捕捉小話⑧ 3センチの永遠
「おい、今いいか?」
ブルーノ達トレッキングサークルが、渓流釣りのポイント近くに作った
『魂の解放温泉』が開放的すぎて丸見えな問題について話し合っていると、
ヨハンがソフィア様に声をかけてきた。
脱線して雑談になっていたから声をかけたのだろうけど、楽しい時間に水を差されたアルベルタは少し嫌な顔をした。
それは、元よりイェーリング家に嫌悪感を持っているせいもあるだろう。
多くの法学者を輩出しているイェーリング家だが、投資家としても有名で、
あちこちで講演も行っている。
そしてアルベルタの実家が融資を受けている家もイェーリングの傘下で、その家
こそが彼女を後妻に望んだ家だった。
だから直接影響を受けているワケではないのだけど、金貸しの親玉の印象が離れないのだ。
さらにヨハンはアカデミーでも有名な人物だった。
入学以来、主席の座を譲る事はなく、テストでは論文をコピペしたのかと思うほど句読点の位置まで正確に記載し、名だたる国家資格も一発合格。
学会発表前にヨハンに相談する教授までいるらしい。
優秀というウワサの方が多い反面、まわり過ぎる口と頭は狡猾な狐のようだと言われ、敵と見做されれば、魚の餌のサイズにまで社会的にミンチにされると言われていた。
そしてそのキツネの手が、明らかにソフィア様に伸びている。
紛争地域に近いアルベルタの実家は麻の生産地なのだが、事あるごとに工場が被害に遭い、借金返済の為に工場を動かしている状態で、しかも産業がなくなれば領民も食い詰めるという、領民全員の首がかかった自転車操業をしていた。
グラシ領には出稼ぎのつもりで来たのだけど、話を聞いたヴィルヘルムは小さな
工場を結界で囲み、有事の際に領民が避難できるように整えてくれた。
またソフィアも買い付けを約束してくれて、いくつもの商家を挟んで売っていた
麻布を、帝都価格で販売してくれた。
実家からも死ぬ気でお守りしろと言われているソフィア様を毒牙にかけさせるワケにはいかない……のだが
ソフィアを誘うヨハンの手が、腰のあたりでホバーハンドなのである……
別の日はエスコートしつつも、手は肩でホバーハンド。
また別の日は、揶揄う余裕を見せて額を小突くフリまでしながら決して触れない。
隣に座るのが精一杯。
むしろ意外とスキンシップ多めのソフィア様にたじろいでいる。
こいつビビりやん!
そう思って揶揄ったら、速攻ミンチにされかけた。
しかし触れられない。
さらに指摘されてしまった為か、
触れようと意識しすぎて、もはや動きがぎこちない。
そしてヒスイに完全ロックオンされた。
こうなったら私の仕事はない。
ブルーノと一緒にニヨニヨしながら見守ればいいのだけど、
そんなブルーノも気が付けばホバーハンドだった……
ここまでお読みくださり、ありがとうございます。
では、第六章のあらすじです。
建設期限が迫り、町として機能し始めた中立都市ノイトラール。
スポンサーはクリスマスパーティの準備を進めているけど、お披露目されるのは
貴族エリアのゴルド地区のみ。
そちらとは別に貧民街も楽しもうとイベントを企画をしていたら、
移民の集まりに近いカッパーエリアは習慣の違いから混乱が生じてしまった。
そして平和を祈るためのお祝いなのに、またしても不穏なウワサが広がり始めた…そんな内容になっております。
よろしければ引き続きお楽しみください。
ここまで読んでくださったことに、心から感謝します。




