●act04: 「酒場宿」
しばらくしてニッキーとロッコも牧場を出て近くの宿場町に向かった。
日が沈む頃には町に着き酒場宿に入る。
ここには数軒の宿があったが、この酒場宿が一番大きい宿だった。
入り口から入るとバーになっており、広いフロアにはもう大勢の酒飲みがおり賑やかになっていた。
泊まりの部屋は二階にあり、ふたりはダブルベッドの部屋をとり食事のため一階のバーに降りる。
空いているテーブルの席に座り、ロッコは背負っていた刀をイスにかけ右手を上げフィンガースナップでウェイトレスを呼んだ。
ウェイトレスが来てお辞儀をする。
「いらっしゃいませ」
「ビール、ステーキウェルダムで、あとサラダだ。ニッキーは?」
「わたしもそれでいいわ。またガブ飲みはダメよ」
「はいはい」
ロッコが話しかける。
「もっと牧場に居たかったんじゃないのかい?オレはてっきりあそこに泊まるのかとおもってたよ」
以前、ニッキーが暮らしていたという牧場。
ニッキーは行く前から楽しみだと言っていた。
想い出があるところなのだろう。
牧場にいた子供たちは皆ニッキーに親しそうに話をしていた。
慕われる存在だったのだろう。
ニッキーも嬉しげに優しい笑顔で応えていた。
ロッコは『あんな女神のようなニッキーを見たことがない』と、思ったが口にはしない。
するとニッキーはすこし寂しげに応えた。
「そうね、、、でもあそこはもうあの子たちのモノなの。ママやパパにも気を遣わせたくないし、こんなオバサンが居座ってもしょうがないでしょ」
「オバサンはないだろ。優しいお姉さんじゃないか」
ニッキーは21歳。
オバサンはまだ早すぎる。
「わたしはあそこを遠くから見守っていられればそれでいいの」
老夫婦が営む孤児院となった牧場。
もし老夫婦が亡くなったとしても子供たちが引き継いでくれるだろう。
それを離れて支えていられればそれでよい。
困った時だけ手助けできればいい。
自分がいたところが、子供たちが生きていける場所があればと、
ニッキーはそう想っていた。
そんなニッキーに優しくロッコは呟く。
「そんなもんかね」
向こうのテーブルから笑い声が聞こえた。
数人の男たちが囲むテーブル。
ポーカーをしているようだ。
「あら、あの娘は、、、」
そこに牧場にいた少女ケリーがいた。
テーブルにはケリーと男が三人座り、その周りを数人の男が囲んでいた。
男たちはニヤけ顔でケリーを見ており、ケリーは困り果てた顔で俯いていた。
大負けしているのだろう、明らかにカモにされてしまっているようである。
ケリーに対面する男がカードをシャッフルしながら、
「嬢ちゃん、もうやめたほうが、いいんじゃないか?」
「もう一回!」
「もう賭けるもんがないんじゃないか?」
「ええっとぉ、、、」
「その首飾りはどうだ?」
男はケリーの胸元の赤い宝石のペンダントを指さす。
ケリーはペンダントの宝石を握り、
「これは絶対ダメ!」
そして自分の身体をまさぐり賭けられるものはないか探すが見つけられるわけもない。
それを見透かし男はケリーを追い込んでいく。
「嬢ちゃん、馬人持ってるんだってなぁ。じゃあ、その馬人といままでの全部はどうだ?」
「デレクもダメ!」
「なんだぁ、デレクって?」
「あたしを賭ける!もし敗けたら、今夜あたしを好きにしていい!!」
よほど追い詰められてるのかケリーは己の身体を賭けの場に挙げる。
男たちは歓声をあげた。
「嬢ちゃん、自分の言ってることわかってんのかぁ?男と寝たことあるのかぁ?」
ケリーは頬を赤くして顔を逸らす。
「あ、あるよそれくらい。」
