10 目覚める
あれ?
目が覚めると見知らぬ場所だった。
どうして私は寝ていたのかしら?
ティナは上半身を起こし、キョロキョロと辺りを見回す。なぜか大きな木の根元に寝ていた。
目の前には道。王都へと続く道なのだろうか? なんでこんな所にいるのか頭をひねる。
薄気味悪い森の中に連れて行かれた。
凄く怖かった。御者の男性から驚かされたけど、冗談だと言われてホッとして、馬車に戻ろうとした所までは憶えている……。その後は?
「スーさん」
右腕に何かが当たる感触があり、見ると寄り添うようにスーがいた。
何か言いたいのか、身体を小刻みに震わせている。
「まあ、頭に瘤があるじゃない」
スーを抱き寄せようとして、スーの頭にポッコリと盛り上がる、たん瘤のような物があるのに気が付いた。
「痛い?」
何かにぶつかったのか、もしかしたら誰かに殴られたのかもしれない。
キャラバン隊の隊員達の中には、スーのことを気に食わない者もいた。ティナも気を付けてはいたが、いつの間にか危害を加えられていたのかもしれない。
スーはか弱いスライムだから、少しのことでも命の危険になってしまう。
そっとスーの瘤を撫でる。
スーは嬉しいのか、少し身体を伸ばして、ティナの手に頭を擦り付ける。
「良かった、大丈夫みたいね。さてと、何でこんな所にいるのか、さっぱり分からないけど、いつまでも寝ているわけにはいかないわ。王都に行かなきゃ。でも王都って、どっちに行けばいいのかしら?」
安心したティナは、スーから手を離すと起き上がる。
訳が分からない状態だが最悪じゃない。身体に痛い所は無いし、スーがいる。大切な家族のスーがいるのなら、どうとでもなる。
なぜキャラバン隊とはぐれてしまったのか?
キャラバン隊を探したいが、何か理由があって置いてけぼりを食らっているのなら、馬車で移動しているキャラバン隊に徒歩のティナが追いつくことは不可能だ。
キャラバン隊の目的地は王都だし、ティナの目的地も王都だ。王都に行けば会えるだろう。村長に頼まれたとはいえ、無料で乗せてもらっていたのだ、最後にお礼ぐらいは言いたい。
「ん、どうしたの?」
立ち尽くしていると、ティナの上着の裾を、スーが引っ張っている。
まるで、こっちに行こうと言っているみたいだ。
「こっちに行きたいの? そうね、どっちに行けばいいのか分からないんだもの、そっちに行きましょうか」
ティナは歩き出す。
いつもだったらスーを抱っこして歩いていたが、今のスーは大きすぎてティナには無理だ。
スーもビヨンビヨンとティナの横を跳ねて付いてくる。
「王都までどれぐらいかかるのかしら? 荷物は馬車に置いたままだったし、困ったわねぇ」
ティナの独り言に、スーは青い身体をもっと青くする。
(そうだった。ご主人様の荷物を回収していない!)
生贄にするためにティナは一番小さな荷馬車に乗せられていたから、着替えなどの入ったティナの私物は、それまで乗っていた隊員用の馬車に置いたままだった。
今更、あの惨状の場所には戻れない。
どうする?
キャラバン隊がいた場所から随分と移動したが、それでもティナの足だと王都までは今日中には着けないだろう。
食べ物はスーが木の実や果物を調達しようと思ってはいるが、それだけじゃ駄目なのだろうか? 人族には何が必要なのか、スーには分からない。
「どうしようかしら……。まあでも、村長から貰った職場への紹介状だけはあるから大丈夫といえば大丈夫なのよね。絶対に手元から離しちゃダメだって村長から言われていたから、腹巻の中に入れておいて良かった」
ティナは自分のお腹をポンと叩く。
別にティナのお腹が冷えやすいとか弱いとかいうわけではない。私物は仕事中に手元に置いておくことが出来なかったから、勝手に漁られたりするのは日常茶飯事だった。貴重品は必ず身に付けておく必要があったのだ。
でもそれが幸いした。
この紹介状があれば、王都に行けば仕事がある。住み込みで働くことが出来る。
何とかなるさとティナは気に病まないことにした。元々が魔獣をペットにするぐらいには大らかというか何も考えていな……ゲフンゲフン。
天気もいいし、馬車が通るような大きな道だから魔獣や獣が出ることもないだろう。
道沿いをのんびりと歩いて行く。
ソノイ村を出てから二人きりでいられる時がほとんどなかったから、スーも嬉しそうだった。