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家出公爵様がお帰りになりません  作者: 虚夢想
第五章 迷える羊は安息を望む編
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第76話 中立都市ノイトラール

「なにここ、サイッコー!若い男ばっかりじゃない」

リリィはそう言って応接室のソファに沈み込むと、満足げにため息を吐いた。

女性も当然のように同じくらい居るのだが、リリィの目には入らないようだ。


「オネェさんが来てくれて、みんな喜んでるヨ」

引きつった笑顔のヨハンは完全にショタモードで、必死にターゲット年齢から外れようとしている。

リリィが騎士科ばかりに食指を伸ばしたからだ。

しかし「ふぅん」とリリィに舐めるような目を向けられ、身震いしていた。


「それでその…引っ付いてんのが旦那なのね?」

ヴィルヘルムはバックハグのままソファに座ってリリィを睨んでいる。


「絶対に懐かないネコみたいでイイ!」

頬に手をやり目を輝かせるリリィにヴィルヘルムが泣きそうなほど反応し、代わりにチェルが威嚇の声をあげた。


「あげないわよ」

「人の男を欲しがるような悪趣味はないわよぉ。

アタシは純粋にイイ男が泣き叫ぶのが好きなんだからぁ」

「完全に愉快犯だもんね………」


リリィは月一程度でフラリと帝都にやって来ては、酒場の困ったお客さんを追い出すのに一役買ってくれていた。

まぁ、高確率で逃げ出すのはロルフ様だったみたいだけど…


「リリィの好みはピュアな反応をするマッチョだから、腹黒ヨハンは大丈夫だよ」

「どういう意味だ…てめぇ」


「とりあえず、このワインは売れるわ。

それとラクダの毛織物だけど、クオリティを上げられない?」

リリィはワイングラスを回しながら、既に品定めに入っている。

悪ふざけもするけど、根っからの商人なのだ。


「あとはハチミツと刺繍…」

「野菜や穀物は?」

「日持ちを考えるとねぇ。痛まずに帝都まで運べる方法があれば良いんだけど…」


「凍らせるのはどうだ?」ヴィルヘルムがポツリと呟いた。

「魔法で氷漬けにして帝都で解凍…」


「そんな事が出来るの⁈」

急にリリィににじり寄られて焦ったヴィルヘルムは、しどろもどろで答えてしまった。


「…………肉なら…ロルフが猪肉を食いたいと言うから…」

そして王太子殿下と三人でこっそり王城の庭でBBQを楽しんだと白状した。


「なにそのロイヤルランチ!