だが、そのしぐさから明らかにウブである。
対面の男はそれを見抜き煽る。
「嬢ちゃん、よくよく見るとけっこういい女だなぁ。こんな若い娘を抱くのも久しぶりだ。気合いが入るぜ」
女として見られてなかった、子供扱いされていたと思いケリーは不満げに男を睨む。
「よくよく見ないとダメなのか?」
「ああっ?」
「まだ決まってないぞ。あたしが勝つから、、、」
強がってはいるがケリーに勝機などあるはずない。
男はなおケリーを追い詰めていく。
「そうだなぁ、でも嬢ちゃん、後でなかったことにはならないぜぇ。」
「わかってるよ。そ、それくらい、、、」
ケリーはいまさらながら己の躰を賭けに出したことに後悔しだしていた。
そんなケリーを見てニッキーはロッコに声をかけた。
「ロッコ、助けてあげて」
ロッコはあからさまに嫌そうに声を上げる。
「ええ?!なんで?いつもは首突っ込むなって言うじゃないか。そんな義理ないぜ。めんどくさい。しかし、あの娘もとんでもないこと言いだすなぁ」
「わかっているんでしょ?!」
「そりゃまぁ、、、」
男たちはイカサマをしてケリーを騙している。
テーブルに座る男たちの仕草から、ロッコはその手口を見抜いていた。
だが他人事、厄介事にはかかわりたくない。
「でもあんな簡単な手に引っ掛かるんじゃあなぁ。騙されるほうが悪い」
「ロッコ!!」
ニッキーは鋭い眼つきでロッコを睨んた。
こうなるとロッコは逆らえなくなる。
ロッコはため息をついて、
「はい、はい、わかったよ」
ロッコはうなだれイスの背もたれの向こうに頭を垂らす。
酒場を見渡し軍人たちがいることを確認する。
軍人は警察任務も担っている。
賭け事は咎められないが、イカサマはご法度。
バレれば当然罪になる。
イカサマを暴き軍人にチクればあの男たちはお縄となる。
「まあ、なんとかなるかな」
「刀は置いていって」
「はい、はい、、、」
ロッコは立ち上がりケリーと男たちがいるテーブルに歩いていった。
ロッコはケリーと対面して座る男に声をかけた。
たぶんこの男がこの一派のリーダーだろう。
「旦那、オレもまぜてくれるかい?」
「なんだ、おめぇ?」
「オレもこの娘を抱いてみたくてね」
「てめぇ、、、人の獲物、横取りするつもりかぁ?」
「まだ旦那のもんと決まったわけじゃないだろう、これでどうだぁ?!」
ロッコは大枚の札束をテーブルに叩きつけた。
男たちはどよめく。
リーダーであろう男はいぶかしげにロッコを見た。
「おめぇ、なにもんだ?」
「通りすがりのしがない使用人だよ。旦那が勝てば、この金とこの娘は旦那のもんだ」
ロッコは空いているイスをゲームをしているテーブルの前に置きそれに座った。
ゲームがはじまる。
カードが配られ各々が己のカードを見た。
ケリーの表情は真剣そのモノである。
己の貞操を賭けた戦い。
勢いで言ってしまったが、もちろん敗けたくない。
敗けられるわけがない。
数枚のカードを捨てストックから引いていく。
ドローしたカードをケリーは食い入るように見つめた。
瞳が大きく見開かれ、やがて消沈し項垂れ俯いたままとなる。
自分が勝てないことを悟ったのであろう。
ロッコもカードを換えていく。
他の男たちもカードを換えたが、ケリーの対面の男はカードを換えなかった。
だが一瞬、両手で手札を隠す仕草をした。
ロッコはその意味を理解していた。
「換えないのかい?」
「ああ、今日は調子がいいんだ」
「そうかい、羨ましいね」
ショーダウンがはじまり手札を見せ合う。
ケリーの対面の男が得意げに手札を見せた。
「ストレートフラッシュだ」
他の男たちも手札を見せた。
