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第2話:針先と迷い糸

夕暮れの校舎は、昨日よりも少し静かだった。窓から差し込む光が床に細い筋を作り、工房の机に置いた布と粘土を温かく照らしている。


「これ、破れたところはここです」


秀斗はフィギュアを差し出しながら、少し不器用に言った。私は彼の手元を覗き込み、ほつれやヒビの位置を確かめる。


「わかりました。じゃあ、まず目の部分から直しましょう」


針と糸を取り出すと、指先の感覚がいつも通りの世界を作り出す。布と粘土の境界で光が反射する微細な線に目を凝らすと、心のざわつきも消えていく。


「こうして……」

「おお……すごい……」


秀斗の声に、思わず顔を上げる。彼は目を輝かせ、壊れたフィギュアをまるで宝物のように見つめていた。


「手を動かすだけで、表情が戻るんです。魔法みたいですね」


私は少し照れたけれど、針を動かす手は止めない。目の光を微調整するたびに、彼のフィギュアは少しずつ本来の顔に戻っていった。


「それにしても、こんなに丁寧に作業する人って珍しいですよね」

「……そうですか?」


秀斗の視線は真剣で、どこか羨ましそうでもあった。私は言葉に困り、ただ小さく頷く。普段なら何気なく流す言葉も、ここではすべてが重く、そして大事に感じられた。


作業を進めるうち、糸が絡まり、微細な粘土の部分が崩れそうになる。焦りで手が止まると、秀斗がそっと手伝おうと差し出す。


「大丈夫です。指先、触っても……?」


一瞬ためらったけれど、彼の手を借りると、絡まった糸がすっとほどけた。心の中で小さな笑みが広がる。針先の魔法は、人の手と手が触れ合う瞬間にも宿るのだと知った。


「ありがとう……」

「いえ……手伝えてよかったです」


夕日が沈むころ、フィギュアの顔はほぼ元通りになった。小さな達成感と、どこか胸がきゅんとする感覚——放課後の工房は、いつもより少し特別だった。


「また……修理、お願いしてもいいですか?」


私は頷き、針と糸を箱にしまう。次の放課後、また二人で過ごす時間が、心のどこかで楽しみになっていた。

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