東条武
暑い日差しが地面を照りつけ、道行く人々は皆汗を流している。車の往来は盛んで、ここは大都市の一つであるようだ。
都市は賑やかな音で溢れている。
人の話声、鳥のさえずり、車のエンジン音、青信号を知らせる音、工事現場の音、ビルのモニターから流れてくるコマーシャル。
その中でも、特に賑やかな音を出しているここは、葉隠学園男子校である。
この大都市の南中央に位置する全寮制の学園だ。少し離れたところに葉隠学園女子校もある。なかなか交流は無いが、学園祭やら体育祭やら、行事ごとの際は一緒に行われる。また入学試験は難しいものの、将来における子供達の道がしっかりとしているため志望するものはあとを立たない。
「昼飯買いにいこーぜー」
チャイムがなり終わって直ぐに声を発したのは東条武。身長が高くかなりのイケメン男だ。
「俺、焼きそばパンな!」
「俺、パトゥルジャン・イマム・バユルドゥ 」
「待て待て。お前らも一緒に行くんだよ」
そう言って二人の頭を叩く武。
「っ〜!!これ以上縮んだらどうしてくれんだカス!」
「縮んだところで大して変わんねぇよ」
軽口を叩く男、日向伊吹をズルズルと引っ掴んでドアの方へ歩いていく武。
「こいつイヤミだ、自分が高いからって…」
ジト目で武を睨む日向。確かに彼は身長が低い。本人もその事を気にしているようで、髪の毛をワックスで立てて少しでも高く見せようとしている。
ドアまで日向を引き摺った武は、ふいに後ろを振り返った。
「おい、こら。樹」
「…あ、バレた?」
そう言ったのは、マイペース男、須磨樹。椅子から全く動いていないところを見ると、一人だけ教室に残って二人に買ってきてもらおうと考えていたようだ。
「…早くこい」
「仕方ないね」
やれやれといった様な表情で立ち上がる樹に、武は『こっちがその表情をする側だっつーの』とイラッとした。
「てか、樹。さっき言ってた…パトゥルなんとかって何」
「あー、俺も気になる」
「あぁ、あれね。…え、まさか知らないの?」
「…」
武は残念な人を見る目で自分の事を見る樹にまたもやイラッとした。
「パトゥルジャン・イマム・バユルドゥ、これはトルコの夏野菜料理。正式な名前は、パトゥルジャン(=ナス)イマム(=僧)バユルドゥ(=気絶した)。高僧がこの料理の匂いをかいだだけで、あまりにおいしそうで気絶した「「黙れ」」
「…」
珍しく意見が一致した武と日向だった。