第2話 もう2度と負けない!
眩い光が、私の体を優しく包み込んだ。
痛みも、恐怖も、金属バットの冷たい感触も、血の匂いも——すべてが遠ざかっていくような感覚だった。
「……ここ、どこ?」
ゆっくりと目を開けると、そこは見覚えのある場所だった。
高校の体育館。更衣室の前。少し薄暗い通路で、2年生の私がまだ少し疲れた顔で、バスケットボールのシューズの紐を結んでいる。
(……あの日だ)
私は息を飲んだ。
今日は——怜央と別れた次の日。夏の大会が終わった直後で、私は泣きながら「もう付き合えない」と告げた翌朝だった。
震える手で自分の体に触れる。確かに2年生の体。1年前の事件の日ではなく、別れた直後のタイミングに飛ばされていた。
頭の中に、あの日の惨劇の記憶が鮮明に蘇る。
怜央の狂った目、振り下ろされる金属バット、後輩たちの泣き声、私がコートに倒れる姿——。
(タイムリープ……本当に、戻ってきたんだ……しかも、別れた直後のこの日に……)
私はその場に膝をつき、深く息を吐いた。目頭が熱くなり、涙がこぼれ落ちそうになるのを必死に堪えた。
(神様……ありがとうございます。このチャンスを、絶対に無駄にはしない)
立ち上がった瞬間、私は心の中で固く誓った。
もう二度と、後輩たちを怖がらせない。
もう二度と、あの男にこの大切なコートを汚させない。
そして——私は、絶対に強くなる。
その日から、私の過酷な修行の日々が始まった。
朝は5時半に起床。近所の公園を全力で走り、帰宅後に筋トレを1時間以上。学校が終わるとすぐに体育館へ直行し、顧問の先生が帰った後も誰もいなくなったコートで1人でシュート練習を続けた。300本、400本……時には500本を超えることもあった。指先が痛くても、手が腫れても絶対に止めなかった。
夜は家に帰ってからも自主トレ。部屋でプランク、スクワット、腕立て、腹筋を繰り返し、プロ選手のディフェンス動画を何度も研究した。食事も完全に管理し、高タンパク・低糖質中心に切り替えた。甘いものは一切禁止した。
周囲の反応もすぐに変わった。
「星野、最近すごい変わったな。体も顔つきも引き締まってきた……大丈夫か?」
顧問の田中先生が心配そうに声をかけてきた。
私は笑顔で答えた。
「もっと強くなりたいんです。エースとして、みんなをちゃんと引っ張れるようになりたくて。本気でインターハイ優勝を目指したいんです」
先輩や後輩たちからも声をかけられるようになった。
「澪、動きがキレキレだよ。なんか本気出してきたな」
「目が違うよね……怖いくらい集中してる」
私はただ「ありがとうございます」と微笑んで、練習に没頭した。本当の理由は誰にも言えなかった。
特に力を入れたのはディフェンスとフィジカルだった。
接触に弱かった自分を変えるため、毎日壁相手にシャドーディフェンスを繰り返し、想像上の怜央に全力でぶつかっていった。下半身と体幹を徹底的に鍛え、瞬発力と握力を大幅に強化した。縄跳びは毎日1000回以上、ウェイトトレーニングも欠かさなかった。
時には後輩の彩花を捕まえて1対1の練習を付き合わせた。
「澪先輩……今日は本当に強いです。なんか迫力がすごくて……怖いくらい……」
彩花が息を切らしながら言った。彼女の目には憧れが宿っていた。
私は汗を拭きながら、心の中で静かに微笑んだ。
別れたばかりの頃、私はまだ怜央の影に怯えていた。でも今は違う。
毎晩、布団に入る前、私は天井を見つめて何度も誓った。
(もう二度と、あの男に大切なものを奪わせない)
(後輩たちを泣かせない)
(私は、自分の夢も、みんなの笑顔も、絶対に守る)
汗と努力と、少しの涙で——私はその日から1年間、死に物狂いで自分を鍛え続けた。
体は逞しくなり、動きは鋭さを増し、精神力も以前とは比べ物にならないほど強くなった。
私はもう、怜央に一方的にやられる弱い自分ではなかった。
そして、運命の再来の日が、再び近づいていた。
私は静かに、その日を待っていた。




