表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強のプリンセス  作者: 雨宮佳奈子
第五章 罪と再生とロイヤルベイビー

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

99/105

第十五話

「フランシスの馬鹿!」

 全員があっけにとられているなか、パトリシアは泣きながらフランシスのシャツを両手でつかんでゆすった。

「なんで自殺なんかするの!? 浮気のひとつやふたつ何よ! 私なんか何回されたと思ってるの!? そんなことしたらクロディーヌの思うつぼじゃない! 悔しくないの!?」

「パトリシア王女、落ち着いて!」

 ロビンがとりなすが、聞く耳を持たない。

「これが落ち着いていられますか!? いくら妊婦だって、私はみんなみたいに甘やかしたりしないわよ! 駄目なものは駄目って叱らないから、こんなとんでもないことやらかすんだわ! いい!? フランシス! よく聞きなさい! クロディーヌがあなたより勝っているのは、胸が大きいってことだけなの! マリオンの性欲のはけ口にされているだけなの! あんな女のせいで自殺するなんてあなた馬鹿なの!?」

「姉上、僕は……」

「私いったでしょ! 側室の一人や二人覚悟しなさいって! だけど一番は

あなたなのよ! ほかの女になんか負けちゃ駄目! 今度マリオンに会ったら、私がひっかいて、ビンタして、蹴飛ばして、えっえっ……」

「姉上……」

 パトリシアはしゃくり上げながらフランシスにしがみついた。

「ただじゃおかないんだから! あなたを、こんな目に遭わせて、えっえっ……」

「姉上、僕は自殺したわけじゃありません」

「え?」

 パトリシアは、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔を上げた。

「だって、二階から飛び降りたんでしょ」

 公務から戻ると、侍女たちが青ざめた顔で口々にその顛末を話していた。出先で立ち寄った本屋で見たバルトワの雑誌のせいだと、パトリシアは思い込んだ。

「飛び降りた……みたいなもんですけど、自殺じゃありません」

 パトリシアは青ざめた。

「じゃあ、もしかして、知らなかった? あの記事のこと……」

「それは読みました。だから今度会ったら、マリオンを……」

 途中まで笑っていた妹は、しかしすぐに泣きだした。

「とっちめて……」

「わかったわ。わかった。任せといて」

 姉妹は、唖然としている三人をしり目に、しばらく抱き合って泣いた。


 フランシスがパトリシアとともに流した涙は、決して悲しみのせいではなかった。

 もちろん、悲しい気持ちはある。

 けれども、それよりも本気で叱ってくれた姉の気持ちが嬉しかった。的外れではあったけれども。

 妊娠中だからなのだろうが、みんなが自分に対して腫れ物のように気を使っていることに、感謝よりも居心地の悪さを感じていたフランシスだった。

 けれども今日、ショーンの気持ち、オリバーの気持ち、ロビンの気持ち、そしてパトリシアの気持ちが、薄闇のようだった自分の心に灯りをともしてくれたような気がした。

 些細な口論のせいでぎくしゃくしていた関係が元に戻ると、パトリシアは嬉しそうにカイルとのやり取りを話して聞かせた。話したくてうずうずしていたようだったが、その内容はすべて、フランシスだったら絶対他人には言わないような他愛のないことばかりだった。それでも、その他愛のないことにいちいちときめいているらしい姉は、紛れもなく恋をしているようだった。

(あのカイルと……)

 まだ実感がわかないフランシスだったが、確かにカイルなら、絶対に姉を泣かせるようなことはしないだろうと思えた。

(でもカイルの方は、もしかしたらマリオン以上に振り回されるかも……)

 少しカイルに同情しながら、フランシスは一方的にしゃべっている姉の横顔をみつめた。

 二人とももうパジャマとネグリジェに着替えて、フランシスの部屋のソファに座っていた。

 傍らでじゃれ合っていた黒猫と白猫が、それぞれの主人の方へすり寄ってきた。膝にのってきたネネを撫でていたフランシスに、パトリシアは身を乗り出して問いかけてきた。

「ねえ、初めてのときってどんなだった?」

「ネネちゃん、もうベッドに行こうか」

「もう! 知らんぷりしないでよ!」

「そういうことは、口で説明できることじゃないです」

「じゃあ、痛かった? それとも気持ちよかった?」

「うーん……。両方……」

「嘘! ほんと!? 初めてのときって、痛いだけって言うじゃない!」

 フランシスは黙ってネネを撫でていた。

「それって、やっぱり、マリオンがテクニシャンだから?」

「姉上、もう寝ませんか?」

「ねえ、はぐらかさないで答えてよ!」

「そんなこと聞かれたって、僕には比べる相手がいませんから」

「いいえ、絶対テクニシャンよ、マリオンは。だとすると、浮気されるのも悪いことばかりとは言えないのかもね」

 フランシスは顔を上げてまじまじと姉の顔を見た。

「だって、経験を積まなければテクニックは磨かれないでしょ。男は最愛の女と最高のセックスをするために、日々練習を積んでいるのよ」

「もうすでにテクニシャンなら、練習する必要なんかないんじゃないですか?」

 パトリシアも妹と向き合った。

「それもそうね」

「それに、練習させてくださいなんて言えるわけないんだから、その都度くどかなきゃならない」

「そっか。やっぱり許せないわね」

「いや、もしかしたら僕の方が練習台だったりして……」

「なに言ってんの!? それはないでしょ!」

「僕は、女であって、女じゃないから……」

「あなたは最高の女よ。ただ、黙ってればね」

 パトリシアはフフ…と笑った。

「それもまた魅力なんじゃない? 完璧な女より、少し欠点があるくらいの方がいいわよ。でも、ちょっとだけ努力してみる?」

「努力?」

「簡単よ。『僕』じゃなくて、『私』って言ってみるの。いつもじゃなくていいわ。マリオンが相手によって『俺』って言ったり『僕』って言ったり『私』って言ったりしてるみたいに、状況によって使い分けるの。それと、スラックスはそろそろ卒業したら?」

 フランシスは困惑した顔で黙っていた。

「どうしてこんなこと言うかって言うとね、あなたがバルトワに行っても、いじめられたり批判されたりすることがないようによ。だって、マリオンのお父様がクロディーヌ側についちゃったんなら、ちょっと侮れないと思うの。それでなくてもあっちはアウェイなのよ。あなたをバッシングする材料をみつけようとしてる人たちが、きっといるわ。あなたは、マリオンさえ味方なら平気だって思うかもしれないけど、姉としてはそんな人たちに好き勝手言わせるのは悔しいの。だってあなたは、ちょっとだけ頑張れば、クロディーヌなんか足元にも及ばない女性になれるんだもの」

 そしてパトリシアは、フランシスの顔を覗き込んだ。

「それでなくても、どうせあなたは近いうちにおなかが大きくなって、スラックスなんかはけなくなるのよ」

 それでも返事ができずにいるフランシスの肩に、パトリシアは手をのせた。

「私にまかせて。あなたを最高のレディにしてあげる」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