表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/97

2 何かがおかしいキャラバン隊



「出発するぞ。準備は終わっているか?」

スーと共にキャラバン隊の元に戻ると、隊長の声が聞こえてきた。

洗濯物を干す時間は無かったが、スーが帰って来ていて良かった。ティナは胸を撫で下ろす。


キャラバン隊は村や町に到着すると、積んできた商品を販売したり、特産品を買いつけたりと、数日滞在するのが常だ。サノト村にも3日間滞在した。

薬草の仕入れが終ったのだろう。


「ティナ、いつもの荷馬車は薬草で一杯になったから、あっちの馬車に乗ってくれ」

隊長が指さす方には、キャラバン隊の中で一番小さな荷馬車があった。


「分かりました」

ティナは頷くと、隊長の傍を通ってスーを連れたまま隊員用の馬車に洗濯物の入った(たらい)を置きに行く。

隊長の目線が少し険しくなるのに気づかないフリをする。


ソノイ村にいた時もそうだったが、魔獣を連れているティナのことを皆は疎ましく思っている。

どんなにティナがスーのことを解ってもらおうと話をしても、所詮スライムは魔獣だからと、誰もティナの言うことを理解してはくれないし、話すら聞いてくれない。

そもそも魔獣は人には絶対に懐かないし、人を見れば襲い掛かる。魔獣が近くにいれば、気が休まらないのは分かる。か弱いスライムだとしても危険なことに変わりはない。


村にいた時は、ティナが気をつけていたから、スーが村人を襲うことはなかった。だからこそスーはティナのペットとして一緒に暮らすことを許されていた。

もしスーが村人を襲っていたら、未遂だとしても、その場でスーは処分されていただろう。


それはキャラバン隊の隊員達も同じで、村長がなんとか頼んでくれたからスーと一緒に同行させてもらえている。

だから隊員達の乗る馬車に乗ることは許されず、荷馬車に乗せられているが、それでもティナは嫌だとは思わない。それどころかスーと一緒にいられるから、ありがたいとさえ思っている。


盥を置いたティナが、荷馬車へと向かっていると、キャラバン隊を見送るためだろう、この(サノト)村の村長がやって来た。

村長はティナのことをジロジロと見ると、そのまま隊長の元へと行ってしまった。

『あの娘が……』と、隊長と話している言葉が切れ切れに聞こえてきた。自分のことだろうか?


キャラバン隊の中で、たった一人の子どものティナが珍しいのだろうか? それともスライムを連れていることに嫌悪しているのかもしれない。

ティナは頭をペコリと下げると、そのまま荷馬車へと向かう。


いつもは一番大きな荷馬車のギュウギュウに積まれた荷物の隙間になんとか座っていた。それなのに乗るように指示された小さな馬車の荷台は空っぽだった。荷物が1つもない。

旅が進むにつれて荷物も多くなってきていたから、この小さな荷馬車にも、荷物が多く載っていたと思っていたのに。

この村で商品が思ったより売れたのだろうか? でも商品が売れた以上に大量に薬草を仕入れていたように思えたけど。

今まであった荷物を、わざわざ他の馬車に積み替えたのだろうか。何のために?

疑問に思ったティナだったが、それを聞く暇などなかった。荷馬車に乗り込むと同時に馬車は動き出したのだ。


荷物が多いと身体を伸ばすことができないから、同じ体勢が続き、身体のあちこちが痛くなって大変だが、逆に何も無いと掴まる所が無くて馬車の揺れに耐えられなくて、これまた大変だ。

ティナは荷馬車の隅に座ると、自分の股の間にスーを挟むようにして降ろし、片手でスーを引き寄せ、もう一方の手で(ほろ)を掴む。


「いい、動いたら駄目よ」

いくら大きく成長したとはいえ、丸い身体の形は変わらない。転がって馬車から落ちてしまったら洒落では済まされない。

スーが落ちても、拾うために馬車を止めてはくれないだろう。

引き寄せる手にギュッと力を入れる。

スーはティナに構ってもらえるのが嬉しいのか、ご機嫌そうに身体を震わせている。


キャラバン隊は何台もの馬車で移動する。それに荷物を狙う野盗や盗賊達も多く出没するため、護衛のための冒険者達が何人も同行している。大所帯で隊列はとても長い。ティナの乗っている荷馬車は、その最後尾を進んでいた。

冒険者達は前方と後方の二手に分かれ、隊列を挟むようにして護衛しているのに、ティナの乗った荷馬車は冒険者たちよりも後を進んでいた。これでは賊が出てきた時に冒険者たちから護っては貰えない。


馬車が移動を始めると、すぐに音を耳ではなく全身で感じ取るスーは異変に気づいた。自分達の乗った馬車だけが、本隊とは離れ、違う道を進みだしたのだ。

馬車は森へと向かっているようだ。森には魔獣が多く生息し、村人達さえ近寄らない場所だというのに。


本隊と荷馬車の距離はどんどんと開いて行く。それなのに冒険者達や他のキャラバン隊の隊員達は、気づいているのかいないのか、驚く者も止める者もいない。まるで最初から荷馬車が離れて行くのを知っていたかのように。

とうとう荷馬車は本隊から離れ、森の中へと入って行った。


これであっているのか? スーは疑問に思う。

最後尾を走っていた為、荷馬車の入り口から他の馬車は見えていない。だからこのことにティナは気づかない。


言葉の喋れないスーは、このことをご主人様に伝えることができなかったし、これが何を意味しているのかも分からないのだった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