表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
家出公爵様がお帰りになりません  作者: 虚夢想
第六章 戦場にI'll be back編
86/117

捕捉小話⑨ 狩猟本能

華やかな音楽に花のように咲くドレス。

夜闇を押し返すように照らされた帝都の宮殿で、今夜も夜会は繰り広げられていた。


「うふふ、イェーリング侯爵子息様は先見の明をお持ちなのですね」

「気の利いた話も出来ずに申し訳ない。私の話はつまらないでしょう?」

「いいえ、有意義な時間を過ごさせていただいておりますわ」

ご令嬢に笑顔を向けつつ、目の端で次のターゲットが会話を終えたのを確認した。


「今夜は子爵にご挨拶をと思っていたのですが、お会い出来ず残念でしたとお伝えください」

「で、では次の機会には、父と会ってくださると…」

「もちろん、また貴女にお会いできる夜を楽しみにしておりますよ」


甘い余韻を残しながら踵を返すと、ヨハンは素早く人混みに紛れた。

そして目的の人物に近づき声をかけた。


「ヘンデル伯爵、先日はお世話になりました」

「おぉ、ヨハン殿。私もこの前の話がしたかったんだ」

先ほどまでの雰囲気と打って変わり、ヨハンは爽やかに微笑んだ。


交渉材料とあれば手段を問わず、いくつもの仮面を使い分け、ヨハンは広報担当の役割を遺憾なく発揮していた。



「随分と手広くやっているんだな」

「お久しぶりです。兄上」

無事商談がまとまり、ご機嫌で給仕から飲み物を受け取ったヨハンだったが、長兄の顔を見た途端にトーンダウンした。


「先日ゴルドに行ったが、あの町は恐ろしく堅牢だな。独立でもする気なのか?」

「ダールベルク公爵にそのつもりはないでしょう」

「女領主はどうだ?」

「アレに野心はありません。領民にすら振り回されるお人好しですよ」

「振り回されているのはお前の方じゃないのか?」

傾けかけたグラスの液体が波打った。


「まさか」

「帰ってこないのが証拠だと思うのだがな。相手は魅了魔法の使い手なのだろう?」

「おとぎ話ですよ」

弟はそう言ったが、親戚から見合い話を奪った時点で興味を持っているのは明らかだ。


それは決して悪いことではない。

だが、ヨハンは知ってはいるが理解は出来ていない。


「せっかくだ。よく教えてもらえ」

「なんの話です?」

「女領主に野心はなくても、お前にはあるんだろう?」

仮面のような外面(そとづら)が剝がれかけ、わずかに高揚した笑みがのぞく。

久しぶりに見たその顔は、相変わらず気味が悪かった。


生まれた時は()()だったらしい。そして通常の子供より少し早く話しだし、両親や兄弟、使用人の名前をすぐに憶えて、本を眺めたと思えば、殴り書きで字を書きだした。

そして幼い弟は、気がつけば隣に居たのである。


兄弟が増えようと興味はなかった。

嫡男として弟たちとは別に育てられ、覚えなければいけない事が多すぎて気にする余裕もなかった。

だがこの時、普通ではない弟にハッキリと戦慄を覚えた。


ごぼう抜きにされた次男のデヴィッドはヨハンを嫌抜き、八つ当たりを繰り返した。

語彙数の多さから子供では会話にならなくなり、流暢に話すようになってからは

使用人からも距離を置かれた。

そうして高尚な家庭教師がつけられたが、家人の多くは()()のデヴィッドに同情的になった。


家を継ぐのは嫡男で、サポートするのは次男(スペア)

母と使用人が結託したため父も強く言えず、持て余されたヨハンにとって公爵家への婿入り話は渡りに船だと思っていた。

それが逆に篭絡されるとは……


「グラシ領主は夜会には出てこないのか?」

「壊滅的に腹芸ができないヤツでして…」

「お前がついていれば騙される事もあるまい。ドレスでも送ったらどうだ?」

するとヨハンは暗い顔で笑った。


「………兄上はドレスも宝石も花も喜ばない女を見たことがありますか?」

「ない。だったらお前はどうやって彼女の気を引いているんだ?」

「契約を取ってくると喜ぶんです」

手遅れなほど飼いならされていた………


「…あの場所が貿易拠点になれば物流が変わる。手綱は握っておけよ」

「言われるまでもありません」

果たして手綱を握られているのはどちらなのかと思ったが、ヨハンのヘーゼル色の瞳には未だ野心が灯っていた。


なるほど…狩りがヘタクソな飼い主に獲物を見せびらかしているワケだ。

それは追い込んだネズミとの間合いを図っているようでもあった。


『だがコイツは捕まえたネズミをどうする気なのだろうか』


子供の頃、背表紙が外れてバラバラになった本を、直しもせずに本棚に収めているのを見て「買い直すか、修理に出したらどうだ」と聞いたら

「その本だから壊すほど気に入っているのであって、手放す気はない」と言っていた。


あの本はきっと今も壊れたまま、鍵のかかったヨハンの書庫に収められているのだろう。


そう思うと、王太子の結婚式で一度だけ目にした、蝶のように踊っていた娘が

憐れに思えた。

ここまでお読みくださり、ありがとうございます。

では、第七章のあらすじです。


平和を祈るクリスマス。その当日に実行された作戦は再び災いの火種となった。

そして軍部の所属であるヴィルヘルムは元より、卒業を間近に控えたアカデミー生にも召集令が発令された。

さらに軍資金にあえぐ帝国は羽振りの良いゴルド地区を手に入れるべく、

大幅に戦力を欠いたノイトラールに攻撃を仕掛けてくる…そんな内容になっております。


よろしければ引き続きお楽しみください。

ここまで読んでくださったことに、心から感謝します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