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最強のプリンセス  作者: 雨宮佳奈子
第四章 剣と子守唄と殉愛の旅

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第十三話

「こっちへ……」

 一人の兵士がオリバーを促した。

 自分を見たカイルに、マリオンはついて行けと目で合図した。

 ギルバートとショーンも予定通りついていかせた。

  オリバーの治療さえうまくいけば、おそらくフランシスのそばが一番安全な場所だろう。

 だが、その行く手に別の兵士が立ちふさがる。

「上に行くのは老人だけだ!」

 その兵士を、カイルが素早く切り倒した。

 背後から襲いかかってきた兵士を、今度はショーンが倒す。

 得意気にマリオンの方を振り向いたショーンに、別の兵士が切りかかっていった。

「馬鹿野郎! 油断するな!」

 その兵士を間一髪で倒したマリオンは、

「早く行け!」

 と叫んだ。

 一瞬だけ青ざめたショーンは、すぐにカイルとギルバートと一緒にオリバーの後を追った。

(頼んだぞ!)

 祈るような思いで、マリオンは心の中で叫んだ。


「ついてくるな! それ以上近づいたらこのじじいの命はないぞ!」

 階段の踊り場で、案内役の兵士が苛立った表情で振り向くなり、オリバーに剣を向けた。

「そうですね、チャーリー、こんな物騒なものを持ってついてこられたら、おちおち案内なんかやっていられない」

 オリバーはそう言うなり、自分を含めた四人の光の剣をあっという間に消してしまった。

「えっ」

 驚いたのはチャーリーと呼ばれた兵士だけじゃなく、カイルたち三人も呆然としてしまった。

「さあ、急ぎましょう、チャーリー。あなたの主人……ええと、名前はデヴィッド・ファーガソンですね。あなたがぐずぐずしていて主人の願いをかなえることができなかったら、まして私を殺したりしたら、あなたは厳しい罰を受けることになる」

「なぜ俺の名を……」

「あなたの主人と私の願いは同じです。フランシスの顔の傷を治したいんです。フランシスは、私の孫です」

「え、じゃあ、エレナの……」

 穏やかだったオリバーの表情は、一瞬だけ厳しいものになった。

 そして、あのバスルームの外での騒動やメイドたちの噂話を見聞きしていたチャーリーの記憶から、オリバーはすべてを理解する。デヴィッドのエレナへの、そしてフランシスへの異常な執着を。

「そういうことか」

 つぶやいた後、オリバーはまた表情を緩めた。

「チャーリー、私なら孫の傷を治せる。それが済んだら、あなたの通風も治してあげましょう」

 チャーリーがまた目を丸くした時、ギルバートが突然つぶやいた。

「声が聞こえる。フランシス様の声……。歌ってる……」

「え、歌うたってる余裕なんかあるのか」

 ショーンが疑わし気な視線をギルバートに向けた。

「苦しそうな……途切れ途切れの声だけど、間違いない。僕がこの声を聞き間違えるはずがない」

 ギルバートを一瞥した後、オリバーは混乱している様子のチャーリーに目をやった。

「どうやら、案内役はいらないようだな」

 オリバー以外で光の剣を自力で出せるショーンが、再び出現させたその剣をチャーリーに向けた。

 だがそれをオリバーは片手で止める。

「あなたもフランシスの怪我を悲しんでいる。そうですね、チャーリー」

 チャーリーはますます困惑した表情になったが、やがて視線を泳がせながら言った。

「お、俺だけじゃないよ。みんな……そう、みんなだ。みんな怒ったり、悲しんだり、女たちは泣いてたよ。まるで天使みたいに、きれいな顔だったのに」

 そしてチャーリーはオリバーを見た。

「本当に、治せるのか、あんた」

 オリバーは微笑した。

「一緒に行きましょう、チャーリー」

「あ、甘いよ! 理事長!」

 思わず声を荒げたショーンを、オリバーは振り向いた。

「大丈夫だ。ここの兵士たちはあまり危険じゃない」

 それどころか、主人への不満でいっぱいだとオリバーは思った。


「眠れ……わが子よ……愛しい子……」

 高熱で朦朧とする意識の中で、フランシスはかすれた声で口ずさんでいた。

「白いすずらん……黄色い小鳥……」

 一人だと思っていたのに、自分の後に続いた歌声を聞いて、驚いて体を反転させた。

「パティ?」

「ここにいますよ。ご気分はいかがですか?」

「大丈夫……。いま……何時?」

 傷の痛みも悪寒も続いていたが、フランシスは精一杯普通に見せようとした。

「11時を回ったところです」

「もう、部屋へ戻ってお休み」

「今夜はずっとおそばにいます」

 フランシスはハッとなった。

「足かせが……取れてる」

「奥様にお願いしてはずしていただきました。こすれて赤くなっていましたから。寝返りをうつたびに痛かったでしょう? こんなお体で逃げられるわけないのに、あんまり……ひどすぎます……」

 すすり泣く声が聞こえた。

「ありがとう、パティ。そしてごめんね。迷惑ばかりかけてる」

「迷惑だなんて……そんなこと……」

 パトリシアが最後まで言わないうちに、突然フランシスは起き上がった。

「おじい様!」

 心に呼びかける祖父の声がした。すぐ近くだった。

「え?」

 パトリシアが戸惑った声で言ったとき、扉が開いた。

 包帯を巻かれているので何も見えない。だが、その気配を間違えるはずがない。ただ、信じられなかった。

「フランシス様!」

「フランシス様!」

 さらに信じられないことが起こった。

 その声はギルバートとショーンだった。

 誰かが抱きついてきた。

「よかった、よかった」

「ショーン、指一本触れるなってマリオン殿下が……」

「うるせえ。黙ってればばれないだろ」

「マリオン……マリオンは?」

 震える声でフランシスは聞いた。

「ちゃんと来てますよ。下で戦っています」

「カイル……」

 フランシスは愕然とした。

「二人ともどいて。治療が先だ」

 オリバーの手が顔に触れる。

「カイル! マリオンに伝えて! あいつを、デヴィッド・ファーガソンを殺すなって! あいつが死んだら、僕は男になる!」

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