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家出公爵様がお帰りになりません  作者: 虚夢想
第七章 ノイトラール攻防編
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第97話 破壊の呪文

「だあぁぁあっ!!」

何の夢を見ていたかは忘れたが、とにかくムカついて飛び起きると悲鳴を上げられた。


「レ、レオン⁈気がついた?なんか食べる?」

よく分からないまま頷くと、アルベルタがカップを二つ持ってきた。


「水とシチューがあるけど食べられそうなら…」

言い終わらないうちにスプーンが入っている方をひったくる。


「………ソフィのシチューじゃない…」

「……そんな状態でよくわかるわね」

よく見るとカップを抱える両手には包帯が巻かれ、あちこちガーゼが貼ってある。

そして暗いトンネルの中には人が並んで寝かされていた。


「……死体置き場?」

「失礼な事を言わないで!ここに居るのは軽症者ばかりよ」

「………軽傷?」


「動けるなら手伝ってよ。カップが持てるなら、怪我人も運べるでしょ?」

同意はしかねるが、確かに周りと比べたら自分は軽症のようだ。


そして隣に横たわる友人に気がつき声をかける。

「リュカ!」

だがすぐにアルベルタに口を押えられた。


「知り合いなのね?だったらその人も連れてきて」

言われるままに担ぎ上げようとして、うまく掴めずに頭から落として鈍い音がした。


「うわぁ!悪りぃ!アルベルタ、血が!」

「いいから連れてきて」

「でも頭がパックリ…」


すると振り返ったアルベルタは恐ろしく冷たい目をして

「いいから…連れてこい…」と言った。アルベルタもまた、地獄を見たようだ。

「はい。」と青い顔で呟いたレオンは血抜き状態のリュカを逆さに背負って歩きだした。



トンネルから外に出ると、アルベルタはリュカの頭を包帯でギチギチに縛った。

アルベルタのパワーもすごいが切れない包帯もスゴイ。血は出なくなったけど

リュカの顔色はさらに悪くなった気がする。


「これで大丈夫!」

アルベルタは満足げだが、どこまでが軽傷扱いなのかを考えると怖い…

そして雑な手当のせいなのか、リュカが身じろぎをした。


「気がついたか?リュカ!」

「………レオ…頭、イタイ…」

「それはすまない…」


アルベルタはリュカを一瞥すると

「アンタたちはアレから助け出されたのよ」と言った。

指差す方向には不自然に土砂が山になって積まれている。


「なんだ?アレ」

さらにアルベルタが指をさした方向に目を向けると、川向うの山の頂が齧られた

スイカのようになくなっていて、そこから更に残土の山に指を移動させた。


「………………鉱山をえぐり取ったのか?」

「おしい!ゴルド地区の島を作った時みたいに山をくり抜いて空中で破壊(バルス)。落ちてきた人を拾ったの」


「よく生きてたな!俺たち!」

「ホントにね。燻ってる場所もあったからアンタ蒸し焼きの可能性もあったのよ。

それで土の中から出てきた人を軍服で分けて、一山ごとに敵陣に転送してるの」

アルベルタはそう言って、またリュカを見た。


泥まみれのリュカの服は何色なのかも分からない状態で、よく見ないとどこの軍服なのか判別できない。


「……ホリョ…」

「リュカに戦闘の意志はないぞ!」

「今なら捕虜にならずに帰れるわ」

だがリュカは「仲間」と呟いた。


「そうだ!みんなで坑道に逃げ込んで、山火事をやり過ごしたんだ!リュカの仲間もいて…アイツらは…もしかして怪我がひどいのか?」

「…重傷者は帝都の病院に送られたから…」

「じゃぁ、リュカの仲間は?」

アルベルタは目を細め、何とも言えない表情をした。


リュカを見ると遠くの軍幕に入る担架を見ていた。

担架からダラリと下がる腕は、ポマティアの軍服を着ていた。



「リュカ!」

止める間もなく走り出したリュカを追って軍幕に飛び込んだレオンは、強烈な腐敗臭に思わず口を覆った。

