第八話
国境を越えたマリオン一行は、やっと普通の道にたどり着けた。
だがそれはもちろん、人目につくということを意味していた。
武器は光の剣の木片だけだが、それでも12人の男ばかりの集団は異様に見えるだろう。そのため、四人ずつの三つのチームに分かれることにした。
結果的に、子供が三人いてちょうどよかった。女がいないとはいえ、それぞれのチームは家族のように見えなくもない。
そして彼らは、まず王宮をめざすことにした。
マリオンの暗殺や魔術師の卵の誘拐などというだいそれたことを、君主の命令なしに計画したとは考えにくい。しかも、国境の道をダイナマイトで封鎖するなどという荒業まで実行したのだ。
ロビン・ファーガソンがたとえ国王の直属の部下ではないとしても、トップは絶対ディアスの国王だろう。そしてフランシスが囚われている場所が王宮でないとしても、そこに行けばきっと何か情報を得られるのではないか。それが、マリオンとオリバーの一致した考えだった。
マリオンは持ってきた宝石類をこの国の金に換え、馬を四頭買って自分とカイル、ショーン、ディーンがそれに乗り、残り八人を二回に分けて乗合馬車に乗せた。
読心術が使えるオリバーと地獄耳のギルバートは別々の馬車に乗せ、少しでも情報を集めようとした。
そして王宮のそばの乗合馬車の終着地点で待っていたマリオンたちに、オリバーは素晴らしい情報を持ってきてくれた。
ディアスの国王夫妻の厳しい視線にさらされて、ギルバートは人生で最高の緊張を感じていた。
昨日マリオンが三組別々にとった宿でやっと何日かぶりで風呂に入ることができ、やはりマリオンが買ってくれた新品のスーツを身に着けているというのに、全身にかいているいやな汗のせいで台なしになりそうだった。
王妃の隣には、今年10歳になるという第一王女のアイリーンが、生意気そうな顔で座っている。
オリバーは、乗合馬車に同乗したある女性から、彼女がこの国の第一王女の家庭教師の採用試験を翌日受けるという情報を得た。その採用試験に、急遽ギルバートが送り込まれたのだ。
「試験の成績は、彼がトップでした」
傍らに控えている執事のような男が、国王に耳打ちした。
「少し若すぎないか」
「18歳です」
執事が答える。
本当はまだ17歳だったが、募集の条件が18歳以上だったため、履歴書に嘘を書いたのだ。住所や家族構成も、もちろん適当だった。
「私は女性の方がいいと思うわ。この子、ほら、ませたところがあるから……」
王妃が、娘には聞こえないように小声で夫に囁いた。
「そうだな。ちょっと顔がいい男をみつけると、すぐ結婚したがる」
国王の声も極力ひそめられていたが、もちろんギルバートにはしっかり聞こえていた。
また、手のひらや脇の下に汗がにじんできた。
「私、この人がいい!」
突然王女が、ギルバートを指さして言った。
「この人がいいわ、お父様!」
ギルバートは一瞬だけ戸惑ったが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
女の子の気を引くことなど一度もしことはないが、フランシスを救うためならなんだってできるはずだ。
あのマリオンのかっこいい微笑を真似てみようと思いながら、アイリーン王女を熱い眼差しでみつめ、精一杯口角を上げてみた。
王女は頬を赤らめた。
国王がにっこり笑った。
やった! とギルバートは心の中で叫んだ。
「君は不採用だ。娘の家庭教師は女性にしたい」
どうやら、王女に気に入られることの方が逆効果だったらしい。
がっくりと肩を落として出ていくギルバートと入れ違いに、家臣らしい男が部屋に入ってきた。
扉はすぐに閉ざされたが、その向こうから家臣の声が聞こえてきた。
「陛下、ファーガソン伯爵がいらっしゃいました」
ディアスの国王ロベルト・バースティンの前で、デヴィッドはひざまずいていた。
「魔術師の代わりに、アステラの第二王女を手に入れた?」
豪奢な椅子に座っている国王は、頬杖をはずし身を乗り出した。
「はい」
「あの、戦の神の祝福を受けたという王女か」
「はい、陛下」
「本当なら、すぐに連れてこい、ここへ」
「恐れながら陛下、今は足かせで拘束していますが、それをはずした途端暴れ出すような凶暴な女です。だからと言って、大事な人質に怪我をさせるわけにもいかず……」
「ならば、私から出向いていこう」
「陛下、もう少しお待ちいただけませんか。あの姫は男として育てられたらしく、礼儀も口のきき方もなっていません。とても陛下の前にお出しできるような女ではないのです。こちらでしっかり教育してから……」
「親でもあるまいし、そんなことをお前が気に病むことはないだろう」
国王は笑った。
男盛りのその顔は、自信に満ち溢れていた。
「少し前に、アステラのゴシップ誌にその姫とバルトワのマリオン王子の熱愛報道が載ったそうじゃないか。つまりその姫は、立派なレディであるはずのアステラの第一王女である姉から、婚約者のマリオンを奪ったということだ。礼儀だの口のきき方だの、どうでもよくなるくらいの美女なんだろう?」
デヴィッドは何も言えなくなった。
「予定を調整して明日にでも出向いていこう」
「陛下……、あの姫は……妊娠しているそうです」
デヴィッドは絞り出すような声で言った。
国王はしばらく唖然としたあと、やがて笑みを浮かべた。
「面白い。つまり、アステラとバルトワ、両方の人質が手に入ったということか」
「いえ、マリオンの子供ではないと本人は言っています」
「では、誰の子供だ?」
「父親はわからないと……。あくまでも、本人の話ですが……」
そしてデヴィッドは、いきなり国王の前にひれ伏した。
「陛下、お願いです。あの子の子供は陛下に捧げます。このさきあの子が産む子もすべて……。ですから、あの子は私にください。さっきも申しましたように、あの子はとても我々で操れるような子ではありません。アステラに牽制することはできるでしょうが、ただそれだけです。下手したら、一生拘束し続けなければならないでしょう。ですが、赤ん坊ならいくらでも陛下の望みのままにできます。男児だったら最強の戦士になりますし、女児だったら子供を産めます。どうか、役に立たない凶暴な姫は、私にお任せください」
デヴィッドは、床に額がつくほどに頭を下げ、国王の返事があるまで動かなかった。
「とにかく、その姫を見てからだ」
国王は冷たい声で言った。
「バルトワの王子に、そしてお前にそこまで執心させる姫なら、ますます見てみたい。どうしても操れないと言うのなら、例の薬があるだろう。赤ん坊が育つまでなんて待っていられない。その姫が手中にある今こそ、アステラとバルトワを討つ絶好の機会ではないのか」




