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最強のプリンセス  作者: 雨宮佳奈子
第二章 海と祭りと王女の涙

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第七話

 金色の髪が、朝日に輝いてまぶしかった。

 マリオンはさっきからずっと、自分の腕を枕にして眠るフランシスをみつめていた。

(こんなあどけない顔をして、俺の子供を産みたいなんて)

 思い出しただけで、マリオンは顔が緩んでしまう。

 そもそも子供をつくろうと最初に言ったのは自分の方なのに、まだ夢のようだった。

 夢じゃないと確かめたくて、マリオンはそっと柔らかい頬に触れた。

「ん……」

 フランシスが小さな声を出して身じろぎする。

 その拍子にずれた布団から白い肩が見えた。

 それを直してあげようとした動きが、自分の裸の胸をフランシスの顔に近づける形になった。

 だが、もっと近づく前にフランシスの方から顔を押しあててきた。まるで匂いでも嗅ぐように。

 そのまま寝息を立てているので、目覚めたわけではないようだった。

(本当に猫だな)

 今日はこのままずっとベッドにいようか。

 そんな怠惰な考えは、ドアを叩くノックの音で現実に引き戻された。

「フランシス様、起きてらっしゃいますか?」

 フランシスが目を開けた。

 起き上がりながら、マリオンはその頬に口づける。

「おはよう、子猫ちゃん」

 そしてガウンを羽織りながら、ベッドから下りた。

「俺が出る。まだ寝ていろ」

「フランシス様」

「はいはい」

 ガウンの紐をゆるく結びながら、マリオンはドアに歩み寄った。

 開けたドアの外に立っていた侍女が、現れた人物の顔を見るなり目を丸くした。

「おはよう」

「きゃああああ! マリオン様!」

 マリオンに驚いただけではなく、そのはだけた胸がさらに侍女をパニック状態にさせていた。

「大きな声を出すな。何の用だ」

「フ……フランシス様の、今日のお召し物は、どちらにされるのか……」

「お召し物?」

「今日から収穫祭です。ドレスをお召しになるんでしたら、早めにご準備を……」

「ああ、ないない。あんなかっこう何度もさせて、蕁麻疹でも起こされたら大変だ」

「ですがマリオン様、フランシス様もパレードに参加されるんですよね。みんな楽しみにしているんですよ。お支度のお手伝いをするのを」

「みんな?」

 さっきから気になっていた廊下の角に、マリオンは目を向けた。数名の侍女たちがこちらを見ている。さっきの悲鳴を聞いて集まったというわけではなさそうだ。

「そうか。じゃあ俺がドレスを着よう。収穫祭は仮装する連中も多かったよな」

 侍女はとうとう絶句した。

「冗談に決まってるだろ」


「さすがの手の早さですね」

 朝の身支度の手伝いを終えたカイルが、背後で独り言のようにボソッと言った。

「一応聞くが、誉めたのか?」

 上着のボタンを締めながら、マリオンは振り向かずに言った。

「当たり前じゃないですか。私が殿下を非難したことがありますか?」

 マリオンは苦笑する。

 フランシスが現れるまでは、カイルほど自分にずけずけ意見する人間はいなかった。

「殿下はいいですけど、フランシス様がかわいそうですよ。城中、その噂でもちきりですよ」

「非難してるじゃないか」

「これは報告ですよ。殿下本人の前では誰も何も言わないでしょうから」

「で、なんだって?」

 マリオンは振り向いた。

「殿下が、フランシス様の部屋から素っ裸で出てきたって」

 マリオンはうんざりしながら、ドアに向かって歩き出した。

「俺はちゃんとガウンを着てたし、フランシスとはただ添い寝しただけだ」

 ちょっと濃密な添い寝だったが、そんなことは言わない。

「かわいそうだと思うなら、お前がおしゃべりな奴らに訂正して回れ」

「そんなの誰が信じますか。あんなに欲しい、欲しいって言ってたんですから」

 カイルが後ろからついてくる。

「欲しかったから大事にしたいんだ。わかるか? この気持ち」

 微笑しながら振り向くと、なぜかカイルは戸惑った表情で頬をポリポリと掻いた。

「まあ、わからなくはないですけど」

 マリオンはちょっと驚いて足を止める。

「カイル、お前もフランシスが好きなのか?」

 カイルは赤くなって両手を振った。

「い、いや、そんな……、あ、もちろん好きですよ。好きですけど、殿下のような好きではなくて、その……なんて言うか……、フランシス様には今のままでいてほしいんです。完全な女には、なってほしくないと言うか……」