少し掘り下げられた土の上にすし詰めに並べられた兵士からは、黒い液体が染み出している。


目の前の光景に足をすくませたレオンと対照的に仲間を捜して走り回ったリュカは、ついに友人を見つけて膝から崩れ落ちた。だが天を仰いで泣くリュカの声は

レオンには届かなかった。


『……なんだ…コレ』

凄惨な場面に出くわすと人は目をつぶるらしいが、レオンは逆に目を閉じられずにいた。

人の形を残したソレは、焦げたような腐ったような()えたような臭いを放ち

レオンの脳裏に焼き付いた…



同じ頃、前線部隊はやり場のない怒りに包まれていた。

鉱山を山ごと()()()()という暴挙により、戦意どころかフィールドまで失ったからである。

消し飛ばすなら想像も出来るが、空飛ぶおにぎりのようにフワフワとシュバイネハクセに飛んでいく山頂を見た時は開いた口が塞がらなかった。


しかも山ごと兵士を攫っていって破壊(バルス)である。

魔法なのか兵器なのかすら解らずに、現地は混乱を極めた。

そのうえでシュバイネハクセは、勝手に捕虜の解放まで始めてしまった。


実際、大規模火災の被害が大きすぎて双方死に体で怪我人の回収も出来ない状況だった。

ヴィルヘルムたちは怪我人を帰すことで一時停戦を訴えているのだが、先刻まで

刃を交えていた相手を簡単に信じるワケにもいかず、ポマティアはこれを挑発と

受け止めた。


だが、そんな事はおかまいなしに魔方陣が再び現れて、ポマティア陣営は緊張に包まれた。



武器を構え魔方陣を取り囲んだポマティア兵は、人影が現れると一斉に魔法を放った。

しかし不意に膨張した光で攻撃は弾け飛び、その隙に魔方陣からシュバイネハクセ兵が躍り出た。

「ヒィィ!さっきより集まってるっすよー!」

駆け出すなりトンファーと足技で敵を弾き飛ばしたベンセだったが、敵の多さに

さっそく情けない声を上げる。


そこに魔法障壁を盾に構えたゲオルグが突っ込み、特殊警棒に魔力を込めて一閃すると前方にいた兵士が吹き飛んだ。

さらに背後ではオリビアがハンマーを振り回して、小気味が良いほど兵士が空を舞っている。


「怪我人を連れてきた。保護してやってくれ!」

魔方陣の中心で大量のポマティア兵を運んできたヴィルヘルムが叫んだが、シュバイネハクセ兵のいう事を聞く筈もない。


たちまち囲まれて武器を向けられたが

気にすることなく屈んだヴィルヘルムが地面に手をつくと、五メートル以内にいた兵士が爆発音と共にドーナツ状に吹き飛んだ。

そして爆発に巻き込まれて飛んでったベンセは、再び敵に囲まれ悲鳴を上げる。


ヴィルヘルムは舌打ちをすると、体術で敵をいなしながらベンセに近づき、襟首をつかみ竜巻を起こした。

「魔法を使うときは合図してほしいっすよー!」

「スマン、次はそうする」

「さっきも言ったっすー!」

二人が揉み合う間にも、竜巻に飲み込まれた敵兵は木の葉のように舞い上がり再び敵兵の中に落ちていく。


「大規模魔法を使い続ければ、いずれ魔力切れを起こすぞ!」

そんな声も聞こえたが、生き物のように暴れる三本の竜巻に、ポマティア兵は翻弄され放題だ。

そして混乱に乗じてヴィルヘルムの元に集まったダールベルク隊は、瞬く間に

撤収。

この方法で各陣営の補給地と思われる場所に、捕虜を強制的に送りつけている。


ポマティアの指揮官は「傷ついた同胞を見せることで士気を下げようとしている」と言って兵たちを鼓舞したが、手品のような手法にもはや成す術がなかった。


穏便に済ませようというヴィルヘルムなりの配慮なのだが、小馬鹿にしたようにしか見えず、これが味方の士気まで下げてしまう。

先の戦争では、それで味方の恨みまでかっていたのだが、今回は少なくない数の

ノイトラール住人が誤解を解いてまわるという珍事が起こったようだ。


「なんにせよ敵を引かせれば休戦だ。帰れるぞ」

力強い言葉にシュバイネハクセ陣営では、安堵の息が漏れ始めていた。

この時はヴィルヘルムでさえ、そう聞かされていたのである。


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