●act05: 「ケリー」
ニッキーのテーブルにロッコは戻ってきた。
ロッコの後ろにケリーがついてくる。
「これでいいかい?」
「ご苦労様、ありがとう」
ニッキーはロッコに視線も向けず両手でジョッキを持ちビールを一口飲んだ。
ロッコは自分のイスにドカリと座りながら、
「もうちょっと気の効いた台詞がほしいなぁ」
するとニッキーは笑顔で、
「ありがと。愛しているわ、ロッコ」
しかし態度はぞんざいなまま。
顔だけロッコに向けて笑顔であるが言葉は感情なく棒読みである。
ロッコもそんなニッキーの塩対応は慣れていた。
「はい、はい」
そしてニッキーはロッコの後ろに立つケリーに声をかけた。
「座りなさい。私はニッキー、ニッキー ハート。彼は、ロッコ シーフ、私のパートナーよ。貴女は?」
ケリーはニッキーに対面するイスに座り、名のる。
「ケリー ダイナソン、、、」
「貴女、歳いくつ?」
「16、、、」
国が定めている成人年齢は16歳。
だが、州や地域によって変わる場合がある。
この国は習わしや慣習、地域の法が優先される。
しかし、今居るココはそのようなものはないはず。
「そう、一応成人ね」
「一応じゃなく、ちゃんと大人だ」
彼女の自尊心を損ねたようだ。
ニッキーは素直に謝った。
「ごめんなさい。子供扱いしているわけじゃないの。Miss. ダイナソン」
「、、、ケリーでいい、、、」
ニッキーは自分から見たケリーの印象を正直に話す。
「ではケリー、貴女お酒飲むようにも見えないし、賭け事するようにもみえない。なんでポーカーなんかしてたの?」
「今日、この宿に泊まる。バーに降りたのは食事のため。そのときにポーカーに誘われた。簡単で面白いって言うし、最初は勝ってたから、、、」
ロッコが口をはさむ。
「それが奴らの手なんだよ。はじめ勝たせてその後根ねこそぎさ。」
ニッキーにはケリーのしぐさ態度が少女・未成年のように思えた。
成人しているとはいえ賭け事に誘われ興味本意で乗るなんてまだ子供だ。
そのような未熟者を騙し食い物にする悪い奴らはこの世の中ごまんといる。
それを諭すように、
「まあ、大人ならバーにも入れるでしょうけど、あまり女性が一人で来るところではないわよ。なんで酒場の宿にしたの?普通の宿もあったでしょ?」
ケリーが応える。
「屋根がある馬宿があるの、この宿しかなかったから、、、」
「え?」
ケリーが返してきた返事の意味をニッキーはつかめなかった。
「デレクを雨晒しところに泊まらせたくない」
「デレク?」
「あたしの相棒」
ロッコがまた口をはさむ。
「ほら、話にあった馬人のことじゃないか?」
ロッコの助言でニッキーは納得はしたが、馬人は魔獣だがその扱いは家畜に近かった。
「馬人なら外でもいいでしょ?たぶん今夜、雨は降らないわよ」
「ダメだ。そんなことしたくない!」
ケリーの強い言葉にニッキーは黙り込んだ。
ケリーが乗っていた黒い馬人のことだろう。
その馬人はケリーにとって大切なものらしい。
ニッキーは話題を変えた。
「貴女、昼間、牛追いしてたでしょ。ずいぶん手際がよくって感心したわ。牧場のオーナーもとても喜んでたわ。牛が逃げたら大損害だったでしょうね。それで貴女を覚えてたの」