 マリオンはまた微笑した。

「なるほどな」

 そしてまた歩き出す。

「わかるよ」

 自分に従順なフランシスを愛おしく思う反面、あの獣のような目で反抗してきたかつての彼女もまた、懐かしく思うマリオンだった。睨んでいるのに、人を虜にするあの目を。

「それにしても、やればできる人だったんですね、殿下は」

 マリオンはまた足を止めた。

「おい、今度はどっちだ? 褒めたのか?」

 

 朝食の席に、二人の王女の姿はなかった。

「アステラの王族は躾がなっていないようだな」

 ニコラス国王は不機嫌だった。

「いいじゃないですか。若い人は朝寝坊したいんですよ」

 王妃がとりなす。

 マリオンは近くにいた侍女にそっと聞いた。

「姫たちは?」

 侍女も小声で答える。

「先ほど温室に入っていくのを見かけた者が……」

「温室?」

(つまりは、密談をしたいということか)

 マリオンは、一度座った椅子から立ち上がった。

「呼んできます」

 悪い予感しかしない。


「信じられない! 一緒に寝て、ほんとにそれだけで終わったの?」

 温室に入るなり、パトリシアの大きな声が聞こえてきた。

 予感的中だった。

(それだけって、どこまで話したんだ、フランシス)

 マリオンは頭を抱えたくなった。

「でも気をつけなさいよ、フランシス。あなたは大事に思われてるかもしれないけど、男ってね、心と体は別なの。やりたくなったら他の女とやればいいって思ってるかもしれないわ」

 およそ王族の娘とは思えないような発言だった。

「なんでそんなことわかるんですか? 姉上」

「経験豊富な侍女たちが、聞けば何でも教えてくれるの」

 そっと歩み寄ると、温室の中央にある椅子に並んで座っている二人の背中が見えた。

「お母様にもね、王族の妻になるんなら、夫が側室を持つことも覚悟しておきなさいって言われたわ。ましてあのマリオンよ。きっと、側室も一人や二人じゃ済まないわ」

「ふうん」

「知りたいことあったら何でも聞いて。知識だけは……」

 そこまで言って、パトリシアははたと口ごもる。

「知識だけはたくさんあるけど、経験はあなたの方が多いのよね」

 パトリシアはちょっと悲しそうにうつむいた後、小さな声で言った。

「ねえ、キスってどんな感じ?」

 フランシスは黙っている。

 その彼女の方に、パトリシアは少し赤くなった横顔を向けた。

「マリオンのキスって、どんな?」

「どんなって言われても……」

「してみせて」

「え……」

 今度はフランシスの横顔が見えた。パトリシアに負けないくらい赤くなっている。

「だって私はきっと、好きでもない人と政略結婚させられるんだわ。だったら、ファーストキスくらい好きな人としたいじゃない? あなたとしたら、マリオンと間接キスしたことになるわ」

 止めに入るべきかどうか、マリオンは判断できずにいた。

「それに、あなたはやっぱり、私の中では男の子だから。強くて、きれいで、大好きなフランシス……」

 じっと姉をみつめていたフランシスは、手を上げてその頬に触れた。パトリシアは目を閉じる。

 だが、フランシスが口づけたのはパトリシアの頬だった。

 パトリシアは目を開けて、抗議の視線を向けた。

「姉上、きっと姉上も、好きな人と結婚できます。そうじゃない人と結婚させられそうになったら、僕とマリオンが全力で阻止します。だから、ファーストキスはその時までとっておいてください」

 笑顔でそう言う妹を、パトリシアはじっとみつめていたが、やがてこっくりと頷いた。

「わかった」

「さあ、戻りましょう。これ以上遅れたら、朝ご飯抜きにされる」

 二人が立ち上がったので、マリオンは慌てて観葉植物の陰に身を隠した。


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