暴風
「コンニチハァァアアアアアア!!!!」
その男は満面の笑みと鬼の形相と男梅を足して52を掛けたみたいな顔で近づいてきた。
「今ヒマですか! ヒマですよね! ヒマに決まってますよねマスヨネェ! もしよかったらそこでおティーでもしませんッカォ!!!!!!!」
ナンパだ。
⋯⋯ナンパだよね?
「急いでるんで、すみません」
「ちっ!!!!!!!!!!!!!」
ドデカ舌打ち。
「ブスのくせに! とてもブス! あなたはこの星で一番ブスです! 一番星の真逆です! バーカバーカお腹痛くなっちゃえバーカ! ダメ押しのバーカ! バーカバーカ! お前のかーちゃんバーカバーカ! お前バーカバーカ! 僕はこの星でいちばん頭がいい。」
足早にその場を離れると、また別の男が近づいてきた。
「あのォ!!!!!!!!!!!!」
声をかけられる。
「どこ行くんですか?? 何歩歩いて何メートルの建物に入って何をするんですか??? ねぇどこ行くんですか? どこ行くんですか? ぼくはペンギンですか?」
「どこでもいいでしょ」
「え〜気になるなぁ〜」
「すいません、急いでるんで」
「(^ω^≡^ω^)(^ω^≡^ω^)そ、そんなそんなな!(^ω^≡^ω^)モルカ〜〜〜。シーソーを食べます」
まったく、台風だというのにパッパラパー・オブ・デスピエロ・オブ・ピエロ・オブエロエロ⋯⋯の多い街だ。
「ただい魔族」
誰もいない部屋に帰宅の挨拶をすると
「おかえリッツパーティー幕府だわよ」
背後から幻聴が出迎える。
テレビをつけると、台風情報のせいでひと回り小さくなったツルが映し出された。ツルは木の上からおじいさん目掛けて柿を投げ、殺害しようとした罪で逮捕された。その後、助けに来た麒麟(お母さんは鼻の白い天狗)と白虎(お母さんは鼻の短い天狗)に魚肉ソーセージを分けてもらい、3人で記念写真を撮ってそれから手を繋いで一輪車でサイゼリヤに行き、泳ぎ疲れて溺死したり食パンを文句言いながら食べたりした。
「はぁ⋯⋯」ムシャムシャ(←テレビ見てたら食パン食べたくなったけど家になかったから食べる妄想だけしてる)
昔からため息ばかりの人生だった。
日に2度もナンパされるなんて、私はそんなにも「いけそう」なんだろうか。
⋯⋯⋯⋯またブスって言われたなぁ。
慣れてるはずなのに、やっぱりつらい。
昔からあだ名がずっと転売ヤーだった。
小学校中学校では、男子たちにすれ違いざまに「ポマード!」と叫ばれることが多かった。
高校2年の時、同じクラスだったペガサスみゆきに言われた「服は可愛いけど、顔はバズライトイヤーの全体像みたいだよね」という言葉が忘れられない。友達だと思っていたのは私だけだったんだ。だってそうだよね、普通友達にバズライトイヤーの全体像みたいな顔なんて言わないもんね。でも友達じゃない人にも言わないよね。じゃあ私なんなの? 友達でも友達じゃなくもない、ただ顔がバズライトイヤーの全体像の女? え? 人生ってこんな変なの?
今の職場では歓迎会で貞子そっくりな店員さんに「ペガサスみゆきはなに人なんだよ」と言われて以来ずっとブスキャラだし(←なんで?)、ブスの大会があったら準優勝間違いなしだから今のうちに買う車決めとこ。
眠し。激眠し。
激激眠し。激眠し。三四がなくて、阿部寛。
「おやすミーガン2面白かったからみんなも見てみてね」
誰もいない隣の布団に挨拶をする。
「おやすミーガン2面白かったからみんなも見てみてね」
オウム?
こんな毎日だ。ブスと言われても、それはいつもとなんら変わらない、風のように過ぎていくだけの日々の一部。背景がなんか喋っただけ。明日には忘れる。忘れる。忘れる。忘れろ。
╲C.D.D.╱
「忘れられるかぁ!!!!!!!!」
あんなうるさい背景居ねぇわ! 暴風そのものだよありゃ!
