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家出公爵様がお帰りになりません  作者: 虚夢想
第七章 ノイトラール攻防編
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第92話 ノイトラール攻防戦

軍艦襲来の知らせを受けて、慌ててゴルド地区に駆け込んだが、ルーカスはまるで取り合おうとしなかった。


「ビルング准教授に望遠魔法で見ていただきましたが、間違いなく船影が近づいているそうです!」

「それでその准教授はどこに居るんだ。軍艦だと騒いでいるのは平民なんだろ?」

確かに万が一ではある。でもルーカスは平民の証言というだけで、聞く気がないらしい。


遊牧の民から連絡を受けたトーマスが念話を飛ばした相手はビルングだった。

仰々しい魔道具を使えば、ある程度魔力の強い者同士なら距離があっても会話が

可能なので、転移魔法が使えるドクタービルングに緊急連絡先になってもらっていたのだ。


ただ平日昼間の出来事なので授業をすっぽかすワケにもいかず、私とヒスイを届けてすぐにアカデミーに戻ってもらった。

そして私たちは、そのままゴルド地区に乗り込んだ。



「今日は商船が来る日でもない筈です」

「お客様が予定より早く到着されただけだろう?

大体、望遠魔法を使っても船影しか見えないのに、なんで平民が軍艦とそれ以外を見分けられるんだ」


「遊牧の民は、そうやって危険を回避して生きてきたんです!」

牧歌的な暮らしを好む彼らだが、長年戦争や野生動物を避けながら生活してきた為、視力が非常に発達している。


以前神父様が、やかんに火をかけたのをスッカリ忘れてボヤ騒ぎを起こした時も、盆地の反対側から「いつもと煙の色が違う」と連絡をくれたのだ。

その時は、子供たちが先に気づいて消火活動をしてくれていたけど、早くに駆け付けられたおかげで怪我人を出さずに済んだ。


その遊牧の民が、「砲台を乗せた船が近づいている」と言っているのだ。


放出系の魔法攻撃は莫大な魔力を消費する。

そして魔力が安定しなければ、たちまちコントロールを失い、最悪自陣を吹き飛ばす恐れがある。

それで見張り塔などには、魔力を込めるだけで撃てる砲台を設置している場所が

多く、遊牧の民は狙われた事があるらしい…


「どこの船か判るまで、港の門を閉じるべきです」

「あの門は開け閉めに時間がかかるじゃないか。待たせたらお客様に失礼だよ」

「防衛の要ですよ⁈」


「というか君たちも失礼だよ。ここには宿泊客もいるんだから」

そういってルーカスはヒスイを見た。

さっきから苛立ちっぱなしのヒスイを、さっさと追い出したいらしい。


押し問答をしているとヨハンまでやってきた。

「船はシュバイネハクセのものだが、やはり軍艦のようだぞ!」


「シュバイネハクセなら問題はないじゃないか」

「軍艦という所が問題です!」

「ガードの固すぎる女性は嫌われるよ」

言いかえそうとしたら「もう目の前まで来てるんだ。川辺の回廊に向かうぞ!」とヨハンに止められた。


「とりあえず急ぐです」

業を煮やしたヒスイは、私を俵担ぎにするとヨハンにも手を伸ばした。

「待て、オレも担ぐ気か?」

「さすがに二人は担げねーです」とヨハンを小脇に抱えた。

「お前の身長じゃ無理だ!せめて逆にしろおぉぉぉ…」

抵抗虚しくヨハンの叫びはフェードアウトしながら掻き消え、その場には不服そうな顔のルーカスだけが残された。



人をふたりも抱えて涼しい顔で走るヒスイと違い、小脇に抱えられたヨハンの方が脂汗をかいていた。

ヨハンの身長はシュテルツェ男性位だが、それでもヒスイよりだいぶ大きい。

なので足を引きずらないように、左手でヒスイの服を掴みながらシャチホコスタイルをキープし続けている。


川辺の回廊は港がある洞窟から川上に向かって、岸壁をトンネル状に掘り抜いた

場所の通称で、船の甲板と同じくらいの高さにあるため、結界越しだが入港前の船と直接やりとりが出来る。

でも回廊と同じ高さに大砲を並べた軍艦は、どうしたって良い気がしない。


「シュバイネハクセの軍艦とお見受けする!入港目的を伺いたい!」

担がれたままインカムのマイクで水兵に叫ぶと、甲板が急に慌ただしくなり、大砲の前に人が集まった。


『まさか…』と思った時にはヒスイが走り出し、後方で爆発音がした。


「攻撃してきたぞ!」

ヨハンがヒステリックに叫んだが、この可能性はヴィル様から聞いていた。

羽振りの良いゴルド地区はシュテルツェだけではなく、資金繰りが難しくなっているシュバイネハクセにも狙われる可能性が十分にあると。


「欲しいものを奪うのが帝国だから!」

これは近隣諸国だけではなく、奪われ続けた平民の共通認識でもあった。


「大砲でも結界は壊せないみたいね。私はこの先の非常口から降りるわ。ヒスイは攻撃準備をして!」

「お前、何をする気だ!」

「ゲートを閉じて迎え撃つ」

「無理だ!せめてオレを交渉役に…」

「それこそが無理なお話です!」ヒスイがピシャリと言った。

「さっきから小鹿のように震えが止まらない貴様さまは、交渉どころか一人で立つこともできねーです」


気持ちはありがたいけど、私もヒスイと同じ意見だった。

気丈に振舞ってはいるけどヨハンは大砲を見た途端に明らかな拒否反応がでている。無理をさせれば戦場で負った心の傷を広げかねない。


「ヨハンは住民の避難誘導を…」

「そんなものはトーマスとベリルがやってる。オレは時間稼ぎをする!」

「だったら、ここで降りるです」

無情にもヒスイは手を離し、ヨハンはカエルのように回廊に置き去りにされた。


「ヨ…ちょっと!ヒスイ!」

「時間がねーんです」そう言うと、ヒスイは一層スピードを上げた。覚悟を決めるしかない。


「……演習通りにいくよ」

「イエス、マム」

大砲を撃ってきた時点で、こちらには自衛権を発動する権利がある。


「殴るからには、当然殴り返される覚悟も出来てるんでしょうから…」

ソフィアは担がれたまま、拳を握りしめた。

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