五時限目:級友とは仲良くしましょう
球技大会は各クラス男女それぞれ1チームずつの、計2チームが参加する。各学年は、A組とB組の2クラスだから、夕日ヶ丘からは12チームが出場するわけだ。 試合は3年生からで、1年生の出番は昼休みを挟んだ後である。今、コートの中では、3年生のなかなかに白熱した戦いが繰り広げられている。応援や歓声の声に呑まれて、ホイッスルすらまともに聞き取れない。
そんな熱気あふれる体育館の片隅で、ぼーっとしながらラジカセからバックミュージックを垂れ流している放送委員がいた。
名は本塚武史、1年A組の生徒である。彼のことを説明するのに、さほど多くのことを語る必要はない。カタカナ二文字で事足りる。そういうわけで書きます、というか、いきます。せーの。
『バカ』。
何、「本当にこれだけ?」?はい、これだけです。「本当に?」?いやだから本当ですって。「really?」言語の問題じゃないです。
本当にバカなのである。馬に鹿と書いて、それをカタカナに直して、バカなのである。だが、そこは曲がりなりにも放送委員。口だけは達者で、昔から結構さまざまな人を困らせてきた口げんか職人である。
と、そこへ環境を破壊しながら保全しようとする意味不明人間、坂本が通りかかった。坂本、こいつも割りと口は達者である。
「やあ、愚鈍人間君。お仕事に忙しそうで何よりだよ。何だ、今日の仕事は?ボーっと虚空を眺めることか?」
「よお、エコロジー狂。おまえは暇そうだな?俺は常日頃お前という存在を消し去る計画立てんのに忙しいっつーのに」
「言うではないか」
これ、と坂本が発砲スチールの容器を差し出す。
「ギョーザだ」
「あそう。で、ミスターエコロジー狂略して変態メガネ」
「略す必要なんて1mmもないだろう。しかも全く略しになってないぞ。頭おかしくなったのか?何だ」
「『何だ』の前丸々必要なくね?じゃなかった、何、これ」
「ギョーザだと言っているだろう」
本塚が発泡スチロールを指差してつぶやく。
「いやこれ、沈んでるんですけど。ギョーザが、水に」
「水ギョーザだ。本場では、こちらのほうが主流らしい。なんでも、焼きギョーザは残り物処理料理だとか」
坂本はしれっと言い放った。
「……ギョーザに関して何か嫌な思い出でもあんのか、お前。さっきもなんか叫んでたし。明らかにうらんでるだろ、ギョーザのこと」
「ああ、うらんでいる。もっとも、うらんでいるのはギョーザではなく君のことだがな」
「なんだとおまえ!さっきから聞いてりゃ俺のこと散々馬鹿にしやがって!」
「馬鹿になどしていないだろう、騒々しい!本当のことを言ったまでだ!」
その言葉で堰が切られたらしい。本塚は坂本に掴みかかっていった。
「ええい放せっ、卑怯者!なんですぐに手が出るんだ!」
「お前にそれ相応の原因があんだろーが!」
と、その時。
「お前らいい加減にしろ!」
背後からかけられた声に振り向く。声の主は副学級委員長確図である。
「……なんだよ、確図?」
ぱっと坂本から手を放した本塚が、ややばつが悪そうに言った。
「なんだよじゃねーよ。見回りだよ見回り。生徒会の仕事」
「……ん?確図君は生徒会だったのか?」
「学級委員長と副委員長は生徒会はいるって決まってんだよ。いちいち選挙すんの面倒くせーから。選挙すんのは生徒会長決める時だけ。そんなことも知らねーのかよ坂本お前アホだな」
「君にだけは言われたくないっ!」
落ち着けって、と苛立たしそうにいって、確図は二人に背を向けた。
「俺はこれからほかの場所行ってくるけど、お前らくれぐれも騒ぎだけは起こすんじゃねーぞ。じゃーな」
片手を振って立ち去る確図を眺めながら、本塚はため息をつく。
「おい、お前このギョーザ、どうすんだよ?」
しかし振り向いたその場所に、坂本の姿はなかった。
「あの野郎!」
そう叫んで走り出した本塚の頭の中から、確図の言葉と放送委員の仕事のことは既に消え去っていた。
いつも投稿が遅れてしまってすみません。なにしろプロフィールにもあるように学生なもので……。あまり言い訳にしないようにしてこれからも頑張っていきたいと思います。
たくさんの方にお読みいただけて嬉しいです。ありがとうございます。