「おはヨン様!」
あ、ついに幻聴に先越された。
「おはよウンコマン」
顔洗って歯磨いて、パン食べて、マーガリン食べて、化粧して、化粧落として、化粧して、お風呂入って、化粧して、ウインナー美味っ! 長靴履いて出勤や。毎日めんどくさ。生きるのめんどくさ。死ぬのもめんどくさい。全部めんどくさい。なんなら生きてないんじゃないかな。死んでもないけど。生きてたことあんのかな私。どういう存在なんだろう。ペガサスみゆきの友達でも友達じゃなくもない存在ってこれ以外に表す言葉ないのかな。ないなら今作っていいかな。かっこいいのがいいな。何にしよう。ウニとか? ステーキにしようかな。唐揚げもいいなぁ。まあ今日は初日だし黒飴にしとくか。謙虚さ忘れると人は滅ぶからね。毎日リマインダーで1時間ごとに「謙虚!」って出るようにしてるからね。世界一謙虚だよあたしゃ。
「あのちゃん」
考え事をしながら歩いていると、後ろから声をかけられた。こんな朝からナンパ? 断ったらまた酷いこと言われるのかな。やだな⋯⋯
振り返ると、爽やかイケメンがいた。
「これ、落としましたよ」
彼の手には私の心臓があった。
「あ! ありがとうございます!」
人の善意に触れるのが久しぶりすぎて、少しテンパってしまった。
「いえいえ、どういたしまして」
そう言いながら、私の顔を見つめる男性。あんまり顔見られたくないんだけどな⋯⋯
「あの⋯⋯」
「あっ、すいません! ちょっと知り合いに似てる気がして⋯⋯えーっと誰だったかな⋯⋯」
「アイドルの誰かじゃないですか?」
「思い出した! 俺の初恋の人だ!」
「え、初恋の人? 初恋ってことはかなり小さい頃の話だったりする? 保育園とかだったらどうしよう、私の顔がめっちゃガキっぽいってことにならない? ねぇそれいつの話? どんな相手?」
「それはおじいさんで、私は4歳でした」
「ヴェルタースオリジナル?」
「ちがう」
「違うんだ⋯⋯」
「うん」
「じゃあ私の顔がおじいさんってこと?」
「うん」
「あなた相当失礼なこと言ってるけど、分かってる?」
「それはそれで俺のおじいさんに失礼なのでは?」
「そうかもしれないけど、失礼度でいえばそっちの方が上じゃないの」
「心臓拾ってあげたのになんでこんなに怒られなきゃならないんだ。ていうかはやくつけろよ」
「つけれるわけないだろ。医者でもないんだし、しかもこんな道端で」
「笹、白黒、この2つの単語から連想する生き物は?」
「え、なんでいきなりクイズ? いやそもそもこれクイズなの? ⋯⋯⋯⋯難しすぎんか」
「タイムアップっぷ!」
時間制限があったなんて聞いてないしいきなり変顔するしこいつなんなの? 食っていい?
「⋯⋯俺の負けだ」
変顔してないけど私が勝ったんだ⋯⋯良かった⋯⋯じゃない! これブスって言われてるのと同じだよね!? 断固抗議せねば! 殺して食わねば!
「煮るなり焼くなり好きにしろ」
なんで負けた人ってこれ言うの? ていうか、煮ても焼いてもいいってことは食べていいってことだよね? すごい覚悟だね。
それから私は、この男をアルミホイルに包んで、フワちゃんのツイートで焼いて食べました。
おいしかったなぁ⋯⋯
人間ってこんなに美味しかったんだ。
人間の素晴らしさに目覚めました。
人間は素晴らしい! なんて素晴らしいの!
リピートアフターミーシャラップ!
人間は素晴らしい!
グラノーラは美味しい!
人間は素晴らしい!
お宅のお庭、変なにおいするわね。
人間は素晴らしい!
チェケラッチョハムチーズ。
人間は素晴らしい!
人間は素晴らしくない!
人間は素晴らしい!
びっくりドンキーは入口の戸が軽い!
人間はびっくりドンキーのメリーゴーランドなくなったのかなしい
かなしいったらかなしい。
Suicaのペンギンが卒業するんだって。
次は私かなぁ⋯⋯




