5・悪役令嬢の真骨頂
む。
「マチルダ様は、貴重な聖魔法の使い手だから、国王陛下も
(以下略)」
ついに略されるようになったか。
さすがにね。巻き戻りのたびに聞かされる、このセリフは長いなあと
思ってたんだ。
時間の巻き戻りも4回目、5回目の転生人生かあ。
しかし前回の魔王には悪いことしたなあ。私がよけいなこと
しなきゃ、毎日2個のコロッケパンで、幸せに過ごしたんだろうに。
まあでも何もしなくても数年後には攻めてくる予定なんだから、
敵対が数年早まっただけだと思って勘弁してもらおう。
でも、よく考えたら不思議なのよね。
1回目の時には聖女がいなかった、だから国が滅んだ。
それはわかる。
でもさ、2回目以降には存在してるよね。なのになんで
聖女は国を守れなかったのか。
たぶん、聖女がまだ能力を開花させてないからだよね。
魔王軍が攻めてくる予定の数年後には、聖女のレベルが
上がってるから、なんとかなるってことだと思う。
ということは。
とっとと聖女が高レベルになれば、私が何をしようと、
どんな展開で魔物が襲ってこようと、この国を助けられるって
ことじゃないかしら。
逆に言うと、低レベルのうちは、私が何をしようと
国が滅ぶということ…。
そうか、そういうことか。
私はここに至ってやっと、自分の立場を理解した。
私は、私は…! 聖女をいびるために存在しているのだ!
それからの私は、マチルダに発破をかけることに専念した。
断罪も追放も覚悟の上だ。
ある日は、お友達らしき令嬢とおしゃべりしているマチルダに
「マチルダ様、ずいぶん楽しそうですけど、光魔法の訓練は
終わりましたの?」
忘れ物をして取りに行こうとするマチルダに
「この国を支えるべき聖女だという自覚はおありなの?」
回復魔法を行使しているマチルダに
「アラン様がお優しいのは、あなたが光魔法の使い手だからよ?
そんなレベルの回復しかできないようじゃ、アラン様のおそばに
いる資格はなくってよ?」
魔力切れを起こして休んでいたマチルダに
「まあまあ、せっかくアラン様から直々に魔力の扱い方を
教わっているのに、その程度なの? アラン様がお気の毒」
と、ねちねちと言い続けた。
そのたびにアラン様に「そんなきつい言い方しかできないのか?
マチルダ嬢がかわいそうだろう」と非難されたが、きつい言い方は
必要悪だ。
「いつも見下してくるこの女を見返すために、強くなってやる!」
と発奮させるために、踏みつけなくてはいけないのだ。
踏みつけるだけだと耐えられないかもしれないが、アラン様や
他の上位貴族の子息たちが、慰め励ましてくれるから、
彼女はきっと立ち上がれる。
みんながアメをあげるなら、私はムチをふるう。
お互いの役割を全うして、全力で聖女マチルダを育てるのだ。
マチルダ、私を憎みなさい。そして、私を見下すために、立派な
聖女になって、この国を救ってちょうだい…!
という気持ちで言っているつもりだけど、アラン様と仲良くする
マチルダを見るとむかつくので、ねちねち嫌味を言うのは
正直楽しかった。
歴代の悪役令嬢たちも、こんな思いで聖女をいびっていたのかも
しれないなあ、と感慨にふけりながら、卒業パーティーの日を
迎えた。
今日でこの国を追放される覚悟はできている。
でも最後まで公爵令嬢として美しくありたいと思い、せいいっぱいの
おしゃれをして、パーティー会場のホールに向かった。
壇上の王太子アランが私を呼んだ。かたわらには聖女マチルダ。
断罪きたー。でもいいの、マチルダは立派に育ってくれた。
思い残すことはないわ。隣国で、平民として、筋肉つけたり
腐った本を作ったり、自由に暮らすのも、いいと思うの。
私はすでに達観していたので、落ち着いてアラン様の言葉を待った。
「クラウディア公爵令嬢、この場で、君に確認しておきたい。
君はここにいる聖女マチルダに、毎日のようにきつい言葉を
浴びせていたな」
そう問われた私は、堂々と胸を張り、アラン様の目を見て
「はい」と答えた。
その途端、マチルダが顔をくしゃっと歪ませて泣き出し、
「あ…ありがとうございました…!」と言った。
え?
「わたし、わたし、レベル99になれました! こんなに早く
カンストできたのは、クラウディア様のおかげです!」
え? え?
「クラウディア、私からも礼を言う」
参列していた国王陛下!? まさかのお言葉!
「誰もが聖女を宝物のように扱っていた時に、あなただけが
聖女に厳しい言葉を投げかけた。聖女は宝だが、守るだけでは
成長しない。それをわかっていて、聖女のために行動してくれた。
本当にありがとう」
まじで?
「はじめは、なんでこんなにマチルダ嬢に厳しくするんだろうと
思っていた」アラン様がぽつぽつと語りだした。
「恥ずかしいことに、もしかしたら私への嫉妬でそうしてるのかと
思っていた」
ええ、そうなんですよ…嫉妬まるだしでしたよ…
「でも気づいたんだ。君がマチルダ嬢に厳しく言い始めてから、
マチルダ嬢のレベルの上がり方が格段に上回ったことに。
私がいくら指導しても、進まなかった魔力の制御も、一晩で
見違えるようになった」
「クラウディア様に言われたことがくやしくて…徹夜でがんばり
ましたから…」マチルダが恥ずかしそうに言う。
「それで…制御できたことを、クラウディア様に誇らしげに
報告したら、クラウディア様は『できて当然のことを
できたからって何だというの?』と…」
うっ! 覚えてるわそれ! だって~そんくらいでドヤ顔してる
マチルダがむかついたから~~~。
「その時、気づいたんです。このかたは、私の能力を、とても
高く買ってくださってるんだと。私は、もっともっと力のある聖女に
なれると信じてるんだと」
まあ、聖女いないと国が滅ぶしね…
「だから、がんばれました。本当にありがとうございました。
聖女としてのお務めを、立派にできるように、これからも
ご指導ご鞭撻をお願いいたします」
お辞儀されてしまった。
「私も婚約者として誇らしい。これからもよろしく頼む」
アラン様…。
会場からわあっと歓声があがり、王太子にエスコートされた私は
壇上に上がって、みんなからの拍手を受けた。
なにこれ…こんなことあっていいの…?
私、私は…悪役令嬢なのに…! こんな、うれしいことが
あっていいの…???
私は、あふれてくる涙を止めることができなかった。
そんな私を、アラン様がそっと支えてくださったので、嬉しくて
さらに泣いてしまうのであった。
こうして大団円を迎えた私の転生人生だが、この数年後、
国は滅ぶのであった。




