触れないことが気に触ったのか、さり気なく自らをアピールする。

武と樹は立ち止まって後ろで階段を上っている日向の方をちらりと流し見た。そして無言でお互い頷きあって、再び歩き出した。


「…ああそうですか。俺の身長のことが言いたいんですね、よく分かりました」

日向は武と樹が言わんとしたことを察した様で、ぷいっと不貞腐れて横を向いた。


実際、彼は焼きそばパンのためによく頑張っていたと思う。が、運動部の体格と小柄な彼の体格ではどちらが有利かは一目瞭然。可哀想ではあるが、戦う前から勝敗は決まっているのである。


屋上へと続く階段を上りきり、“立ち入り禁止”の表札が付いている鎖を跨いで三人はドアを空けた。

雲ひとつない青空が広がっている。太陽が燦々と地面を照らしていて暖かく、時折吹く風が心地よい。


「こんな表札だけじゃ意味ねーのにな、むしろ『入ってください』って言ってる様なもんじゃん」

はははと笑いながら軽い口調で樹が言った。


「ま、普通の奴らは入んねェよ」

「そーそー、俺らみたいな特別な奴ら限定ー」

「裏を返せば、表を真っ直ぐ表ととらない、性格ひん曲がってる奴らって事?」

「…」


樹の言葉に日向が黙ってしまった。取りようによっては確かにそうも取れるからだ。


「ひん曲がってるのはお前の性格だよ…」

「ん、何か言った?」

「何でもございません」

ボソッとした呟きをも聞き取る地獄耳の持ち主、樹。日向は彼はいつも飄々としていて掴み所のない奴だが、怒らせると怖いことをよく知っている。


「さっさと食べようぜ」

なかなか食べ始めようとしない二人に痺れを切らして、武が声をかける。

焼きそばパンの袋を開けて今にも食べようとしているものの、律儀に待っていた。


「おー、食べる食べる!俺の焼きそばパン~」

日向が満面の笑みで大好物の焼きそばパンを掴み袋を開ける。

「あー、この匂い。最高」

独りで感傷に浸っている日向を放って置いて、二人は食べ始めた。


すると突然屋上の物陰から一人の生徒が現れた。

彼はドアの方へと歩いていき、静かに出ていった。


あれ、誰かいたんだ…

武は屋上に入ってきた時には何も物音がしなかったので、屋上に居るのは三人だけだと思い込んでいた。

武達がいる側からはその生徒の顔がはっきりとは見えず、誰なのかはわからない。


「もしかして…神凪弥琴(かんなぎ みこと)じゃない?」

樹が言った。

「誰それ」

「えーっと、確か去年の夏に転校してきた奴。すんごい美少年だっつーことで、一時期騒がれてたじゃん」

「…そうだっけか?俺クラス違ったから知んね 」

隣りではぁ…と樹が溜息を吐く。

樹は、日向は物覚えが悪い馬鹿なのか、はたまた周りに関心が無いだけなのか今ひとつ良く分からないと感じる。


「あ、そうだ、武。お前ならよく知ってんだろ」

そう言って樹はもごもごと口に焼きそばパンを含んでいる武の方を見た。

「お前、一緒じゃん。寮」

「でも…モゴモゴ…ゴクン…今年からだぜ?しかも全く喋んねーの」


そう、武と神凪弥琴は同じ部屋なのだ。

武と一年の時に同じ部屋だったルームメイトは煙草やら女遊びやら度が過ぎた悪事の連発で一年の終わりに退学になった。その結果ちょうど夏に転校してきたが空き部屋が無く臨時の教師用の宿舎を使っていた神凪が入れ替わりで入ることとなった。


武は一年の時のルームメイトのせいで自分にもよくない火の粉がかけられた最悪の出来事などを思い出し、げんなりした。

それに比べれば今のルームメイトは断然いいと思う。


「そっか。ま、そうだよな。神凪弥琴っていっつも独りで居るし全く喋らないし…もっと明るかったら絶対モテただろうね」

「モテたって…男にかよ」

「ま、あれだけ綺麗な顔だったらイけんじゃね」

さらっと樹が言った言葉に、武は理解できないといった顔をする。

日向は一人会話についていけない様子で、残りわずかな焼きそばパンを片手に、二人の顔を交互に見比べていた。


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