51 入学決定
「ティナは、この学園に働きに来たの? 入学するためじゃなくて?」
「はいそうです」
紹介状を読みながらハロルドが聞いてくる。
ティナは大きく頷く。
不思議なことを聞かれてしまった、就職試験をちゃんと受けたのに。
「私、ちゃんと合格できたんですよね? そうですよね? 私は食堂の下働きが希望なんですけど……。村長が紹介状に書いてくれているはずです」
「あ、いや、ちゃんと書いてあるよ……」
「よかったぁ。あ、もしかして他にも下働き希望の人が多くて、違う部署になりそうなんですか? あの、私はそれでも大丈夫です。どんな部署でもいいです。頑張ります。頑張るので働かせてください」
「いや、そうじゃなくて……」
頭を下げるティナに、ハロルドの返事は歯切れが悪い。
「えっと、ちょっと……。ちょっと待っていてくれるかな。そのままで、動かないでそこに居てね」
ハロルドはティナに動かないようにと両手でジェスチャーすると、紹介状を持ったまま、どこかに走って行ってしまった。
ここに居ろといわれたから、動くことも叶わず、ティナは立ち尽くす。
「まあ、スーさん、ちょうちょさんも起きたのね」
ティナの腕の中で、スーとちょうちょが身じろぎしだした。
そのままティナの腕から降りる。
スーの抱っこは重かったので、ティナはホッとした。二匹とも元気そうだ。
「いや、待たせて済まないね」
それほど待つことなく、ハロルドは一人の老人を連れてきた。
背筋がピンと伸びた、いかにも偉そうな人だ。
「この方は今回の試験の責任者を務めているアール教頭だよ」
もの凄く偉い人だった。ティナは固まるしかない。
ティナはアール教頭から説明を受けることになった。
アール教頭の話によると、ティナは就職試験ではなくて入学試験に合格したのだそうだ。
やっと就職できると喜んだのに違っていた。
なぜ気づかなかったのか……。
いくら合格できたとしてもティナは学園に入学することはできない。
だって仕事をしないとお給料を貰うことができないし、住む場所が無い。
なんとか食堂の下働きとして働くことは出来ないかとアール教頭に頼んだ。
アール教頭は、せっかく入学試験に合格したのだから学園に入学するようにと進めてくれた。
でも文字の読み書きすらできないティナが、学園に入学したとしても何もできない。それに今日から寝る場所がないのだ。
アール教頭は、ティナは試験の結果が優秀だったから、特待生として入学できると言ってくれた。
特待生という言葉の意味すら分からず頭を捻るティナのために、アール教頭は詳しく教えてくれた。
特待生とは。
学費は免除されること。
学園には寮があり、そこに住むことができるし寮費も無料なこと。
寮では朝と夕方に食事が提供され、無料なこと。
昼食は学園の学生食堂で食べれば無料なこと。
もちろん従魔達の餌も毎食無料で支給されること。
話を聞いている内にティナの目はキラキラと輝き出す。
無料!
ご飯も住む所も無料!!
「で、では、学園の生徒でいれば、それが働いているということになるのですか?」
「ああ、そうだね。学園に入学すれば、それが働いていることになるね。仕事は一生懸命しなければならないだろう。生徒も一緒で勉強を頑張らなければならないよ。もちろん無理をする必要はない。自分でできることを頑張ればいいのだよ」
アール教頭の言葉にティナは、生徒でいれば無料! と、目の輝きが増す。
「制服や学園で必要な物は申請すれば無料で貰えるよ」
「無料!」
「そう、それにね」
アール教頭は少し言葉を切ると、ニッコリと笑う。
「生活支援金として、毎月銀貨5枚が支給される。もちろん支援金は返す必要はない。受け取った者のものだ。お菓子を買ってもいいし、可愛いアクセサリーを買ってもいいのだよ」
「ぎ、銀貨5枚……。そんな大金」
アール教頭の申し出に、ティナは呆然とする。
全てが無料の上に、給金が銀貨5枚。なんて高給取り。
学生とは、こんな夢のような待遇を受けているのだろうか。
アール教頭を連れてきたハロルドは、そのまま隣で話を聞いていた。
口は挟まないが呆れてしまっている。
生活支援金って何だ? そんな制度、初めて聞いたぞ。
魔力や能力持ちは貴族に多い。だからザイバガイト学園に在籍する生徒達は、大多数が貴族の子ども達で、裕福な家の子どもが多い。
だが少数だが庶民、それも貧困家庭から入学する生徒もいる。
そういう生徒に対しては学費支援制度や奨学金制度がある。だが決して無料ではない。将来返済義務がある。
特待生制度もあるが、オール無料だっただろうか? 違った気がする。
アール教頭の元には、試験中、様々な情報が入っていた。
もちろんティナと従魔達のことも。
これほど特異なテイマーと、規格外の従魔達を何としてでも学園に入学させたいと思っているのだ。
それに、神獣のグリファスからも推薦の言葉があった。神獣からの推薦のある受験生など、学園始まって以来だ。
アール教頭は思ってしまったのだ “逃がしてなるものか” と。
「銀貨5枚……、銀貨5枚……」
ティナはぶつぶつと呟いている。
「この紹介状は私の方で預かろう。もし学園が嫌になったら食堂の下働きで働けるように、頼んであげるよ」
「本当ですか!」
「ああ。それに学園を卒業すれば、もっともっといい所に就職することができる」
アール教頭はハロルドから紹介状を受け取ると、ティナへと約束する。
アール教頭の言うことは嘘ではない。
ザイバガイト学園に入学すれば、それだけで箔が付く。途中で退学したとしても就職先に困ることはない。
それに卒業できれば、ほぼ国関係の仕事に就くことができる。エリートコース間違いなしだ。
「なりますっ。学園の生徒になります!」
ティナは承諾した。
アール教頭とハロルドは、ホッと胸を撫で下ろす。
ティナが嫌だといったら、次に何を提示すればいいのか、考えなければならなかったから。
ティナの足元からこちらを静かに見上げているスライムからは軽い威圧を感じていたし、スライムの頭の上にいる妖精からもシビアな視線を感じていた。
たぶん主に少しでも不利になるようなことを言わないかと、見定めていたのだろう。
主から命令されていないのに、主を守ろうとしている。
本当に、ありえない従魔達だ。
こうして、ティナのザイバガイト学園への入学が決まったのだった。
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