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第3話:迷子の表情と初めての言葉

放課後の工房は、いつもより静かだった。窓から差し込む光はすでにオレンジ色に染まり、机の上の布や粘土を柔らかく照らす。


「今日は……どこから直しましょうか?」


秀斗が差し出したフィギュアには、前回よりも細かいひびが入り、目元の表情も少し曖昧になっていた。彼はいつになく真剣な顔で、指先をそっと添える。


「うん……まずは目かな。表情の印象は、目が決めるから」


針と糸、そして小さな筆を手に取る。布の曲線に沿って線を引き、目の光を微調整していく。光の加減で表情が変わる瞬間、心臓が少し跳ねた。


「……すごい、やっぱり……」


秀斗の声は小さく、でも確かに感動がこもっていた。彼は目を細め、完成を待つようにじっと見つめる。


「手を動かすと、気持ちも少しずつ落ち着くんです」

「……そうなんですね」


普段は無口な彼が、こうして言葉を紡ぐのは珍しい。胸の奥がふわりと温かくなる。


作業を進めていると、糸が突然絡まった。私は慌ててほどこうとするが、うまくいかない。すると秀斗がそっと横から手を添える。


「こうすると……」


絡まった糸がすっとほどけ、目元の表情がまた生き返る。手のひらが触れ合う短い瞬間に、なぜか心臓が跳ねた。


「ありがとう……」

「いえ、手伝えてよかったです」


作業が一区切りついたとき、フィギュアの顔は前よりも自然な笑顔になっていた。二人で息をのんで見つめる。


「……また、頼んでいいですか?」


その言葉を聞くと、胸の奥に小さな期待が芽生えた。針先の魔法は、やっぱり人と人をつなぐ魔法でもあるのだと、私は少しだけ笑みを浮かべて感じた。


夕陽が沈む頃、工房の扉を閉める。明日の放課後、またこの小さな時間に戻ることを、心のどこかで楽しみにしていた。

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