第五話
父上、姉上、ご心配をおかけして申し訳ありません。
僕はいま、アステラに向かう旅の途中です。
この手紙を友人のクリスに託します。
順調なら、明日にはアステラ城に帰れると思います。
たくさんの人たちのおかげで、僕はまたお二人に会うことができます。
感謝の気持ちしかありません。
アステラの騎士団のみんな、おじい様、バルトワのマリオン、カイル、ビリーさん、そして僕の級友のギルバート、クリス、ショーン、みんな無事です。
そして彼らだけでなく、僕はディアスにいる間、ファーガソン邸のたくさんの人たちにお世話になりました。
ディアスは僕が思っていたよりもずっと国王の悪政に民衆が苦しんでいる国で、アステラやバルトワに移住したいと希望したファーガソン邸の兵士、そして僕がついてきてほしいと願った人たち総勢15人が一緒にそちらに行きます。
その人数にびっくりされないように、そして迎える準備をしてもらいたくて、前もって手紙を書くことにしました。
その中に、姉上と同じ名前のパティがいます。ファーガソン邸で、僕が一番お世話になった人です。パティの弟さんは重い病気を患っているので、おじい様のそばで治療させてあげたいと思い、お世話になったお礼も兼ねて僕が誘いました。年も姉上と同じなので、きっと仲良しになれると思います。
そして、父上。
レイチェル伯母様にも、マリオンと僕が説得して一緒についてきてもらいました。
伯母様は赤ん坊のころに預けられた家で、とても辛い思いをしたんです。
グレース王妃が黒魔術師のデヴィッド・ファーガソンをバルトワ城から逃がすよう仕向けたのも、そして今回僕を拉致したのも伯母様です。それはもちろん、間違ったことです。
でもそれは、辛いことばかりだった伯母様の人生で、唯一デヴィッド・ファーガソンだけが伯母様の支えだったからです。
父上にとっての母上、そして僕にとってのマリオンのように。
だから僕は、伯母様を恨んでいません。
むしろ、ディアスで何度も僕を助けてくれた伯母様に、心から感謝しています。父上やジュリアン叔父様のように、本当はとても優しい人です。だから、幸せになってもらいたいんです。
父上が、寛大な心で伯母様を迎えてくれることを願っています。
空白の時間は長かったけれど、きっといい姉弟になれると思います。
だって、姉上と僕だってとても仲良しになれたんですから。
もうひとつ、すてきなニュースがありますが、それは会ってからのお楽しみに。
フランシス
二台の馬車には、一台がフランシス、マリオン、ギルバート、ショーン、もう一台にはオリバー、ロビン、パトリシア、そしてパトリシアの弟のダニエルが乗っていた。
御者の席は時折顔ぶれが変わったが、カイルやフィリップが座ることが多かった。
クリストファーは悪天候にならない限りほとんど鳥の姿で、空を飛んだり御者の肩に乗ったりして、ほかはそれぞれが数頭の馬に乗っての旅だった。
妊婦と病人がいるので決して急がず、なるべく宿を探しながらだったが、どうしても宿がみつからず、野宿せざるをえない夜もあった。
それでも、来るときとは違って楽しみしかない帰還の旅は、誰しもが明るい顔をしていた。
会ったときは敵同士だった兵士たちも、今はすっかり打ち解けて和気あいあいとしている。
「明日はいよいよダイナマイトだな」
国境近辺は険しい山道が続いていて野宿することになった夜、星空を見上げながらショーンが言った。
「嬉しそうだな、ショーン」
草むらにビニールのシートを敷いて寝どこの準備をしながら、ギルバートが言った。
「当たり前だろう、わくわくしないのか、お前ら」
ギルバートはそれには答えず、草を踏む足音がする方を振り向いた。
フランシスが歩み寄ってくる。
「僕も、星を見ながら寝てみたくて……」
「だろう? そうこなくっちゃ。ここに寝ろよ」
ショーンが自分の隣をバンバンと叩く。
「駄目だよ、風邪でもひいたら大変だ」
ギルバートがすぐに反対した。
「風邪なんかひかないように俺があっためてやるって」
「どうせすぐにマリオン殿下が迎えに来るよ。目をつり上げてさ」
クリストファーがぼやくように言った。
夜はダニエルが横になりやすいように、そして女性への気遣いもあって、オリバーはフランシスと同じ馬車で寝ることになっていた。
そして妊婦と老人に気づかって、マリオンは御者台で寝ている。
「じゃあ、ちょっとだけ」
そう言ってフランシスは、クリストファーの隣に座った。
「今日はありがとう、クリス。手紙を届けてくれて」
「どういたしまして」
「そのまま家に帰ればいいのにまた戻ってくるなんて、バカじゃないのか、お前」
フランシスにお礼を言われて上機嫌だったクリストファーは、ショーンの言葉にすぐにムッとなった。
「バカはないだろう!? 僕だってダイナマイトが見たいさ。この旅のメインイベントだもの」
そしてクリストファーは、ちょっと寂しそうにうつむいた。
「それに、こんな素敵な旅、僕だけ先に終わらせるなんて嫌だもの」
「そうだな。大変なこともいっぱいあったけど、きっと、何年かたって思い返せば、いい思い出だよな」
ギルバートもしみじみ言う。
「そんなふうに思えるのも、みんなのおかげだよ。本当にありがとう」
フランシスの笑顔に、三人は顔を赤らめた。
「それはそうとさ、フランシス様のお姉さんって、やっぱ可愛いね」
「だろ? 恋人募集中だよ。立候補する? クリス」
「え、えー、それって、将来フランシス様の義理の兄貴になれるかもってことだよね? うーん、それは魅力かも」
「ばーか、お前みたいなガキ、向こうが相手にするわけないだろ」
「そうだぜ、よく考えろよ、クリス。パトリシア王女の元婚約者は、あのマリオン殿下だぞ」
ショーンだけじゃなくギルバートにまで一蹴されて、クリストファーは悔しそうに唇をとがらせた。
「そんなの、言われなくたってわかってるんだから、二人がかりで言わなくたっていいだろう!」
「でも、ギルバートならいいかもな」
ショーンが珍しく真面目な口調で言うので、ギルバートはすぐには何を言われたのかわからなかった。
「品行方正だし、家柄だって悪くないし、年もひとつくらいしか違わないんじゃないか?」
「え、それって、僕は品行方正じゃないってこと!?」
「い、いやいや、僕はそっちじゃなくて……」
そこまで言って、ギルバートは慌てて口を押さえた。
「そっちじゃなくて?」
ショーンとクリストファーはキョトンとして同時に同じことを言ったが、フランシスだけはすぐにわかった。
「もう一人のパティの方ってこと?」
「いや……その……フランシス様のお姉さんがダメって意味じゃなくて……」
「パティはいい子だよ」
「だから、フランシス様のお姉さんなんて格が違いすぎるって言いたかっただけで……」
「だけど、逆の意味で身分違いだよね」
「違うって、クリス!」
ギルバートは、火がついたように赤くなっていた。
「やった! ライバルひとり脱落!」
ショーンが、全然ちがうことで喜んでいた。
「パトリシア様!」
いつもおっとりしているマーサの興奮ぶりに、パトリシアはその先の言葉が想像できた。
「ブランカが騒ぎ出したのでいま放しました。きっと迎えに行ったんです」
マーサと同じく朝からそわそわと落ち着かなかったパトリシアの興奮も、その言葉で最高潮に達した。
「帰ってきます! フランシス様が!」
涙声で言うマーサ同様、パトリシアも涙を浮かべながら部屋を飛び出した。
その後を、二匹の子猫が追いかけていった。




