渡し舟
気がつくと私は河原に立っていた。整然と並ぶ順番待ちの列が、どこへ行けばいいのかを示している。
覗き込んで列の先頭を見ると、どうやら運賃を先払いしているようだ。
「はて、持ち合わせがあっただろうか」
そんなことを思いながら、左手で懐を探ると、見慣れない小銭を持たされていることに気づいた。
「これで支払えということだろうか」
私の番になり運賃を確認すると、やはり額がちょうどだった。
私が運賃を支払い渡し舟に乗り込むと、舟は早速岸から離れる。
船頭は小気味よい音頭を取りながら軽やかに櫓を漕いでいる。
「お客さん、その若さで一人旅ですかい。」
ふと、私と目が合った船頭が話しかける。
「ええ、まぁどうやらそのようです。」
私は愛想笑いを浮かべ相づちを打つと、
「そうですかい。」
と、少し寂しそうな笑みを浮かべ小さくかぶりを振ってから、また小気味よい音頭を取りながら櫓を漕ぐ。
せせらぎの音とギーギーという櫓の音、時折聞こえる歌声が心地よい。
どれくらい渡っただろうか。変わり映えのない景色に少し手持ち無沙汰になり、少し身を乗り出し川面を覗き込む。遠目には浅く見えた川は、よく見ると意外に深く、気を抜くと吸い込まれる感覚に襲われる。
「お客さん、気を付けて下せぇ。この川、見た目に反して流れが速いんで、落っこちたら私でも助けられねぇっすよ。」
私の行為に気がついた船頭が注意を促す。
落ちた後を想像し、ゾッとして居住まいを正した私に、
「あと少しで着きますんで、辛抱して下せぇ。」
と、声をかけられる。
気づくと遠くに見えていた急峻な山が、目の前に迫っていた。
「これから大変な旅になるとは思いますが、無事に終えられることを祈ります。」
そんな船頭の言葉を背に、私は舟を降りた。




