第4話:ひび割れた光と迷いの夜
放課後の工房は、いつもと同じ静けさに包まれていた……はずだった。だが、今日はどこか落ち着かない空気が漂う。
「陽菜……これ、見た?」
秀斗がスマホを差し出す。画面には、私が先週作った人形の写真と、少し辛辣なコメントが匿名で投稿されていた。
「……え?」
胸の奥が、ぎゅっと締めつけられる。誰かに見られていた、しかも匿名で評価されるなんて、予想もしていなかった。針を持つ手が一瞬止まった。
「どうしよう……消せるかな」
秀斗は優しく肩に手を置き、画面を覗き込む。
「大丈夫。僕が一緒に対処するから」
その言葉に、少しだけ安心する。でも、心のどこかで不安がくすぶる。作業中、糸を通す手が微かに震えた。
「……今日は、目の表情をもう少し明るくしてみよう」
針先を布に通しながら、自分の気持ちも少しずつ整える。秀斗はそっと隣に座り、フィギュアの顔の色を手伝ってくれる。手が触れ合うたびに、心の揺れが少しずつ和らいでいった。
「陽菜……僕、君の作る顔、好きだな」
ぽつりと、秀斗が言った。驚きと戸惑いで胸が高鳴る。言葉だけでなく、作業の間に見せる彼の真剣な眼差しが、何よりも胸に響いた。
その瞬間、SNSの匿名投稿や材料費の不安が、少しだけ遠く感じられた。針と糸で作る小さな魔法は、やっぱり心をつなぐ魔法でもあった。
夕陽が工房の床に長く影を落とす。作業が終わり、フィギュアの顔を見つめる二人の表情には、少しだけ勇気と温かさが混ざっていた。
「明日も……一緒に作業してくれますか?」
私は微かに笑い、頷いた。
「もちろん」
放課後の小さな工房で、ひび割れた光が二人の間にそっと差し込む。次の時間も、針先の魔法は続いていく――。