おいしそうに肉食べる、おいしそうなロルフ様が見たいィィィイイ!!」


「仕事サボって焼肉パーティしてただけじゃねぇか」

「…王太子様ってヒマなんですね…」


王太子殿下が焼肉を気に入ったので、氷魔法を付与した木箱を研究していたらしく、形になったらリリィ商会に売りつける事になった。



「それでアンタが欲しいのは、塩と香辛料と石鹸素地ね。貴族が好むようなキツい香りの石鹸だったら買い取るわよ」


「それなんだけど強い匂いは動物が嫌がるし蜂が寄ってくるから、しばらく滞在するなら使わない方がいいよ」

「動物って馬留の?」

「山の方に居るのよ。でも管理しているからルールを守ってくれれば危険な事はないから。北側の山にはトレッキングとクライミングのコースもあるよ」

するとリリィは腕を組みながら頬に人差し指を当てた。


「…ここ場所もいいし、拠点置かせてくれない?」

「いっそ専用の倉庫建てちゃう?ただし賃貸だけど…」

提案を聞き、すかさずヨハンが書類を取り出した。


「使用料はこのようになっております」

「さすがに用意が良すぎない?」

引き気味のリリィに「賃料取らないと経営難なのよ!」と言い返した。


「…この値段じゃ…レオンちゃんに裸エプロンでもやってもらわないと割に会わないわよぉ」

「騎士科にやらせたらどうだ?ヒマそうだし」

勝手なことを言ったヨハンにリリィが目を輝かせた。


それを慌てて止めようとしたのに、さらにヴィル様がダメ押しをしてしまった。

「確かにアイツには貸しがあるからな…」


その一言で生贄が決定した。



料理人にコック服。農家に麦わら帽子と長靴。

安全に清潔に作業をしてもらえるようにと、中古で集めた服を領民に配ったのは、余りにも皆さんの服が着古されていたから。


最初に服を持ち込んだのは意外にもヨハンで

「侯爵家の使用人服を新調したから」と譲ってくれた。


高位貴族になるほど寄贈の概念が強いので、倣うように古着が集まったのだけど、

使用人の割合と傷み具合から、どうしてもメイド服が多かった。


メイド服は基本、黒ワンピにエプロン。

そこで村人はエプロンを普段使いにまわし、ワンピースのスカートや襟に刺繍を入れ始めた。

鮮やかな刺繍が刺せる者は、工芸品を作る仕事にスカウトされたため、刺繍の腕はみるみる向上し、

やがて白ブラウスに刺繍入りのスカートとコルセットが村人のおでかけスタイルになると、今度はアカデミー生の方が真似をはじめて、より華やかな衣装に変貌していった。


教会村の服装も極力シンプルなメイド服にベールと着け襟。

あとはロザリオを下げれば完成。

ベースが大柄なシュバイネハクセ人の服なので、神父様もお直しを着られてしまった。

そして刺繍の名人に作ってもらった首にかける帯(ストラ)を下げればお古に見えない出来栄えになった。


門兵や警備兵も軍服のリメイクなのだけど、ベースが憧れの宮廷魔導士と護衛騎士の軍服だったため、希望者が殺到した。


とはいえ体力が有り余っている騎士科は、門番であってもただ立っているのが辛いと言い出したので見回りをしながら塀の上を走るようになり、

二人並ぶのがやっとの塀の上で繰り広げられるデッドヒートを応援するのが農村の風物詩兼娯楽となった。


さらに、とある領地でオーバーオールを作業着に採用している場所があったので

真似をしたら、丈夫で動きやすいと酪農系の人達が喜んだ。

だから深い意味はなく、イノシシを育てているレオン達にも進呈してみた。


筋肉が大きすぎて袖がジャマだと言っていた彼らをアルベルタがちょっと煽てたら、申し訳ないほど簡単に半裸オーバーオールになってくれた。


「心配なくらいチョロいですねー…」

「素直で腹ペコが騎士科男子のウリだから」

「なるほどー…これ以上のない生贄なんですね…」


笑顔で筋肉を見せつけるレオンを、肉食獣の目で森の陰からロックオンするリリィに汗が止まらなかった。



それぞれの村に居た職人たちも需要が高いカッパー通りに集まりはじめ、学生の指導を受けながら腕を磨き、逆に織物や陶芸、家具づくりが盛んなエリアには学生たちが出向き弟子入りをした。


夏から始まったグラシ領の開拓事業は、最初こそ面白がった学生であふれていたが、いかんせん華やかさに欠けるので、派手好きな上位貴族ほど足が遠のき

平民と変わらない暮らしで満足できる限界貴族と、やりがいを見つけてしまった

変わり者だけになっていた。


ギルドには職人や各種相談役の教授の札が下げられ、どちらかといえば商工会の色が強くなった。

リリィ商会が出入りするようになったので換金も可能になったのだけど、カッパーエリアでは未だに物々交換が盛んな状態。


そもそも食材を持って集まって、みんなで炊き出しを食べて解散みたいな世界観なのである。


ちなみに現在の領民特権は、昼の炊き出しと時々の衣料品の配給。

あとは週末診療と相談、温泉が無料。


メインの入浴施設は食堂裏手の丘の上にあって、ゴルド地区ほどではないけど

神殿風の大浴場と源泉サウナと週末美容室つき。


それ以外にも集落に井戸を掘ろうとして発見された温泉など、予期せず湧いてしまったものが沢山あって、みんな入浴ついでに近くの洗い場で洗濯をして帰っている。


トレッキングコースにもいくつか温泉があるのだけど、アウトドアサークルが野趣に富んだ温泉を好んで作っているらしく、ブルーノのジオラマが見るたびに作りこまれている。

こちらとしては山登りをしなくても領地の発展が解るから助かっているけどね。


大型野生動物もいない。趣味人しかいない。

そんなグラシ領に冬がやってきた。


完成期限のクリスマスを目前に、グラシ領は中立都市ノイトラールと名付けられた。


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