第96話 お腹がすいて永眠れない。。。
暗闇で響く振動。それを全身で感じながら、レオンは暗い坑道に横たわっていた。
天井からバラバラと小石が降り注ぎ、半ば埋もれた状態なのだが払う気力もない。
僅かに指を伸ばすと友人に触れたが、温かいかどうかさえ判らない。
『さむい…』
レオンは、ぼんやりとする思考で、温かな記憶をたどっていた。
夏ごろに国境の川を渡りポマティア山脈に入ったレオンたちは、片手間に食べ物を探していて所属部隊からはぐれてしまったが、捜索はすぐに部隊より緊急性の高い
食料確保に変わり、どうせ山の何処かに居るのだからと、当初の目的を忘れて
開き直っていた。
サバイバル生活で欠かせない物は水と食料。
それは敵も野生動物も一緒なので、俺たちは必然的に山中の小川に集まった。
敵でありながら既に顔見知りのポマティア兵たちは、年齢もやる事も変わらない。
それゆえに日々過酷なバトルが繰り広げられていた。
シカを追って鉢合わせては殴り合いをし、クマに追われて逃げ出し、罠にかかった獲物をめぐって殺し合いをしていて仲良く谷に落ちた事もあった。
一応小川を挟んで対峙する姿勢はとっていたものの、正直食べ物を探すには人数がいた方が効率が良いようにも思えて、次第に何のために争っているのか分からなくなってきた。
「あいつら捕虜にして食べ物探しを手伝わせた方が良くないか?」
「あの川、魚もいるしな」
「でも負けた方が捕虜だぞ」
「よし、殺るか」
ひとりだけ妙に強いヤツがいて攻めあぐねた挙句、季節は変わってしまった。
そして数日前に突如として山火事が起こったのである。
お互い沢でやり過ごそうとしたが、その程度で済まされる規模ではなかったので、一時的に休戦して一緒に坑道に逃げ込んだ。
鉱山を占拠した時に、炭鉱の深部に通じる空気穴の位置をダニエルに聞いて、
ねぐらにしていたのだ。
燻されるような臭いはしたが地下は思ったより影響を受けなかった。
でも地上に近づくと熱を感じるので、冬用に作った干し肉と木の実で食いつなぎ、布団兼燃料の落ち葉にもぐって、リスのように寒さを凌いだ。
「オ前、ヤマ育ち…?」
「そうとしか思えないだろ?コレで騎士団長の息子なんだぜ」
「……キシ…」
イノシシチームは全員貴族出身者でありながら、すっかりノイトラールの暮らしが板についていた。
そしてポマティア兵は二人は貴族、一人は傭兵という構成だったが、めっぽう強くサバイバル技術に長けたリュカがひとりで狩りをしていた状態だったらしい。
「今は休戦中だ。というか国が揉めてるだけで、俺たちが戦う必要はないよな?」
「休戦…イマ…」
「そうだ、今は休戦だ」
酸欠防止に最低限しか火が使えず、ジェスチャーも使えない。
リュカはシュバイネハクセ語が話せなかったけど徐々にニュアンスが通じるようになった。つたない会話だが年頃が同じなので、なんとなく通じるものがある。
そうなると違いは着ている軍服だけだが、暗闇はそれさえ隠してしまい、不思議な友情が生まれ始めていた。
そして外の様子を見に行って出口が塞がっているのをみつけ、慌てて掘り起こそうとして更なる落盤を引き起こした。
狭い隙間にひとりで閉じ込められたが幸い怪我はなく、瓦礫を退かしまくると声が聞こえた。
掘り進めると、隣にいたのはポマティア兵のリュカだった。
そして二人で瓦礫を退かし続けたが、一向に仲間も出口もみつからず、やがて息苦しくなってきた。
低酸素に加えて土埃。声が聞こえた時は夢中で掘ったが、当てもなく掘り続けるには体力以上に気力を削られた。
ずっと続く振動が土砂崩れなのか、眩暈なのかはわからないが、このままでは生き埋めになる…そう思ったらお腹が鳴った。
『…餓死…』
レオンは絶望した。それだけは殺されるより嫌だった。
走馬灯のように思い出すのは焼肉、ステーキ、とりあえず肉…
『死ぬ前に死ぬほど食いたいもの…』
それを心に思い描き強く目をつぶると、目を閉じているのに光を感じた。
あまりに眩しくて瞼を開いたが、真っ白でなにも見えなかった。
ついに死んだのか…そう思ったら声が聞こえた。
何を言われてるかは分からないまま、さっきまで願っていた事が口をついた。
「………シチュー…」
「まだ死にそうにないな…」
生き返りそうなほどムカつく声だった。




