77 ティナの夢
ああこれは夢だな。
みかんちゃんをペットには出来なかった。
神獣はペットに出来ないと教えられた時のことを夢に見ているんだ。
ぼんやりとそんなことを考えていた。
辺りを見回す。
来たことがある場所だ。
でも、何時のことだったか思い出せない。
白い、白い、白一色の空間。
あの時は、とても悲しくて、でも凄く焦っていた記憶がある。
「じゃあ『ペットの飼い主』だけでいいの?」
そう声をかけてきたのは誰だったか。
顔が思い出せない。ううん、顔だけじゃなくて、男性だったのか、女性だったのか。歳をとっていたのか、若かったのか。
全てが朧気だ。ただ周りと一緒で、その人も白かったような……。
「はい」
私は頷く。それ以外を望んでいなかったから。
「うーん。君って欲がないよねぇ、半分って約束だから、これじゃあ足りないって言うか、偏っちゃうって言うか……。仕方がないから『ペットの飼い主』は天恵にしておいてあげるよ。ギフトだから、君がペットにしたいと思ったら、獣だろうと妖怪だろうと、なーんでもペットにできるよ。それに君のペットになったら、寿命は君と一緒の寿命同等を付加してあげるね。ずっと一緒にいられるよ。それと無病息災もね。病気しないし怪我も即時回復だよ。でも無敵でも不死身でもないから要注意ね。あっ、そうだ! 何でもペットにできるっていっちゃったけど神獣だけは駄目だよ」
白い人は、慌てたように付け加えた。
「神獣ですか?」
「そう。神獣は神様の管轄だから、僕では手に余るって言うか、手が届かないっていうか、残念だけど僕の授けるギフトじゃ神獣をペットにはできないんだ」
ごめんね。白い人は笑って謝る。
謝る必要なんてないのに。
「どうしてこんなに良くしてくれるんですか?」
わざわざ色々なことを付け加えてくれる。
不思議に思って聞いてしまう。
「良くしているわけじゃないよ、元はこっちの落ち度だし。それに半分こって決めたからね、同等にしないと」
「半分こ? 同等?」
「そう。君とあの子は半分こだよ。あの子は、すっごく注文が多いけど、あの子ばっかりになったら駄目だから、ちゃんと君も半分は受け取らないとね。ただ、僕の出来ることには限りがあるから、あの子の望み通りにはいかないんだ」
白い人は、ちょっと困っているみたい。
あの子?
あの子って誰?
視線を動かすと……、居た。
ああ、私の妹だ。
なぜ忘れていたのだろう。
仲良しの妹。妹と言っても、同じ歳の双子の妹。
双子だけど、二卵性だからなのか余り似ていない。
私よりも華奢で、私よりも女の子らしくて、私よりも可愛らしい自慢の妹。
妹は白い人に向かって、何かを言っている。妹の声が大きい。何か気に喰わないことがある時の話し方だ。
白い人は、ちょっと笑って首を振る。
「これ以上は無理だよ」
「なぜ、あなたが責任を取るって言ったのよ!」
「うん、そうなんだけど、君達は二人だったから、一人に全部の力を渡すわけにはいかないんだ。一人分の力を半分こにするんだよ」
「納得いかないわっ、半分だなんてっ」
妹は白い人を睨みつける。
妹の気持ちも分かる。
だって、いきなりだったから。何かに憤りをぶつけたいのだろう。
私も悲しくて辛かった。
「だって君の望みは今の魂のままでの転生だろう。赤ちゃんからのスタートだったらまだいいけど、記憶を残すのって、君が思っている以上に力が必要なんだよ。それに色々と手もかかるからね、言葉が通じるようにしないといけないし、読み書きだって出来なきゃ嫌なんだろう」
「もちろんだわ。当たり前でしょう、わざわざ苦労したいわけじゃないわ」
「苦労って言うけどね、転生先がお姫様か貴族の令嬢じゃないと嫌って言われても、空きがあるかわからないよ」
「どうして? 田舎の貧乏人になれって言うの、ありえないんですけどっ」
ぼんやりと白い人と妹の言い争いを聞いている。
妹はへんに意固地な所があるから、自分の意見が通らないと、ずっと怒り続ける。
今までも、何かあると私が折れることが当たり前だった。当たり前すぎて、文句を言うことすら忘れてしまっていた。
両親からも、可愛らしい妹の言うことを聞いてやれと言われていた。何時も言われていたのは、お姉ちゃんでしょうって言葉。
同じ歳なのに。
「もう無理だよ。これ以上、加護を授けることはできないよ」
「何が無理なの? レベルがCだなんて、信じられないわ!」
また何か、妹の気に食わないことがあったのか、妹の声は、ますます大きくなる。もう怒鳴っていると言っていい。
白い人は、押され気味だ。
「Cは決して低いランクじゃないよ。ギルド所属の冒険者でいえば、引退する時のレベルの平均がCだからね。Cランクからのスタートっていうのは、すごく恵まれているんだよ。それに、そこから努力すれば上がっていけるんだ。そこで打ち止めってわけじゃない」
「じゃあ最初からAとかSにしておいてくれてもいいじゃない」
「レベルって、そんなに簡単なものじゃないんだよ。努力もなく高ランクになっても、力を持て余すだけだよ。大きな力を持つと、力に振り回されてしまう。結果、身を亡ぼすことになってしまうよ。AやSランクは努力をした人が持たないと、危険な力だ」
「そうやって、出し渋る気なんでしょう。だいたい半分こっていうのが気に入らないのよ。半分じゃなくて、ちゃんと一人前ちょうだいよ」
「二人来てしまったから、それは無理だよ。僕の力は一人分しかないからね」
「じゃあ、あっちは要らないって言っている分を、私の方に回してちょうだいよ。私は足りないんだから!」
妹は私を指さす。
「……、それは出来ないよ」
今までは笑顔だった白い人は、すっと真顔になった。
「半分の加護とはいえ、人には過分な加護だよ。これからは自分の選んだ加護で、自分の力で生きて行くんだ」
白い人は妹の胸をトンと押す。
「きゃあぁぁぁ」
妹の足元にポッカリと穴が開き、そのまま妹は落ちて行く。
少し離れた所にいた私は、慌てて穴の側までやってくる。
下を覗こうにも、霞がかかったように、よく見えない。
「さあ、次は君の番だよ。ちゃんと半分の加護は授けてあげるから、安心していいよ」
白い人は私へと笑顔を向ける。
白い人は跪いたままだった私の肩をそっと押す。
私は穴へと吸い込まれていく。不思議と怖くはなかった。




