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最強のプリンセス  作者: 雨宮佳奈子
第二章 海と祭りと王女の涙

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第十六話

 さすがに、フランシスも猫にマリオンとは名付けなかった。

「一緒にいたら、どっちを呼んだのかわからなくなるものね」

 と笑う。

(いや、それ以前の問題だろう)

 マリオンは心の中でぼやいた。

 しかし姉妹二人で相談してつけた名前も、やはりどこかふざけていた。

 黒猫がネネ、白猫がココだという。

 そのネネが、いまフランシスの傍らで丸くなって眠っている。

 その反対側でマリオンは横になっていた。

「なんだか落ち着かないな」

「いやだよ。この子を追い出すんならあなたの方が……」

「そうじゃない」

 先まで言わせなかった。

(くそう。やっぱり猫以下か)

「誰かが陛下に報告するんだろうなって……。俺がお前の部屋に入っていったと」

「気になるなら戻ったら?」

「え……」

「僕はネネがいればいい」

 そしてマリオンに背を向けて、黒猫を撫ではじめた。

 あまりのことに、マリオンは言葉も出なかった。

 しばらくして、フランシスが振り向く。

「嘘だよ」

 そして、体を起こしてマリオンを上から見下ろす。

「傷ついた?」

「き、傷つくだろう。泣きそうになったぞ」

「かわいそうに。顔にはこんな傷つけられて」

 ひっかき傷に触れてきた手をつかむと、今度はマリオンが起き上がってフランシスを仰向けに押し倒した。

「この野郎。人をからかいやがって」

「はは……」

 笑っている口をキスでふさぐ。そしてパジャマのボタンをはずし、その胸に手を這わせた。

「誰かが、外で聞いてるかも」

「聞かせてやるさ」

 フランシスの言葉は、抑止するどころかよけいマリオンの気持ちをたかぶらせた。そうさせようとしてわざと言ったのだろうかと思うと、さらに興奮した。だから今まで以上に激しく、執拗に、時間をかけてその体を隅々まで愛した。

「もう……やめて……マリオン」

 逃げようとする体をおさえつける。

「我慢しないで、もっと声を出せ。フランシス」

「いやだ……。姉上に聞かれる……」

 助けを求めるように伸ばした指に、不意に子猫がかみついた。

「あっ」

 今までで一番大きな声を出して、フランシスは自分の指を見た。かみついた後、猫はペロペロと舐めだした。

「はは、猫もお前を愛したいんだな」

 フランシスも微笑したが、目元が涙で濡れていた。よほど恥ずかしかったのか、耳まで赤い。

(いじめすぎたか)

 苦笑して、裸の体を抱き寄せた。

(だけど、ここでやめる俺だって辛いんだぞ)

 そう思ったが口には出さない。

(それなのにあと一年半待てとは、拷問だな)

 ジェイソン国王の苦虫をかみつぶしたような顔を思い出しながら、心の中の苛立ちとは裏腹に、優しさをこめた手で恋人の髪を撫でた。

「寒くないか?」

「うん」

 暖炉で薪が爆ぜる音以外は、しんと静まり返った夜だった。

 もしかしたら、また雪が降り始めたかもしれない。

「さっき、お前が男になっても愛せるって言ったろ?」

「うん」

「少し長くなるかもしれないけど、ある男の話を聞いてくれるか?」

 フランシスは、マリオンの胸にうずめていた顔を上げた。

「ビリーという男の話だ。ビリーは、一年前までバルトワの騎士団の団長だった。戦場で知り合ったアステラの騎士と意気投合して、無二の親友になった。だが、ビリーにとっては、その騎士はただの親友ではなかった。女にも負けないくらい端正な顔をしたその親友を、ビリーはひそかに愛していたんだ。ビリーは女性との恋愛経験もある。だから、自分がどちらも愛せる性癖なのか、それともその美しい男だから愛したのか、よくわからないそうだ。ただ、これほどまで人を好きになったことはないという。その親友は、とうに適齢期を過ぎていたのに独身だった。恋人がいる気配もない。だからある日聞いてみた。なぜ結婚しないのかと。そしたら、こう言ったそうだ。自分は、愛してはいけない人を愛してしまったのだと……。それを聞いて、ビリーは一瞬だけ期待した。もしかしたら、自分と同じなのではないかと……。だが違った。親友の愛した人とは、彼の兄の恋人だった」

