しがない花売りだった私が貴族に見初められてクリスマスの舞踏会で世界が変わった夜
私は街角で花を売っている。夕方決まった時刻、決まった屋敷に花を届けるのが仕事だった。
「パルドサム様、お花を届けに参りました!」
「今日の花も、きれいだね」
低くて落ち着いた声で、いつも持って行った花を褒めてくれる。
私の代わり映えしない日常、けれどその日のパルドサム様は、燕尾服を着ていた。
「……え、今夜、ですか?」
「毎日、花を届けてくれるお礼に招待がしたいなと思って、どうかな?」
「まさか、舞踏会にご招待いただけるなんて……冗談ですよね?」
「冗談なら、こんな格好で君を待ち構えたりしないさ」
気づけば私は、豪華なドレスに身を包み、舞踏会の会場に立っていた。
シャンデリアが輝き、ピアノの演奏が耳に心地よい。
花売りだった私の世界は、クリスマスの夜にゴージャスでキラキラしたものに一変した。
「見違えるようだね、一曲、私と踊っていただけませんか?」
「パルドサム様の、足を踏んでしまったらどうしましょう……」
「エリカになら踏まれても構わないさ。君が笑顔でいてくれるならそれだけで僕は満足するから」
正真正銘、別世界の人なのに、平民の私の手を取り、胸元に引き寄せられる。
「貴族の人って、みんなそんなに余裕たっぷりなんですか?」
「いや。そんなことはないよ。僕はよく子どもっぽいとも言われるし」
ぎこちない足取りの私に合わせてステップを踏みながらテーブルに置かれたケーキを見た彼の目が、ほんの一瞬だけ輝く。
「今、タルトをチラ見してましたよね?」
「ばれたか。あとで一緒に食べよう」
完璧なエスコートに惚れ惚れしていたら、そんな無邪気な一面を見せてくる。
そのギャップに、クラリと来てしまう。
「……心臓に悪いです」
「甘いケーキが?それとも、おぼつかない足取りのダンスがかな?」
「あなたがです!」
彼は楽しそうに笑った。
「君が毎日届けてくれた花のおかげで、屋敷が随分と華やかになったんだ」
「そんな、めっそうもございません」
「今夜は、そのお礼だ」
耳元で囁かれて、私は顔を真っ赤にして俯き、何も返せなくなる。
世界がきらきらして見えるのは、きっと照明のせいだけじゃないはず。
「……どうなっちゃうんですか、私」
「さあ。クリスマスは、奇跡が起きる夜だろう?」
そのキザな言葉を聞いて、また胸が高鳴る。
私は、もう、しがない花売りには戻れない予感がしていた。