ニッキー、ロッコは遠めからケリーを見て知っていたが、ケリーにとってはこれがニッキーたちとの初対面になる。
「お前たち、なんだ?」
「貴女がいた牧場は、わたしの会社の牧場なの。今日、わたしたちもあそこに居たのよ。わたしも昔、あそこに住んでいたことがあるの。」
「お前も孤児なのか?」
孤児院として開放されていた牧場。
ニッキーは孤児ではないが、その牧場に居た理由はあった。
「、、、ま、似たようなものね。」
曖昧な返事にケリーは黙りこむ。
ニッキーは今回のケリーが牛追いをした一件での素直な疑問を口にした。
「でもなんで柵が壊れてたのかしらね。」
ロッコが応じる。
「大方、逃げた牛を横取りしたかった奴がいたんじゃないか?悪いヤツはいっぱいいるさ。ポーカーでイカサマする奴とかね。」
「それは貴方もでしょ」
「おいおい、オレは君に頼まれてしたんだぜ」
「あら、そうだったかしら」
ニッキーのおざなりな返事にロッコは憮然となり腕組みをする。
するとケリーがぽつぽつ話はじめた。
「牛追いはデレクが得意だから。それでお礼をもらったから宿に泊まることにした。なのに、せっかく牧場主からもらった大事なお金を賭けに使ったことを後悔した。取り戻したいと思った、、、。悪いのは自分だ、、、」
ケリーの自身を戒めるような言葉にニッキーは、
「いちおう、わかっているのね、、、」
ニッキーは思う。
自分も多くの失敗を教訓にして今に至っている。
彼女も同じように自らの過ちを糧にして生きていくのだろう。
自分の過ちに気付ける、それは彼女の大きい力となるはずだ。
まだ未熟なところもあるが、信頼できる人となりうる素養を持っている。
ニッキーはケリーが誠実な女性になるであろうと思った。
しばらく沈黙が続いたが、ケリーは目の前にあるモノについて聞かずにはいられなかった。
「、、、なぜ刀を持っている?」
その言葉にニッキーは驚きを隠さなかった。
「あら、貴女これがわかるのね。めずらしいわね。どこから来たの?」
『刀』という言葉を知っている人間はごく僅か。
失われつつある言葉。
多くの人はこれを『剣』『ツルギ』『ソード』『サーベル』と呼ぶだろう。
その細身の刃は鞘に収まっている状態であれば、ただの棒と間違われることもある。
いまこの世で『刀』を知る人、人種、種族はいなくなりつつある。
『ヒト』の三原種と考えられている、インデ、クロン、ヤポン。
そのひとつ、ヤポン。
ニッキーの知識では、『ヤポン』が刀を造り伝承していると聞いている。
ヤポンの身体的特徴である黒い髪、黒い瞳、黄色い肌。
ケリーはまさしくそれに当てはまる。
彼女はヤポンの末裔なのか?
ケリーは言葉を続ける。
「それは普通の刀ではない。なぜそんなものを持っている?」
ニッキーはさらに驚き眼を見開く。
『刀』を知る人はいるかもしれない。
彼女もその一人なのだろう。
しかし、この刀は見た目は他の刀と見比べても変わらない、同じモノに見えるはず。
だが彼女、ケリーはこの刀を『普通の刀ではない』という。
この刀のチカラを見抜いているようだ。
この刀のチカラを知る者はいないはず。
・・・なぜわかる?
・・・彼女はやはりヤポンなのか?
・・・ヤポンであればそれを知りうる能力があるのか?
