捕捉小話⑦ そして脳に至る病
引くほど凝ったプロポーズを経て、気持ちが通じ合ったソフィアとヴィルヘルム
だったが、目の前にはサプライズの代償が残されていた。
ひとりがけソファくらいの大きさはあるだろうか…。円柱状に束ねられたバラの塊は、花束というよりステージのようだった。
「………あのバラ、何キロあるんですか?」
「ソフィアより少し重いくらいだ……本数に興味はないか?」
「セノーテから出す?いや…小分けにする?」
「バラの花束は色や本数で意味が変わるんだ。赤いバラは愛情、情熱、熱烈な恋、そして…あなたを愛しています」
「私もです。それでどうやって運び出しましょう?」
「雑ぅ…」耳としっぽが垂れたように見えた。
「嬉しいですよ。すっごく。でも、あのままだと枯れちゃいますよ」
大量のバラはスポットライトのような陽光を、これでもかと浴びている。
「……確かに、ロイヤルガーデンのバラを刈り尽くしておいてソレも……」
「ロイヤルガーデンのバラなんですか⁈」
「殿下の許可は取ったぞ。王都中のバラをかき集めても足りなかったから…」
「いったい何本…」
「999本!意味は生まれ変わっても貴女を愛します!」
バカみたいな事を、バカみたいに真面目な顔で言われて、それでも可愛いと思えてしまうのだから、私は間違いなく病気なのだろう。
とりあえず余計な事を言う前に抱きしめておいた。
その後、食堂で皆さんにバラのおすそ分けをしようとしていたら、ヨハンに止められた。
「ロイヤルガーデンのバラなんだろ?それで今、帝都はバラが品薄…」
「店では嫌がられたから市場をおさえた」
「お気持ちは嬉しいですが…やりすぎですよ」
花を飛ばすふたりに、なんとなく状況を察したヨハンは指輪に目をやると、
食事をしにきたビルングを呼び止めた。
「ドクター、アレを捌けそうなアテはあるか?」
「ロイヤルガーデンのバラなら、欲しがるものは多いだろうな。アカデミーには
調香師もいるぞ」
「よし、それだ!ばら撒くくらいなら有効活用してやる」
そう言ってヨハンとビルング、そしてバラの花束は、止める間もなく消えた。
「……………ビルング先生ってヴィル様が嫌がる事には全力で参加しますよね…」
「アイツ、結構根に持つんだよ…」
「なにかやったんですか?」
「もう覚えてない」
「そういうのって、やられた側は忘れないから気を付けた方がいいですよ」
翌日ソフィアはバラの品薄情報を流した途端に買い手がつき、しかも(一部は)
ロイヤルガーデンのバラという話題性で仕入れ値より高く売れたと上機嫌のヨハンから報告を受けた。
そして同じころ、売り捌かれた事がバレたヴィルヘルムは王太子に怒られていた。