ワンペアにスリーカード。
ケリーは役なしのブタ。
ケリーは俯いたまま肩を震わせていた。
最後にロッコが手札を見せる。
最強のロイヤルフラッシュ。
リーダーの男が驚愕の声をあげた。
「そんなはずは?!てめえ!イカサマしやがったな!!」
衆目がそのテーブルに集まる。
それはロッコの狙いでもあった。
「そんなことしちゃいないよ。それより、なにが『そんなはずは』なんだい?旦那が仕込んでたのと違うからかい?」
男たちが色めき立つ。
「てめぇ!アニキがイカサマしたっていうのか?!なにを証拠に!!」
「そうだな、まず今、旦那の右手を返して袖に入っているカードがなにか知りたいな」
リーダーの男は反射的に自分の袖を手で隠した。
周りの男たちが一斉に腰の銃を抜く。
ロッコは男たちを見て、
、、、コイツらみんなグルか。
ロッコに正義心などない。
ただ、ひとりの少女を男どもがたかって食い物にしようとしていることが気に食わなかった。
リーダーの男はロッコを睨み顔を近づけ、
「てめえ、オレたちがアンドリューと知ってやってんだろうな?」
どうやら、この辺を根城にしているチンピラどもらしい。
脅しにきているようだが、ロッコが知る由もない。
「なんだいそれ?」
「貴様らなにをしている!」
酒場にいた軍人が声をあげた。
「州軍大尉のデニムである。酒場とはいえ、不法な争いは許さん!なぜ銃を抜くのか?!」
リーダーの男が舌打ちをした。
酒場に軍人がいることを忘れていた。
周りに人の目があるため、もう男どもはイカサマの札を隠すことができない。
ロッコもイカサマをした。
だが、男たちはロッコを侮りその手口を見抜けずにいた。
いまロッコが男たちがやったイカサマの手口を軍人に明かせば現行犯逮捕となる。
ロッコはそれを見透かして、
「いやあ、すいません、みんなちょっと熱くなっちゃって。はいみんな、しまってしまってぇ」
抜いた銃を下げるように促し、そしてリーダーの男の耳元で囁いた。
「旦那、オレの勝ちでいいな。それならオレも黙っておくよ。」
リーダーの男は憎々しげにロッコを睨み立ち上がる。
「てめぇ、覚えてやがれ!」
「ちゃんと金は置いていってくれよ」
周りの男たちもテーブルから退いて酒場宿から出ていった。
ロッコは軍人にペコペコ頭を下げる。
「どうもお騒がせしました」
「無法な騒ぎを起こしてはならんぞ」
「はい、すいません」
軍人も自分のテーブルに戻っていった。
テーブルに残されたカードと賭けた金。
ロッコはそそくさとイカサマ隠しのためカードをまとめ、金をかき集めた。
ホクホク顔のロッコ。
「いやぁ、けっこうイケたねェ」
そんなロッコをケリーはイスに座り睨んで見ていた。
その瞳には先ほどまでの迷いや失望の念は消え、警戒と敵意がこもっていた。
「お前、人か?」
ロッコはそんなケリーを一瞥して、
「なんだい、救世主に向ってに失礼だな。魔獣にでも見えるかい?尻尾なんて生えていないぜ」
そう言ってロッコはケリーに尻を向け叩いてみせた。
ケリーはまた俯き
「、、、すまない、悪かった。お前の部屋はどこだ?」
「はぁ?」
「今夜、あたしはあんたのもんだ。好きにしろ、、、」
視線を逸らしその頬はまた赤くなっている。
この勝負にケリーの身体が賭けられていたことをロッコは思い出し笑いだした。
「あぁ、アハハハハハハッ!じゃあ、まず、向こうのテーブルに来てもらおうか」
ロッコはケリーにニッキーのいるテーブルに行くように促す。
賭けに敗けた以上従うしかない。
ケリーはイスから立ち、ロッコについて女のいるテーブルへと歩いていった。




