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家出公爵様がお帰りになりません  作者: 虚夢想
第六章 戦場にI'll be back編
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第84話 国境の町の聖夜

西に陽が傾くと、誰彼となくモミの木の下に集まった。


寒くないようにあちこちに篝火を焚き、みんなワンピース程度の軽装とジャケットで、料理人はコック服だったりする。


かくいう私はカーラ様の結婚式の時に着たドレスのリメイクとショール。

パニエと幾重にも重ねたレースを外してボリュームを抑えたら、随分スッキリとした。


それぞれが手にロウソクを持っているけど、全員に行き渡るには少し数が足りなくて、ビーネンさん一家は家族で一本を眺めている。


そして夕刻を告げる鐘が鳴り、音が反響する魔道具を取り付けたドームで、神父様の話が始まった。

厳かなミサの時間。でもじっとしていられない遊牧の民は松明を手に踊っている。


アルベルタの話では普通のクリスマスとは少し違うらしいけど、私自身が初めてのクリスマスミサなので、教会村のやり方をベースにいろんな地域の風習を統合してみた。


でも平和を願う気持ちが一緒なら、それで良いような気がした。



ミサが終わると広場のキャンプファイヤーに火がつけられ、準備が出来たお店から順次開店した。

クリスマス料理のみならず、もはや持ち寄りのような規模で各種家庭料理が鍋ごと並び、私もシチューを出していたりする。


炊き出し同様、料理がなくなったら終わりなのだけど、珍しい乳酒とヤギ料理に

人が殺到して最初に完売してしまい、南北伝統料理ガチ勢は、張り切っていただけにちょっと凹んでいた。


教会ブースではクリスマスプレゼントの古着が配給されている。


軍では新しい外套が配られたそうで、魔術棟と騎士棟の食堂入口にそれとなく

リサイクルボックスを置かせてもらい、ヴィル様とゲオルグのお兄様にちょっと

圧をかけてもらったら、善意の寄付としてはやり過ぎな量が集まった。

おかげで領民は温かく冬を超えられそうだ。


近衛騎士団長様へのお礼に、ノイトラール産のワイン生ハムセットを用意して

ゲオルグに届けてもらったら、定期購入の依頼をいただいたので、新しい売り方を模索している。



ある程度の食事を配り終えると、馬の彫刻が付いた楽器とバイオリンのセッションが始まり、遊牧の民が中心になって踊りだした。


レオン達は食べ歩きを楽しんで、アルベルタとブルーノは第二会場に行き、

さっきリジー先生とマルティナ博士が、それぞれエスコートされているのを見かけた。


「帰ってこねぇな…イブを忘れてるんじゃねぇか?」

声をかけてきたのはヨハンだった。


「ヨハンこそ、実家に顔を出さなくて良かったの?」

「両親と嫡男はゴルド地区の夜会に来てるからなぁ…」


その時、突然爆発音がした。

領民たちは慌てて森に逃げ込もうとし、私も咄嗟にしゃがみ込もうとしてヨハンに後ろから抱え込まれた。


「大丈夫だ!花火だ!」

ヨハンが叫ぶと領民たちも恐々(こわごわ)と空を見上げたが、繰り返す大きな音に誰も喜びはしなかった。


ゴルド地区(アッチ)ではウケてるんだろうぜ。

あそこには金積んで兵役を逃れてるヤツしか居ねぇから」


「…そんな事が出来るの?」

「上位貴族の嫡男なんかはやるな」

「………………」


「戦争をやりたい奴と、やらされる奴が違うから、おかしな事になるんだ」

ヨハンは皮肉を言うと、甘えるようにソフィアを抱き寄せた。


そして、

「待ちくたびれるくらいなら、オレと踊ってくれないか?」

そう囁いて懇願するような眼差しを向けてきた。


「あ、あの…」

答えようとすると腕がより狭まった。

判断は委ねてくれているけど、Noと言っても離してはくれなそうな雰囲気だ。

だがヨハンよりも先に、ソフィアの手を握ったのは、とても小さな手だった。


「ソフィアはエドと踊るのだぞ」


「エ、エドゥアルト王子⁈」

「ソフィア、あいつは何だ?」

「あれはラクダという生き物で…」


エドゥアルト王子にぐいぐい手を引かれ、顔をあげて気がついた。

少し離れた所にナニーのイサベラ様と護衛を引き連れた、明らかに高貴なご夫婦がいらっしゃる。


エドゥアルト殿下のご両親…つまり王太子殿下に次いで継承順の高いカール殿下とヴィクトリア妃。

そしてその背後から刺すような視線を向けるのは、ヴィルヘルムだった。


「………遅れるなら、もっと遅くに来いよ…」

しぶしぶ手を離したヨハンは、不機嫌そうに呟いた。



「お越しいただき感謝いたしますわ…」

エドゥアルト王子と手をつないで急いで挨拶をしようと駆け寄ると、カール殿下はそっと手を挙げ、それを止めた。


「この町は王族の名前も知られていないと聞いている。だから堅苦しくしないでほしい」

「かしこまりました」ドレスの裾をつまんで会釈をする。


「豪奢な湖畔の館もいいが、こちらは下町の祭りなのだね」

「はい。国境沿いという場所柄か、お祝いの料理ひとつ取っても多彩でして、お互いの良さを見つける機会になればと企画いたしました」


ツラツラと答えながら

『贅を尽くしたゴルドのお城でさえ邸宅にしか見えなかったかー』と金銭感覚の

違いに汗が止まらない。


「あの生き物には乗せてもらえるのかしら?」

見るとヴィクトリア妃のドレスにエドゥアルト王子がしがみついている。

どうやらラクダに乗りたいらしい。


冬でも遊べるプールと見たことのない動物がいると言われてついてきたのに、大人ばかりの夜会で早々にグズってしまったそうだ。


馬と違いラクダの乗り方は、前足を折って座らせた状態で跨ってからラクダを立ち上がらせるのだけど、背が高いうえにスゴく揺れる。

ヴィル様に目配せをするとエドゥアルト王子を乗せる手伝いをしてくれた。


遊牧の民の子供が支えるようにして一緒に乗ってくれたのだけど、それでも振り落とされそうな勢いにご夫妻も焦っていた。でもヴィル様がフォローしてくれた。


「やっとお戻りですな、グラシ卿。乳酒は取りおいてありますじゃ」

明らかに文化の違う羽飾りの族長が、気負うことなく声をかける姿に両殿下は

ラクダ以上に驚いていた。


「わたくしがこの土地にやって来た時には既に多種多様の人々が暮らし、それぞれの文化が根付いておりました。

ですので庶民街(カッパーエリア)はお互いを知ることを目的としております。

もちろんシュバイネハクセの貴族もおりますが、ここにはソレを受容できる人しか居ないのですよ」


広場では精一杯着飾った領民が、キャンプファイヤーを囲んで踊り、遊牧の民と

小綺麗な服を着た子供が滑り台で遊び、不思議な音色の民族楽器とバイオリン奏者がセッションをしていた。


画一的なルールはなく、同じ場所で同じ時間を、皆がそれぞれに楽しんでいた。


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