 黙って聞いていたフランシスの顔が、少し強張った。

「そしてその人は、もう15年も前に亡くなってしまったのだと」

 問うような目で、フランシスはマリオンをみつめる。

「それ以来、その親友はずっと後悔を引きずって生きているという。彼の兄は、妻子を持つ男だった。もしも自分が告白していたら、強引に兄から奪っていたら、それができないにしてもせめて道ならぬ恋をやめさせられたら、その人は死ぬことはなかったかもしれないと。その苦い後悔とともに、彼は、その女性の忘れ形見を生涯かけて守ろうと誓ったそうだ。彼はビリーに言った。好きな人ができたら絶対告白しろ。自分のように後悔することがないようにと。それでも、ビリーは言えなかった。親友とは違って、自分の恋は、告白しても実らないことがわかっている。しかも、告白したらもう親友にさえ戻れない。きっと彼は自分から離れてしまうだろうと。ただ、見ていられればそれでよかった。それなのに、彼は1年前、戦場で亡くなってしまった」

 マリオンは、瞬きもせずにみつめている恋人の頬に触れた。

「わかるよな。ビリーが愛した男とは、ジュリアン公爵だ」

「叔父様が……母上を?」

 マリオンは頷いた。

「ビリーは、傷心のあまり戦う気力を失い、騎士団を辞めた。だが、俺とお前の噂を聞いて、また戻りたいと言ってきたんだ。ジュリアン公爵の遺志を引き継ぎたいと。彼が守ろうとしていたお前のために、自分も何かをしたいと」

 そしてマリオンは、片腕にフランシスを抱いたまま寝返りをうって天井を見た。

「ビリーの話を聞いてから、俺はずっと考えていた。俺も、男を愛せるだろうか? いや、男をじゃない。ほかの男はどうでもいいんだ。男になったお前を愛せるか? 答えは何度考えてもイエスだ。お前の言動はいつだって男だった。それを見たうえで好きになった俺が、外見が変わったからって気持ちも変わるとはとても思えない。顔だって……」

 そしてマリオンは、また寝返りをうってフランシスを見た。

「そりゃ俺は、この顔がめちゃくちゃ好きだけど、男になったからってそう変わるものじゃないだろう。ジュリアン公爵みたいに、きれいな男っていうのは確かに存在するんだ」

 マリオンはまたフランシスの頬に触れた。

「そしてお前だ。お前こそ、心が男なのに男の俺を選んでくれた。陛下は心と体が一致したらって言ったそうだけど、人を好きになるのは心だ。体が変わったって、お前の心は変わらないだろう? お前が、体が女だから仕方なしに俺を選んだって言うなら話は別だけど」

「そうじゃないよ」

「だったら、お前が男の体になることなんか、ちっとも恐れることはない。俺たちはきっと、世界最強のカップルになれる」 

 フランシスはしばらく黙っていたが、やがて思いつめた口調で言った。

「ビリーさんに謝らないと……」

「え?」

「叔父様が亡くなったのは、僕のせいなんだ」

「どういうことだ?」

「13歳の誕生日に欲しいものを聞かれて、僕はブランカが欲しいって言ったんだ。そしたら、少しもためらわずに僕にくれた。もしもあのとき叔父さまがブランカに乗っていたら、きっと敵にやられることはなかったと思う。あのころの僕は、ブランカの本当の能力がわかっていなくて、ただ、あの馬が欲しくて……」

「だからってお前のせいじゃないさ。オリバーが言ってたぞ。ジュリアン公爵もジェイソン国王も、急に魔力が弱くなってしまったって。おそらく、黒魔術師がなんらかの影響を及ぼしているんだ。それに対抗するためにも、魔術師を養成しようとしているんだろうな、アステラは」

 そしてマリオンは、また黙り込んだ恋人の肩を強く抱き寄せた。

「バルトワも全力で協力する。お前の母君とジュリアン公爵の仇を取ろう」

 ここまで読んでくださってありがとうございます。

 そしてごめんなさい。架空の世界のお話に、クリスマスやサンタクロースは禁じ手ですよね。

 どうしても書きたくて書いちゃいました。その替わりになるものを創作できなかった未熟さをお許しください。

 そして物語は、やっと折り返し地点です。

 次回から、一番書きたかった「学園篇」です。

 楽しんで読んでいただけますように。

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