ニッキーの疑念は確信に限りなく近いものとなり、またケリーをその刀の秘密を知りうる、注意すべき、警戒すべき人物して認識する。
ニッキーはテーブルに両肘をつき手を組んで、そこに顎を乗せケリーを見つめる。
「面白いわね、、、貴女、何者?」
ニッキーとケリーは睨みあった。
だが、ケリーの言葉がその均衡を崩す。
ケリーは目を逸らし、また頬を赤くして、
「今夜は二人の相手をするのか?女とはしたことがない」
そのあまりにも場違いなセリフにニッキーは大笑いする。
「はあ?あ、アハハハハハハハハハ、、、
ホントに面白い娘ね。そんなのいいわよ。貴女の分のお金はあげるわ。貸しにしといてあげる。だからこれに懲りて、もう賭け事なんかに手ぇ出したらダメよ」
バーにニッキーの笑い声が響きわたる。
女性の高笑い。
バーにいる酔っぱらいが自分の相棒に呟いた。
「あの姉ちゃん、さっきハートって言ったぜ」
その相棒があきれ顔で応える。
「はぁ?ハートの人間がこんな場末の酒場にくるわけねぇ。空耳だよ」
「そうかなぁ、、、」
バーの入り口の陰でイカサマをした男の一人が隠れていて、ニッキーたちの話を聞いてこっそり抜け出していった。
夜も深まりバーで騒いでいた連中も各々の部屋に戻っていった。
夜空には三日月が輝いていた。
月には小さい衛星が回っている。
その小さい衛星も月明かりを浴び輝いていた。
この宿場町には水路が通っており、水は不自由なく使えた。
ニッキーたちが泊まる酒場宿も暖かいシャワーを浴びることができた。
ニッキーもロッコも旅の身体の汚れを洗い流し同じベッドにいた。
ロッコが呟く。
「ちょっともったいなかったかな」
ニッキーが聞いてくる。
「え?なにがぁ?」
「あの娘さ。オレらと一緒に寝るつもりだったんだろう」
その言葉にニッキーの顔が般若の表情となり毛布の上からロッコのイチモツを両手で力強く握り締めた。
いきなりの急所攻撃にロッコは悶絶する。
「イテテテ!おい、そこは勘弁してくれ」
ニッキーはロッコを睨みつける。
「これはわたしのものよ」
「オレのものでもあるんだが、、、」
ニッキーの嫉妬深さはロッコもわかっていたが、ちょっとした軽口でも責められることには少々辟易する。
だが、それがニッキーの愛情表現でもあることもロッコは理解していた。
普段の態度も素っ気ないくせに独占欲が強く嫉妬深い。
でもときおり自分だけに見せる笑顔、何気ない優しい言葉がロッコを魅了していた。
そしてロッコはあの娘 ケリーからかけられた気になる言葉を思いだす。
「あの娘、オレのことを見抜いていそうだな」
「え?どういうこと?」
「『お前は人か』と聞かれたぞ」
「まさか、、、」
「わからんがな、、、」
ニッキーは思案する。
『刀』を知っていて、その秘密もわかっているようだった。
そしてロッコのことも気づいている、、、
やはり、あの娘、ケリーは普通の女性ではない。
なにか特別なモノ、チカラを持っているようだ。
「刀のこともなにか知ってるみたいだし、、、。あの娘、ヤポンかしら、、、」
「どうだろなぁ、、、」
「興味あるわね、、、」
不思議なチカラを持つと思われる娘、ケリー。
しかしニッキーにはもう一つの懸念があった。
こちらの方が、直近の脅威と考えられる。
バーにいたイカサマ連中である。
「それよりどうするの?きっと奴ら来るわよ」
「どうするって、君がしろって言ったんじゃないかぁ」
「だってーぇ、、、」
間違いなく仕返しに来るだろう。
身の危険ということでは喫緊の問題である。
だがロッコはいつもの調子ではぐらかしてくる。
「はあ、そうだなぁ、まあでも来るとしても皆寝静まった夜中さ。じゃっ、来客前に楽しんでおこう」
ロッコはニッキーの肩を持ちベッドに仰向けに寝かした。
ニッキーがなにか悩んで相談してもロクな返事が返ってきたことがない。
でもそんなロッコをニッキーは憎むことができなかった。
「もう、、、ほんと、緊張感ないわよねぇ、貴方って」
「お褒めにあずかり光栄だね。ニッキー、愛してるよ」
いつものようにロッコはニッキーの胸元に顔を埋めて愛撫してくる。
「あん、、、」
隣の部屋に泊まるケリー。
ニッキーの甘い声が聞こえ、頬を赤くする。
「もう、、、」
夜空に輝く三日月。
夜は更けていく。




